第537話 実況。〈1組〉の拠点へ迫る〈15組〉と〈58組〉





 まさかの開始20分、〈2組〉最下位の結果に会場の観客席、実況席は大きくざわめいていた。


「ま、まさかここで〈2組〉敗退ー!!」


「本当にまさかの展開です! 優勝候補の一角とも見られていた〈2組〉がまさかの初戦敗退。しかも最下位です!」


「これはどこのクラスが勝ち抜くのか分からなくなって来ましたー!!」


 実況席で熱狂的に叫ぶのは、最近勢いに乗っている若き女性、ギルドバトル実況アナウンサー、上級職【マルチタレント】に就くキャスだ。その豪快で熱狂的な実況から急速に人気が高まっている。


「怒涛の展開です。高位職クラス3クラスから狙われてはさすがに〈2組〉といえど厳しかったですね。〈2組〉はナイスファイトでした」


 キャスの隣で冷静に実況しているのは相方である若きイケメン、上級職【貴公子】に就くスティーブン。この2人の実況は最近上位ギルドのギルドバトルで引っ張りだこになっていたが、今回は第一アリーナの誘いを断り、一年生激戦区のここ、第五アリーナへと実況に来ていた。


「〈2組〉もよく健闘しましたー! 〈24組〉の罠に掛かり〈45組〉との間に挟まれたときは全滅かと思いましたよー」


「ですが罠に掛かった〈2組〉もただでは終わりませんでしたね。14名が退場しましたが、相手も10人近く削りました。あの状況で反撃し、さらに4人も生き残って見せたのですから素晴らしい」


「特にあの〈2組〉リーダー、セーダン君! 殿しんがりを務めて味方を逃がす彼、かっこよかったー」


「その後すぐに〈1組〉との戦闘にも参加して1人倒しましたからね。〈2組〉のMVPはまさしくセーダン君と見ていいでしょう。残念ながらクラスとしては最下位ではありましたが、初戦第一ブロックで何かしらの賞に選ばれる可能性はありますね」


 2人の注目は今敗退してしまった〈2組〉、そのリーダーに移っていた。


〈2組〉攻防戦。

〈24組〉へと攻め入った〈2組〉だったが、それは罠だった。

 その後に攻め入ってきた〈45組〉との挟撃に遭い潰走。

 その時セーダンは可能な限りの味方を守り、その上で少なくない敵を撃破した。

 拠点に戻ってからはハリセン女子レミと巨大ハンマー使いのアディにすぐに来てくれと言われ、北側防衛ラインで三強ギルドの一角〈天下一大星〉のギルドマスターサターンを一撃で屠る大健闘だ。


 その後、追撃に出ていた〈24組〉と青のスカーフを巻いた〈45組〉による拠点襲撃に遭い、防衛戦力が足りず惜しくも拠点陥落。この時〈2組〉の生き残りは5人にまで減っていた。拠点が落ちた時点で生き残っている全員も退場するためセーダンやレミ、アディもすでに退場している。


 惜しくはあったが、セーダンの活躍は観客席を大きく盛り上げたのだった。


 そして、〈2組〉が陥落したことにより、事態が大きく動き出す。


「ああっと! さらに南で動きがありましたー! 〈1組〉が〈24組〉に躍りかかるー!! あ、北も動き出すみたいだー! これは、次に狙われるのは〈1組〉の拠点!? なんとここで〈1組〉拠点へ〈15組〉〈58組〉が攻め込む模様だーーー!」


「これは分からなくなってきました。それぞれ別で同盟を組んでいるところが〈2組〉陥落の報で動き出したようですね。南では〈2組〉を陥落させた〈24組〉と〈45組〉が、〈1組〉と争う形になっています。北では〈15組〉と〈58組〉が〈1組〉の拠点を襲撃する構えですね。接触はなかったはずですから、しくもタイミングが同じになってしまったのでしょう」


