第555話 決勝戦の盤外戦?〈12組〉のリーダー現る。




 決勝戦当日、その日は快晴だった。

 実にクラス対抗戦日和びよりと言えよう。

 俺は自分の表情が緩くなっていることを自覚しながら第五アリーナへと向かっていた。


 いつも朝一緒のハンナは生産職のクラス対抗戦と〈生徒会〉の活動で忙しいらしくここ数日は一緒していない。

 そのため一人でゆっくり向かっている。今日までのクラス対抗戦を振り返りながら。


 今日はクラス対抗戦の最終日。楽しみではあるが、同時に今日でお祭りも最後となると少し寂しくもある。

 この一週間は本当に楽しかった。


 初戦から熱い展開の連続だったからな。

〈2組〉にもなかなか見所のある人が複数人いたし。あの「熊人」の女子と弓使いの二人なんか特に良かった。あの時退場してしまわなければもうちょっと戦っていたかったくらいだ。


 サターンたちも結構健闘して、いや、実際はそれなりにやられていたが、まあまあ活躍はできたのではなかろうか。


 他の課のクラス対抗戦も観戦したが、ゲーム〈ダン活〉時代とはやはり全然違う迫力に手に汗握った。とても見ごたえがあったぜ。



 準決勝も楽しい〈拠点落とし〉だった。

 さすがに初戦を勝ちあがってくるだけあって高位職ばっかりで強かったぁ。……あれ? 強かったんだっけ? なんだかあっさり勝ったような気もする。まあ気のせいだろう。

 しかし、バトル開始の瞬間って何であんなにテンション上がるんだろうな。テンションに任せて思わず三クラス同時に相手にしてしまったときはちょっとやばかったぞ。俺の筋肉にやらせろと主張が激しい筋肉たちを抑えさせているうちに指揮官リーダーたちへ同時強襲して事なきを得たが、あれが失敗していたら危なかっただろう。一人くらいやられていたかもしれない。


 初戦は退場してしまったサターンは準決勝では粘りに粘り最後まで残っていた。

 執念を感じるな。このままでは終わらないという執念を。このままサターンに渡した切り札を使わせずに終わることを切に願うぜ。


 準決勝の最後では〈1組〉はこのまま傍観するかどこかを落とすかで意見が分かれたのだが、〈6組〉から救援願いの使者が来たことで落とす方に舵が切られた。

 救援願いを受け入れ、〈18組〉の拠点を落とすことにしたのだ。


 ちなみにその救援願いの使者は、良い知らせを持って帰ることができて、とてもにこやかな表情で帰って行ったのだが、帰る途中でシズが仕掛けた地雷を踏んで退場していった。

 あれは悲しい事故だった。


 結局そのせいなのかは定かでは無いが救援は間に合わず〈6組〉は落とされてしまい、ほとんど直後に俺たち〈1組〉が手薄の〈18組〉を落として試合が終了した。

 すべての拠点を総取りする結果になったのは偶然なのだが、なぜか〈1組〉の策だとまことしやかに噂されている。


 いずれにしても楽しかったぜ。



 そんなことを振り返りながら歩いていると、三つの人影が前方を塞いでいるのに気が付いた。


「突然接触、失礼します。少し話を聞いてもらえませんでしょうか? 決勝戦のことです」


 三人の人影のうち俺から見て右にいた神主が着ている様な斎服さいふく装備に身を包んだ男が話しかけてきた。

 丁寧な話し方に足が止まる。


「えっと、誰だ?」


「くっ……!」


 どこかで見た覚えはあるのだが、思い出せなかったので聞いてみると、俺から見て左のレザー系装備のドワーフ男子が苦々しい顔で俯いた。

 いや、彼だけじゃなく他の二人も呆れたような顔と寂しいような顔をしている。

 なんか微妙な雰囲気が流れた。どうしたのだろうか?


 そんな中、真ん中にいた魔法使い風の女子が咳払いしてから話し出した。


「……こほん。私たちは決勝戦の対戦相手、そのリーダーよ。私は〈12組〉のリーダー、アケミよ!」


「僕たちは眼中にないのか……。ううっ……決勝まで残ったのに、……僕は同じく〈12組〉のカジマル」


「これくらいの屈辱……なんのっ! ワシも同じく〈12組〉、ワルドドルガだ!」


「ああ!」


 俺は掌にポンっと拳を落とす。どこかで見た事があると思ったらそうだ、次の対戦相手のリーダーとその取り巻きじゃないか! 遠目だから顔まではっきりわかんなかったんだよ。

 決して忘れていたわけではないぞ? その特徴的な装備はちゃんと覚えていた。


「お、思い出してもらえたようで良かったわっ」


 俺の反応に震え声でそう答える〈12組〉リーダー。

 見れば表情が引きつっていた。俺のせいでは、ないよな?


