第535話 勇者からは逃げられない。驚異の5人抜き。





「エステル。新装備のお披露目だ」


「はい! 一番槍、行きます。――『騎槍突撃』!」


「ぐあぁぁ!?」


「新手か!?」


「うお、なんだあの装備は!!」


「かっこいい……」


 エステルが装備するのは〈戦車〉装備、――〈蒼き歯車〉。

 そのスピードある突撃に何人かが吹っ飛ばされた。

 驚愕の視線がエステルに注目する。


 いいのかな? そんな余所見していて。

 ほら、注目する相手はエステルだけじゃないぜ?


「続いて行くデース! ――『毒手裏剣』デース!」


「え? あぁぁーー!? 刺さったぁ!? 手裏剣が刺さったぁ!?」


「大丈夫、刺さって無いデース!」


「行くぜぇ―――『ソニックソード』!」


「ぐおぉ!?」


 パメラも遠距離攻撃で奇襲、さらに俺も攻撃を加え1人を退場させることに成功する。


「警戒しろ! 〈1組〉が仕掛けて来たぞ! 1班は〈天下一大星〉そいつらを押えろ! 残りは俺に続け! 一点を速攻で撃破する!」


 セーダンが〈天下一大星〉に向かうのを止め、俺に向かって来るようだ。


 その判断は正しい。

 俺たち〈エデン〉を押さえないと〈2組〉はヤバいだろうしな。


「勇者、〈1組〉のリーダーだな? ならばあんたを倒せば〈1組〉は瓦解する!」


「さすが〈2組〉のリーダー。その判断はむっちゃ正しい。だが残念かな。それは倒せればの話だぜ?」


「その通り、しかし、すでになりふり構っていられる状況ではないのだ! みんな数で一気に押すんだ!」


 いいねぇ。

 現在〈2組〉は見たところ7人いる。少ない。いや多いのか?


 しかし、攻め込んだ〈1組〉は合計9人だ。今は8人だが。

 つまり人数で負けている。

〈バリケード〉も突破されたからにはもうリーダーを狙うくらいしか早期決着の手が無い。


「勇者、覚悟! 『ブリッツナックル』!」


「それには及ばないな。『受け払い』!」


 セーダンが素早く鋭い拳で俺を狙うが、そこに割り込んだリカが冷静に攻撃を防いだ。


 金属同士がぶつかるガキンという音が響く。


「何!?」


「セーダンだったな。悪いがリーダーを押さえられて困るのは〈2組〉も同じ事だぜ? そしてセーダンを押さえるのは、別に俺じゃなくてもいい」


「くっ! 『ダッキング抜け』!」


「行かせるか! 『横文字二線』!」


 セーダンがダッキングしながらリカを抜こうと試みるが、残念ながら生粋の防御タンクであるリカはその程度では抜けない。


 また、確かにセーダンが言うとおり俺を倒せれば〈1組〉の勢いが減り〈2組〉有利へとなる。かもしれない。

 しかし、多分だが俺と単独でいい勝負できる人材が〈2組〉にはセーダンしかいない模様だ。

 ならば〈1組〉としては、一番強く、またリーダーでもあるセーダンを押さえてしまえば〈2組〉の勢いはガタ落ちしてしまうだろう。

 そして、セーダンを押さえられる人材は俺以外にもいるので、俺が出るまでもない。


「くっ、ならば吹き飛ばせば! ――『パワーパワーパワー・ナックル』!」


「溜め攻撃は私には効かん! ――『弾き返し』!」


「何!? これを相殺するだと!?」


「この程度、ボスモンスターで慣れているからな。――『十字斬り』!」


「『クロスアームブロック』! ――『クロスカウンター』!」


「『切り払い』! ――『ツバメ返し』!」


「ぐあぁぁ!?」


 溜めを必要とするが非常に強力な吹き飛ばし効果のあるナックルがリカを襲うが、リカはこれを完全に防ぎきった。

 刀と拳が合わさり盛大に火花が散り、セーダンが怯んだと同時にリカが反撃に出る。

 セーダンは腕を十字にしてガード、その後素早くカウンターを狙うが、これもリカの左手の刀により払われ、ここからさらにリカのカウンター返しの『つばめ返し』が発動、払われて体勢が崩れたセーダンのガードは間に合わず、直撃した。


 さすがはリカだな。

 セーダンを相手に有利に立ち回っている。


「くっ、ならば三点連打攻撃なら! ――『三拳脚』!」


「ふ、連撃はすでに対策済みだ。―――『三連ニャ切り』!」


「ニャ切り!?」


 ガンガンガンッニャンニャンニャンッ

 セーダンの拳と蹴りをリカが冷静に打ち落とす。見事だ。

 何か追撃中ニャンニャン聞こえた気がしたが、気のせいだろうか? セーダンの顔が驚愕に見開いているのは打ち落とされたからなのか、はたまた別の理由からなのか判断が難しいぞ。


