第567話 ミサトVSハク。序盤南東激突戦、終了。




 一方、〈3組〉リーダーハク対〈1組〉ミサトの対決も激しさを増していた。


「六の狐火に焼かれてや――『シックスフォックス』!」


「そんなのお断りだよ――『バリアウォール』!」


 キツネの形をした炎が六体ミサトへ迫るが、それは分厚い結界の壁に阻まれて防がれる。


「今度はこっちから、私だって攻撃魔法はあるんだからね――『シャイニングブラスト』!」


 ミサトは本来、回復や結界系の魔法が主体だが、少ないながらも攻撃魔法は持っている。

 三段階目ツリーの光属性の『ブラスト』系、巨大な光の光線が杖の先から放たれるが、しかしハクはそれを更なる攻撃魔法で迎撃した。


「そないな覇気の欠ける攻撃でうちを屠れるとは思わんことや。出でや大炎の狐火――『グラ・シャ・フォックズ』!」


 巨大で凶暴なキツネの炎が顕現する。

 それはハクの切り札の一つ。LV10という最高レベルの魔法。

 全てを呑み込む炎が膨大な質量を持って巨大な狐に形作れ、放たれた。

 それはミサトの光線にぶつかり、鬩ぎ合う。しかし、


「うっ、く、うそ!?」


 撃ち負けたのはミサトの方だった。


「攻撃のせめぎ合いでうちに勝てると思わんことや」


「きゃー!」


 光属性のブラストを打ち破った巨大キツネの炎が、そのままミサトに襲いかかり直撃した。

 しかし、ブラストによって威力が削られていた炎ではミサトの高RESを削りきることは出来ない。


「む、浅いか」


「うう、回復――『ハイヒール』!」


「これじゃ、決着がつかんなぁ」


 ミサトは本来ならヒーラーだ。せっかく減らしたと思ったHPもすぐに全回復されハクはため息を吐く。


「決着はつくよ、あなたの負けでね」


「確かに、このままではうちだけ削り倒されるなぁ」


 ミサトは回復できるのに対し、ハクは回復魔法を持っていない。

 アイテムならあるが、それでも持久戦じきゅうせんをすれば自分が不利なのは明らかだった。

 ハクが勝てるとすればミサトのMP切れを狙うくらいだが、ハクの攻撃魔法は範囲攻撃系、消費MPが非常に高く、持久戦には不向きと言わざるを得ない。


「まさかうちが敵わん相手が勇者君以外にいるなんてなぁ。ミサトはん本当にヒーラーかぁ?」


「失礼だよ。ちゃんとしたヒーラーだもん。さっきから回復してるでしょ」


「それにしたって戦闘に慣れすぎてる気がするんやけど」


「私〈戦闘課〉の〈1組〉だし、というか〈エデン〉だし」


「〈1組〉〈エデン〉はヒーラーですらこれかぁ? 魔境やな」


 ハクはちょっとげんなりした。

 確かにミサト相手ではハクは相性最悪だ。

 しかし、それだとしてもやりようはあると思っていた。だけどまさかヒーラーを相手に削りきれないとは思っていなかったのだ。

 そして本人は〈戦闘課1組〉ではこれくらい普通だとのたまっている。

 学年最強クラスとはこうも普通の度合いが違うのかと、ハクは学年最強の考えを改めた。


「しかし、ようわかったわ。うちだけではミサトはんを倒せんみたいやしなぁ。早々にあの子らと引き離したのはこれが狙いやったんな」


 ハクの言うとおり、ここにハクの取り巻き部隊はいない。

 リカとパメラの相手をするために、一つ隣のマスへと移動していた。(図Z-23)

 最初はハクの範囲の広い攻撃に巻き込まれないために移動したのだと思ったが、これはハクを倒すための戦法でもあったわけだ。リカとパメラではハクとの相性は悪い。そのことをよーく思い知ったハクは、自分が驕っていたことにも気がついた。


