第549話 準決勝相談中。1組いるけどどうすりゃいいの?




 年に一度の大きなイベントの1つ、〈クラス対抗戦〉。

 その〈戦闘課〉1年生の初戦、第一ブロックの戦いぶりはまさにまれに見る大激戦だった。

 制限時間4時間という少ない時間で勝者二クラスを除いた6拠点全てが陥落するのはまれと言って良い。

 にもかかわらず、このブロックはそれを僅か42分で成し遂げた。しかも高位職クラスが集中する激戦区とも言われていた第一ブロックで。この波紋は予想以上に大きいものとなって周囲へと広まっていく。




 場所はとあるラウンジ。完全防音の個室であるこの部屋は内緒話にうってつけだ。

 そこで今、とある2人の男子学生が話し合っていた。


「やはり、〈1組〉は勝ち抜くか。意外でもなんでもない評判どおりの結果だな」


「結果だけ見れば、だけどね。でもその過程はとんでもないものだったよ。まさかあれだけの戦闘をこなして脱落者はたったの4人。なのに〈1組〉が倒した数は70人を超える。本当にどうなってんだろうね学年最強って」


「間違いなく、優勝候補の最有力。あれを倒すには生半可な作戦ではダメだな」


「というか相手にしなければいいんじゃない? どう考えても荷が勝ちすぎると思うんだけど? これ見てよ? 〈15組〉と〈58組〉が47人体制で拠点へ攻め込んでおいて、〈1組〉20人に全滅してるんだよ? 〈1組〉の被害は3人だ。無理じゃない?」


「…………」


 なんとも凄まじい戦果が書かれた校内新聞を見せられ思わず黙る男子。

 彼の名前はジェイ。〈10組〉のリーダーである。

 その新聞には第一ブロックの戦況が、というより〈1組〉の行動が事細かに書かれてあった。〈1組〉対策にはとてもありがたい物であるが、同時に多くのクラスはこの新聞を見て頭を抱えることになった。


「これと同じ事が僕たちにも出来なきゃ勝ち目はないかな。でもさほら、ここ見てよ〈1組〉を相手にしなければなんとかやり過ごせそうだよ?」


 そう言って新聞を指さす小柄な男子学生、名はキール。〈9組〉のリーダーだ。

 彼は好奇心旺盛なのか、先ほどから悲観することなく、むしろキラキラした目で〈1組〉の分析を行なっている。


「今回〈1組〉が行なったのは短期決戦さ。いや、流れから短期で決着が付いてしまったのもあるだろうけどね。でも最初10分でこの動きの量。他のクラスとは比べものにならないよ。つまりは打てる手数の量が違うんだ。だけど動くにはそれなりの消耗も伴うんだよ」


 キールは研究者のような思考回路をしていた。端的に言えば頭が回る。

 故に対〈1組〉の戦法、戦術を練るために必要不可欠だと考え、ジェイはキールに相談していた。何しろジェイのクラス〈10組〉は第三ブロックを勝ち抜いており、準決勝戦で〈1組〉と戦うことになるからだ。

 第一ブロックの戦況を見るに、ジェイはどうやって勝ち上がれば良いのか皆目見当も付かなかった。キールなら何か思いつくだろうと、昔からの幼馴染に助けを求めたのだ。


 しかし説明をしっかりしてくれるのはありがたくもあるが、あまり頭が良いとは言えず、早く結論だけが知りたいジェイは難しい顔で先を促す。


「……つまり?」


「長期の戦いには弱い可能性が高いんだよ。みんな100の力を持っていたとして、それを4時間でじっくり使っていくわけだけど。〈1組〉の力の使い方は非常に大きい。すぐにとはいかないけど、数が減るのが早くて時間が経てば経つほど不利になっていくと思うんだよ!」


「…………つまり?」


「今回の短期決戦の原因は途中経過さ。みんなどこが動くか警戒しながら慎重に動いていた場面で〈1組〉のあの独走だよ。あれでお尻に火が付いたクラスたちが動き回ったからこそ力を早々に使い果たしてしまったんだ。でも見て! 最後まで動かなかったこの〈99組〉と〈116組〉はほとんど損耗もせず生き残り、しかも下位クラスとは思えない順位をたたき出している! この激戦区で! ただ動かなかっただけで! ――つまり、ここに勝機はある!!」


 やはり説明が長い。

 そう思いつつも、しかしなるほどと納得出来ることでもある。

 ジェイはキールの分析に一理あると考える。

 それほど、高位職クラスが五クラス、中の上クラスが一クラスいた激戦区にて、低の中クラスである〈116組〉が3位、中の下クラスである〈99組〉が2位というのは衝撃だったのだ。


 これは、他の強クラスが全て脱落させられたので繰り上がっただけの結果だが、逆に言えばただジッとしていただけで3位と2位になってしまったという意味でもある。


 高みの見物をしているだけで他のクラスはつぶし合い、自分はなんの損耗もせず温存しているだけで上位まで上がれる。

 なんとも素晴らしい。


「もちろん他のクラスもいるしそんな甘くはないだろうけどさ。この〈24組〉の戦法のように最初は待ちの姿勢で、後半に攻める方法が有効だと思うんだよね。〈24組〉の敗因は3つ、そのプライドの高さ故に湖に囲まれた立地という見つかりやすい場所に拠点を置いたこと、そして専守防衛に徹しきれなかった所だと思う。後は言うまでも無いけど同盟クラスとの仲違いだね。そこを改善すれば問題無いかな」


 キールは〈24組〉の戦術を推す。

〈24組〉はあの時専守防衛でじっくり構えているべきだった。〈2組〉の拠点300点という魅力に引っかかったからこそのあの結果だが、戦術自体は悪くなかったのだ。


「ポイントなんて〈1組〉の前ではなんの意味も無いよ。おそらく準決勝でも〈判定〉ではなく、6拠点が落ちての〈決着〉になるはずさ。2位が何点持っていようが関係ない。それは〈99組〉が証明しているしね」


「なるほど。では我々もどこかと同盟、もしくは共同戦線を組み、見つかりにくい場所に拠点を置き、専守防衛に専念するべきだと、そう言うことか?」


「良いんじゃないかな? 〈1組〉はガッチリ防衛している所には攻め込まない。〈24組〉の戦法をほとんどパクリしているけど、あの戦法かなり完成度高かったしね。本当、勿体ない。あそこで変なプライドを出すからやられちゃったんだよね〈24組〉。あのまま頑張っていれば―――」


「その作戦は、我々〈10組〉が受け継ごう」


 話が脱線しそうだったため、話の途中に割り込むようにしてジェイが宣言する。


「あっと、いやぁ悪いね。つい想像力が動いちゃうんだ。じゃあジェイに任せるよ。作戦を詰めよう、対〈1組〉の作戦を、いや決勝へ勝ち抜くための作戦をね」


「頼むキール。さしあたっては、どこと組めば良いのか、だ。キールに案はあるか?」


 そう言って準決勝の対戦カードが組まれた画面が表示されている〈学生手帳〉を見るジェイ。

 キールはうんうんと二度頷き、アドバイスを与えた。


「〈99組〉は論外。〈7組〉には以前〈エデン〉と確執のあったメンバーが何人か在籍しているからやめておいた方が良いね。〈6組〉と〈37組〉は力不足すぎて組むに値しないかな。〈1組〉相手じゃほとんど壁と変わらないしね。ということで残りのクラスは2つ。〈4組〉〈18組〉。僕のおすすめは〈18組〉かな」




 ――第一七ブロック。

〈1組〉〈4組〉〈6組〉〈7組〉〈10組〉〈18組〉〈37組〉〈99組〉。




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