 しかし、それはともかくリカは〈名刀・猫鈴華ねこすずか〉を手に入れて腕を上げたな。前は連撃が弱点だったが、リカも三連撃ではあるが連撃を手に入れたことにより対処ができるようになったみたいだ。



 セーダンはリカに任せても大丈夫だ。俺も全員に指示を出す。


「ここは俺とリカが受け持つ! エステル、パメラ、〈天下一大星〉は〈2組〉拠点へ向かうんだ!」


 すでに防衛ラインの中だ。ここで足止めされるなんて愚策である。

 それに俺とリカ、そして〈バリケード〉の外に居るミサトが居ればおそらくここにいる7人は問題なく相手に出来ると判断した。


「! 了解しました!」


「まっかせるデース!」


「ふふ。ならばここはあなたに譲りましょうゼフィルス。拠点のことは僕に任せてください」


「土産は期待していていいぜ! 俺が拠点を取ってきてやんよ!」


「俺様を忘れてもらっては困るぜ! 俺様が拠点を落としてこよう!」


「な! 待て!」


〈1組〉の5人は〈2組〉をそのまま無視し、拠点がある方向へと駆け出す。

 数人が追いかけようとするが、


「おっとここを通りたければ俺を倒していくんだな」


 そこへ俺が回り込む。

 知っているか? 勇者からは逃げられないんだ。




〈2組〉、セーダンを抜いた6人は一瞬呆気に取られたような顔をしたが、すぐに目標を俺に変更して襲い掛かってきた。


「〈2組〉の拠点にはまだ仲間が居るわ! 後は彼らに任せて私たちは勇者を討ち取るのよ!」


「「「「「おおおーーー!!」」」」」


 あ、そういえば〈2組〉の狙いは俺だったな。

 俺がインターセプトをしたはずなのに、逆に〈2組〉の狙いが自ら前に出て行ってしまった構図。

 ――不思議!


「〈1組〉のリーダーよ! 数で押すわ! みんな、行くわよ!」


「やってやる、やってやるさ!」


「ここで討ち取れば俺たちが有利になるぞ!」


「いやあ団体様だなぁ~」


 俺の目の前には6人の学生たちがいる。

 というより襲い掛かってきた。

 数で押し勝つ作戦のようだ。

 あのハリセン女子もやるなぁ。


 俺大人気じゃん!


「いいのかねぇ、拠点より俺にこんなに割り振って、さ」


「みんな頑張って! セーダンの言っていた通りよ! 〈1組〉のリーダーさえ倒せば勝てるわ!」


「うおおおぉぉぉぉ!!」


「その狙いは悪くないぜ。だが、全てのステータスがオールマイティに高い俺からすれば、その程度の実力、何人来ても変わらない!」


 まずは足を使い、素早く動く。


「な、なんだあの速さは!?」


 AGIの数値的には〈エデン〉の中で俺は3番目だが、それでも補正値込みで460を超える。これは相当高いと自負している。

 速度特化ステータスじゃないと追いつけない速さなんだぜ?


「俺に任せろ! 『魔槍まそう:ブーストアタック』!」


「お、【魔槍士】か。だが残念ながら、スピードだけあってもな『ソニックソード』!」


 スキルの力を使い超スピードで駆け回る俺に追随し肉薄してきた【魔槍士】だったが、残念ながら、俺の持ち味は素早さだけではない。

 攻撃を横に回避し、そのまま素早く後ろに回りこんで斬る。


「な、消え――ぐあっ!?」


 俺たちの速度に追いつける人は他にいない、余裕を持って1対1の状況を作りだす。


「スピード特化型のアタッカーってAGIとSTRを主に育てるから防御力が低いのが欠点なんだよ。【勇者】に欠点なんて無いけどな。『ライトニングスラッシュ』!」


「アビャビャビャバァァ――!?」


 二撃。

 俺の『ソニックソード』と『ライトニングスラッシュ』の直撃を受けた男子のHPがゼロとなり、足下に転移陣が現れて退場する。

 俺の攻撃力と彼の防御力を加味すれば当然の結果だ。


「ば、バカな!?」


「うそ、こんな簡単に!?」


 しかし、〈2組〉の動揺は激しい。

 彼らからしたら一瞬で仲間が退場させられたのだ、思わず足が止まるよなそりゃ。

 だが、ちょっと隙だらけだぜ。俺はまた剣と小盾を持った1人を狙って駆けだした。


「そこ、隙有り!」


「な、こっち来た!?」


「防いで!」


「うおぉぉ『ボーンガード』!」


 骨系の小盾を装備した剣士が慌てて防御スキルを発動する。

 しかし、それ発動が早すぎるぜ。

 俺はスキルをまだ使っていなかったのでそのままダッシュで剣士君をすり抜け後ろに回り込んだ。防御スキルを使ってしまった剣士君はスキルアクション中で動けない。


「あ、ヤバい!?」


「スキルの認識が甘いぜ。『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


「ぎゃあぁぁぁ!? 」


「返す刀の、『ハヤブサストライク』!」


「あああ!? ―――!?」


 これでまた1人退場。

 今のは明らかなスキル発動ミスだな。

 相手が迫ってきているだけで防御スキルを発動すると、こうなる。

 わざわざ防御スキルを発動している相手に斬り込むなんて普通はしないからな。

 対処としては後ろに回り込むとか、防御スキルが切れるタイミングを狙って攻撃するだけで崩すことが可能だ。後ろに回り込めれば素早い攻撃なら2撃は無防備に食らわせられるぞ。