 このままではハクのMPが枯渇した所をリカ、パメラが襲ってきて終わるまで見えた。この辺が潮時かと察する。


「どうする? 降参する? それとも別に徹底抗戦してもいいよ?」


「安い挑発や。そないな話には乗らへん。うちは一度帰らせてもらうわ。あっちも、なんや不利みたいやしな」


 ハクが向く方向には〈8組〉と〈9組〉〈10組〉の戦闘が繰り広げられている。

 数では〈9組〉〈10組〉が上だが、司令塔であるはずのキールがどうやらやられた様子で、担がれるようにして運ばれており、〈9組〉のメンバーが浮き足立っていた。

 今は〈8組〉の強者であるリーダーメルトを始めとする幹部の者たちを、リーダージェイが押さえることでギリギリ戦線が崩壊せずにすんでいた。

 しかし、それも時間の問題のようだ。ジェイのHPがみるみる削られている。

〈9組〉〈10組〉メンバーは徐々に後退し、撤退の準備に入ってはいるが、それを〈8組〉は逃してはくれない様子だ。


 それを見て引き時と判断したハクは撤退を決めた。


「逃がすと思う?」


「ミサトはんは確かに耐久力で言えば折り紙つきやけど、うちを押さえるには力不足やわ。ほなさいなら~」


「結界の檻――『プリズン』!」


「打ち破りや豪炎――『豪炎狐火』!」


 撤退しようとするハクにミサトが相手を〈拘束〉状態にする結界の檻を発動する。

 しかしそれは発動後にハクの強力な炎の爆発によって吹き飛ばされた。


「楽しかったで~、また遊んでや、ミサトはん――」


「むう。待てー!!」


 声を上げてみるがそんなので待つ人はいないとミサトも分かっている。

 ハクは隣のマスへ移動すると、すぐに『炎の陽炎』を使って目くらませしつつ取り巻き部隊を回収して拠点がある北へ戻っていったのだった。



 ◇ ◇ ◇



「はぁ、ミサトはん、よかったわぁ」


 北へと撤退しながらハクは今の戦闘を振り返る。

 あの、何度やられても立ち上がるミサトの健闘に、密かにハクは胸をときめかせていた。

 端的に言えば超楽しかったのである。ハクはバトルジャンキーというほどではないが、戦いはそれなりに好きな方だった。しかし、同学年であれほどやり合えた相手は今まで居なかったのだ。


「こっちは散々ですぜ。2人やられて戦果ゼロでした」


「ほんでもマップの情報は手に入れたし、相手の戦力も少しは把握できた。クラスとして戦果は上々やわ~。やっぱり観戦するのと自分で手合わせするのとじゃ全然違いますわぁ」


「はぁ、楽しそうで良かったですね」


「もう最高やわ~! 次も会う約束してん、戦う約束もしてん。今からもう楽しみや~」


 まるで恋する乙女のようにハクは思いを吐露した。


 斥候の男はそうっすか、とでも言いそうな顔だ。


 こうしてハクは次の戦いに胸を躍らせながら撤退していく。



 しかし、その後に知ったのは〈9組〉と〈10組〉が壊滅的な大被害を受けた報告だった。




 途中経過――〈残り時間:3時間40分00秒〉

〈1年1組〉『残り人数:30人』『ポイント:0点』

〈1年3組〉『残り人数:28人』『ポイント:0点』

〈1年5組〉『残り人数:29人』『ポイント:0点』

〈1年8組〉『残り人数:28人』『ポイント:0点』

〈1年9組〉『残り人数:24人』『ポイント:0点』

〈1年10組〉『残り人数:26人』『ポイント:0点』

〈1年12組〉『残り人数:27人』『ポイント:0点』

〈1年51組〉『残り人数:28人』『ポイント:0点』




 ―――――――――――――

 後書き失礼します。

 残り時間3時間50分は戦いの最中で気がつかなかったということで、

 途中経過は序盤南東激突戦の決着後を表示しています。20分経過。

 


 近況ノートに添付で図を貼り付けました! こちらからどうぞ↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16816927861607955481


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