「まさか優勝最有力候補と言われた〈1組〉がここで敗れるのか! それとも跳ね返すのか! こんな序盤でどこのクラスも動きすぎだぞー!」


「これは目が離せませんね。激戦区第一ブロックは、まだまだ荒れそうです!」



 ◇ ◇ ◇



 場所は移りここはアリーナの北西付近、〈58組〉の拠点に〈15組〉の学生たちが多く詰め掛けていた。その中心にいるのは〈15組〉のリーダーナイヴス、そして〈58組〉のリーダーアトルトアだ。


「ナイヴス、情報を精査した結果、現在〈1組〉の多くが外に出ていることが分かった。攻めるなら、今が好機」


「助かる。こちらもほぼ全軍を率いてきたぞ。やるなら今しか無い」


「しかも〈2組〉がいつの間にか落ちてる。〈24組〉や〈45組〉も減ってるし、しかも〈2組〉を落としたのは〈24組〉ときている」


「今なら他のクラスに邪魔されることもない。〈99組〉と〈116組〉にも話はつけた。我らが〈1組〉を攻めている間、手出しはされない」


「どうせなら〈1組〉攻めに参加してくれればよかったのだがな。戦力は多ければ多いほどいい」


「仕方あるまい、戦力に差がありすぎる。声を掛けたところで肉壁になれとしか聞こえないだろう」


 2人のリーダーが静かに闘志を燃やしながら話していると、そこへ報告が舞い込んできた。


「お待たせしました! 〈58組〉準備が整いました!」


「こちら〈15組〉も準備完了です」


「待っていたぞ。この戦力で当たればさすがの〈1組〉とて数の暴力は防ぎきれまい」


 報告を聞いたナイヴスが立ち上がる。アトルトアもそれに続いた。


「では手筈どおり、〈58組〉は南から回り込む」


「うむ。我ら〈15組〉は東から攻め入る。勝つぞ!」


「おう! ――みんな、ようやく反撃の時は来たぞ! 5名を予備人員として残し、戦力の全てをぶつける! 行くぞ!」


「我らも出番だ! 〈1組〉を打倒するときは今だ! くぞ!!」


「「「「「おおおおおおおおっ!!」」」」」


 リーダーたちの掛け声に学生たちが沸き立つ。


〈1組〉の防衛ラインは2箇所。南側に1つ、東側に1つ。


 南側には〈58組〉のほぼ最大の動員数たる25人を送り込む。余力は考えていない。全力で挑まなければ〈1組〉には勝てないと身を持って知っているからだ。


 東側から攻めるのは〈15組〉。最初に3人を倒されてから、〈15組〉は本気で〈1組〉を倒そうと決めていた。打算ももちろんあるが、このままではどの道勝ち抜くことが難しいと分かっているからだ。


 ブロックの勝ち抜き枠、その一枠の最大の候補だった〈2組〉が陥落した今、状況は大きく変わった。


 しかし〈15組〉は静観するわけには行かない。斥候も弱体化し、一クラスでは手を組んでいると思われる〈24組〉と〈45組〉には敵わないからだ。

〈58組〉は依然として〈1組〉の脅威にさらされており、いつ襲われて退場するか分からない。

〈1組〉か、〈24組〉〈45組〉か、どちらかを倒す必要があった。〈58組〉が生き残って居るうちに。


 そんな背景もあり、〈15組〉と〈58組〉が選んだのは、最初から狙いを定めていた〈1組〉となった。

〈1組〉を倒せば399点が手に入り、一気に一位の座へ躍り出ることも可能。

〈15組〉はこのチャンスで勝負に出た。ほぼ全戦力の22人を導入して東から攻め込まんとする。



 ◇ ◇ ◇



 対する〈1組〉は現在拠点に14人。

 普通であれば拠点を落とされてもおかしくない人数差だった。


 しかし、一年生最強クラスの名は伊達ではない。

〈15組〉と〈58組〉が攻め入ろうとしているという情報は、すでに〈1組〉に伝わっていたのである。


「カルアの猫ちゃんは本当に優秀よね」


 そんな王女様の声だけが妙に鮮明に響いていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る