 そこからさらに近くにいたもう1人を狙う。今度は魔法使いっぽい男だ。


「うわあぁぁ!! 『アイシクルジャベリン』!」


 狙われて錯乱した男子が3本の氷の槍を放ってくるが、狙いが素直すぎる。

 せっかく3本も出しているのに狙っているのが同じ場所とか、ダメダメだ。

 横にズレて射線から回避し、詰め寄って斬った。


「――『聖剣』!」


「ぎゃあぁぁぁ!?」


 防御力紙装甲の魔法使いだ。四段階目ツリーの『聖剣』で一撃だった。


「一撃だと!?」


「これが勇者の力なのか!? 強すぎるぞ!?」


 今のが一撃だったのは四段階目ツリーのスキルだったのもあるけどな。

 しかしこうも決まると気持ちいいぜ。残り3人だ。


「ふ、2人とも固まって! 協力するのよ!」


〈2組〉は動揺から立ち直り、1人になるのはマズいと固まろうとする。うむ、残念だがそれは悪手だ。勇者の力は接近戦だけじゃない。――魔法も得意さ。


 残り前衛っぽい男子たちに剣先を向けて魔法をぶっ放す。


「『シャインライトニング』! 『ライトニングバースト』!」


「なにっ!? ――『メタルシールド』! ぐががが!?」


「なんの! 『剛剣』! あびゃびゃびゃ!?」


 なんとか防ごうとしたようだが、防御スキル『メタルシールド』でもそれなりにダメージは入るぜ。

『剛剣』で斬ろうとした人はナイスガッツだ。でも残念ながらそれでは防げないぞ?


 俺は直撃を受けて体勢を崩した『剛剣』を使った大剣使いに肉薄する。


「『属性剣・火』!」


「ぐっ、マジか、間に合わねぇ!?」


「火と雷の天罰――『ライトニングバニッシュ』!」


 硬そうだったためこの人にも四段階目ツリーのスキルをプレゼントだ。


「ぐおおぉぉぉ!? だ、ダメージが高すぎる。一撃でHPが―――」


 一閃。『属性剣・炎』を加えたことにより2属性の強力な一撃が彼を襲う。

 目で追えないほど素早く振りぬいた剣に斬られ、一瞬の硬直後、雷と眩しいほどの光が降り注ぐ。天罰の一撃が大剣使いのHPを一瞬でゼロにし、そのまま退場してしまう。


「さて次は、――あれ?」


『メタルシールド』の大盾使いがいた位置に目を向けるがそこには誰も居なかった。

 しかし、〈2組〉の拠点の方角を見ると、――見つけた。


 大盾使いはこちらに背を向け全力で逃げに入っていた。


「まずいまずいまずいまずい! なんだありゃ強すぎるだろ!? セーダンがいないと勝てる訳が、勇者ってあんな強いのかよ―――!?」


 しかし、その言葉は長くは続かなかった、後ろから凶悪な魔法力を誇る【救世之勇者】の四段階目ツリー魔法『サンダーボルト』が襲いかかったからだ。


「逃げるのも時には必要だが、残念ながら勇者からは逃げられないんだぜ?」


 5人目。

 元々ダメージも入っていたし、RESも低かったのだろう。防御することもなく後ろから射貫かれた大盾使いはそのままHPがゼロになっていた。追撃しようとしていた手を止め、最後の1人に向きなおる。


 最後の1人はあのハリセン使いの女子だった。今はハリセンは持っていないが。


「げ、やば!? セーダン撤退! 拠点まで逃げ込むわよ!」


 ハリセン女子が叫ぶ。すでにこの場防衛ラインは崩されているからな。拠点まで下がるのは分かる。

 だが、もうちょっと早く決めるべきだったな。


「よし、クールタイム終わり。これで決めるぜ『ソニックソード』!」


 撤退を叫びながら後退するハリセン女子に俺が迫る、が、そこへ横から巨大なハンマーが割り込んできた。『直感』が警報を鳴らし、『超反応』スキルが発動する。


「『クラッシュハンマー』!」


「あっとやば!」


 俺は『ソニックソード』の狙いをハンマーに変更し振りきった。しかし、無理矢理変更したため完全に相殺に持ち込めず、弾かれる。しかし『超反応』のおかげでダメージは微々たるものだ。


「おっと、やるなぁ」


 体勢だけ崩れないよう意識しながらバックステップし、攻撃してきた女子に視線を向ける。


「――行かせないから」


 そこにいたのは巨大ハンマーを手に持つ人種カテゴリー「熊人」の少女。

 アホバカマヌケーと男子を叱咤していた少女だった。




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