 ……とりあえず何の用か聞こう!


「それで、次の対戦相手のみなさんが俺になんのようだ? ハッ! もしかして宣戦布告か!? いいぜ、その勝負受けてやる!」


 聞いている途中でその目的に気がついた。優勝候補筆頭のリーダーを複数人で待ち構える理由なんてそう多くはない! 俺の灰色の脳細胞がギュインと回る!


「違うわよ!? というかなんで嬉しそうなの!? というかなんで宣戦布告を受けちゃうの!?」


 違ったらしい。


「こ、これが〈1組〉の、自信……!」


「くっ、ワシらなどものの相手ではないということかっ」


 三者三様の反応でおののく三人。あれ?


「その反応じゃ違うのか?」


「全然違うわよ! なんで残念そうな顔してるの!?」


 本当に違ったらしい。

 いやあ、だってなぁ。


 どうやら俺の勘違いだったみたいだが。

 しかし、


「えっとアケミさんか。君いいツッコミしてるなぁ」


「そりゃどうも!! こっちはなんだかすっごく調子狂うんですけど!? というか勇者君ってこんな性格だったの?」


「おう。良い性格だろう?」


「いい性格してるわね!」


 おかしいな。

 なんだか良い性格のニュアンスが違うような気がするが。きっと気のせいだろう。


「おいアケミよ。そんな雑談はよいから本題へ入れ、だんだん注目を浴びてきているぞい」


 ドワーフのワルドドルガが周りを見ながら急かしてくる。

 そういえば、何の用なのかはまだ聞いていなかったな。


「こほん。そうだったわね。危うく勇者君のペースに乗せられるところだったわ」


「……僕はもう乗せられていたように見えたよ」


「あ、俺名前はゼフィルスって言うんだよろしくな」


「ええぃやかましいわ! これ以上私を惑わせないで!」


 耳に手を当ててブンブン顔を振るアケミさん。

 せっかく自己紹介したのに聞く耳持ってくれない。本当に宣戦布告じゃないのだろうか?


「とにかく! 〈1組〉に提案があるの!」


 テンション高めなアケミさんがビシッと指を立てる。

 今度は口を挟まずにそれを見守った。


「私たちは〈1組〉に対し、連合を組むことを提案いたします。目的は私たち以外のクラスの排除。他にも何クラスか声をかけてあるの、あなたで四クラス目よ。半数が組めば他のクラスなんて敵ではないわ! どうかしら?」


 あ~。そうか。宣戦布告ではなく逆に取り込みに来たのか。今まで〈1組〉へそんな提案をしてきたのは、あの切羽詰った〈6組〉しかいなかったからな。その可能性はあまり考えてなかった。


 ちなみに盤外戦術で事前に手を組むのは有りなのかというと、無しではない、と言ったところだ。

 出来ればそういうことは盤上でやってもらいたいが、勝ち抜く枠が二つある以上、前回の試合で1位と2位のクラスが手を組んでいたとかは普通にありえる。じゃあ、それは事前に手を組んでいるのと同じじゃん、という話だ。故に無しではない。


 なるほど、しかし大きく出たな。確かに半数の四クラスが組めばまず負けはないだろうな。4位までは上がれると思われる。決勝戦で4位以上がほぼ確定の切符か。悪くは無い。

 だが、そりゃあちょっと面白くない。これは〈クラス対抗戦〉。しかも決勝戦だ。


 確かにどこかと組むことで勝利へと近づくことはできるし、場合によってどこかと手を組むのは有りだと思ってはいるが、最初から手を組むほど〈1組〉は腰が引けていないぞ。

 それに〈12組〉って、確か覚えがある。なら手を組んでいるクラスはあそこだろうな。もう一つのクラスは分からんが……、いやまさかな。


 まあ、いいだろう。

 もしこの予想があっていた場合、確かに脅威だ。恐るべき相手となるだろう。

 だが、それでもいい。強敵との対戦は面白いからな!


 ということで、俺の結論は決まっている。


「だが断る!」


 俺はその提案を却下した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る