第557話 リーナとアケミと作戦会議。




 一方ゼフィルスから逃げたアケミはというと、とある出場者の控え室に来ていた。

 ここにはアケミが敬愛するとある御方がいる。アケミは中に入ると、すぐに秒でその御方を見つけ、その豊かな胸に飛びついた。


「リーナ姉さま~!」


「わっぷ! ってびっくりしましたわアケミさん。またですの?」


「だってだって! リーナ姉さま~、〈1組〉も〈8組〉も断られちゃって、うう、うわーんっ」


「はいはい。大丈夫ですわアケミさん。そんなに気を落とさないでくださいまし。お二人なら多分断るだろうと伝えたではないですか」


「でも~」


 うるるっとした視線でヘカテリーナを見上げるアケミ。その手はガッチリヘカテリーナの背中に回されて離れそうも無かった。

 ヘカテリーナは仕方ない子ですわねという仕草で頭を撫でて慰める。


「大丈夫ですわ。元々ダメ元と言っておいたではないですか。それに〈5組〉が加わってくださったのですから、これで戦えますわよ」


「う~、本当に?」


「ええ」


 ヘカテリーナにそう諭され、徐々に落ち着いていくアケミ。


 ここは〈51組〉の控え室。

 周りのクラスメイトたちは少しざわめくも、初戦、準決勝でもこんなことはちょこちょこあったためすぐに収まった。すでに見慣れた光景になりつつあるようだ。


〈12組〉と〈51組〉のリーダーたちが仲睦まじく話す内容は、決勝戦についてだ。

 ここまで勝ち上がっては来れたが、〈12組〉と〈51組〉以外のクラスはそのほとんどが優勝候補クラス。

 とてもではないがまともに正面から戦って勝てるクラスでは無い。


 故に〈12組〉と〈51組〉はお互いに手を取り合い足りない分を補おうと連合を組み、また他の優勝候補への対抗手段としていくつかのクラスには声を掛けていた。その甲斐あり、優勝候補の二番手、〈5組〉を連合に加えることが出来ていたのである。これで〈1組〉や〈8組〉に対抗することが出来るとヘカテリーナは考えていた。


 そこへ、やっと追いついてきた取り巻きのカジマルとワルドドルガが、ヘカテリーナに抱きつくアケミを発見する。


「おおい!? 何やってるんですかアケミさん!?」


「り、リーナの姉さま、この不出来なリーダーがすまなかったぞい!? 今引き離すんだぞい!」


「ちょ、あんたらやめて! 私とリーナ姉さまのハグを邪魔しないで!」


 ちなみにアケミを含め、彼らは全員平民である。

 カジマルもワルドドルガも「ひぃぃぃ」と言わんばかりの顔でアケミを引き剥がしに掛かった。しかし、アケミは断固としてヘカテリーナに抱きつき抵抗する。


 こうされると、無理矢理剥がせばヘカテリーナも巻き添えを食う恐れがあったためにカジマルもワルドドルガもどうすれば良いのか分からずあたふたした。

 そこへヘカテリーナから救いの手が差しのばされる。


「まあまあ、このままでもいいですわよ。いやではありませんし」


「リーナ姉さま~!」


「うう、リーダーがすみませんです」


「すまないんだぞい。このバカには後でキツく言っておくんだぞい」


 なぜかカジマルとワルドドルガは両膝を突いて「ハハァ~」と頭を垂れる。

 ヘカテリーナはそれを見てこほんと咳払いした。

 とりあえずその話はここまで、ということだ。


「こほん、頭を上げてくださいまし。頭を下げられても困ってしまいますわ」


 そう言われてはカジマルとワルドドルガも立ち上がる。


「それよりも、皆さん準備は順調ですか? 例のアイテムは?」


「任せるんだぞい。俺たちドワーフ部隊が完璧な仕上がりにしてみせるぞい」


「こっちも準備万端ですよ」


 ヘカテリーナの確認に、なぜかリーダーのアケミではなく取り巻きが答える。

 しかし、ヘカテリーナも二人に聞いているので問題は無い。いつもの光景だ。


「こちらも容量いっぱいまでアイテムを詰め込みましたわ。現地でお渡しいたしますので、頼みましたわよ。〈5組〉にも出来る限り持たせることが出来ましたわ」


「それは助かるんだぞい」


 着々と決勝戦の準備を進めるヘカテリーナたち。

 次の試合は決勝戦。

 準備しすぎて困ることは無い。

 ヘカテリーナの作戦は順調だった。


「リーナ姉さま、勝てるかな? なんでも言ってね。私、力になるから」


 アケミがヘカテリーナからやっと離れ、そう「フンス」と気合を入れて言う。

 それがどれだけ難しいかは二人のリーダーたちはよく知っている。

 だからこそヘカテリーナはこう答える。


「最善を尽くしますわよ。もちろん、勝つために、ですわ。そのためにはアケミさんたちにもやっていただきたい仕事があります」


「なんでも言って! リーナ姉さまの作戦に間違いは無いわ!」


 準決勝でもリーナの手腕にずっと頼りきりだったアケミはすでにリーナ信者だ。

 ヘカテリーナがやれと言えば疑いもなく躊躇なくやる。それでここまで勝ち上がってこられたのだから当然だろう。


 そんなアケミにヘカテリーナは順序立てて説明した。


「ではアケミさんに勝つために最も必要な、重要なことをお教えしますわ。それは情報です」


「情報……」


「そうですわ。情報を制する者が戦いを制すと言っても過言ではありません」


 ヘカテリーナの言うことは分かる。何しろ準決勝では圧倒的な〈竜の箱庭〉の運用を見たのだから。それがどれほど重要かは理解しないはずがない。


「ですが〈竜の箱庭〉だけでは勝てません。それは相手にも〈竜の箱庭〉クラスの強力な情報収集能力を持つ相手が居るからですわ」


「ええ!? 〈竜の箱庭〉と同格!?」


 アケミたちは心底驚いた。

 ヘカテリーナの〈竜の箱庭〉は別格だ。これ以上のものなんて絶対存在しないだろうと思っていたのに、それを相手も使っているという。


 自分の動きが相手に筒抜けという恐ろしさを想像してアケミたちは震えた。準決勝ではヘカテリーナの掌の上で転がされたクラスたちが、ほとんど何も出来ずに次々と敗退していったのだから。

 あれが自分に降りかかると考えると青ざめるのも分かる。


 しかし、順序だてての説明にはちゃんと対抗策も用意されていた。


「強力な情報収集能力を持つのは〈1組〉所属、「猫人」のカルアさんですわ。勝つためにはカルアさんをどうにかしなければなりませんの」


 カルアがいる限り〈1組〉には絶対に勝てない。だからこそ絶対に倒さなくてはいけないのがカルアである。


 ヘカテリーナはそこで一旦言葉を句切り、口に出した。


「まずはカルアさんを倒します。それには、あなたたちの力が必要ですわ」


 連合の狙いは、〈1組〉のカルア。

 ヘカテリーナはカルアを倒すための作戦を三人へと伝えるのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る