第532話 〈58組〉と〈15組〉。勢力図が固まっていく。




 時は少し巻き戻る。


 会場の北側。

 北にはところどころに点在する崖山が見通しを悪くする山岳地帯だ。


 この北側に拠点を構えるのは3クラス。

 西側に2つ、東側に1つの拠点が立っている。


 北西には崖の山脈があり、それを挟むようにして〈1組〉と〈58組〉の拠点が、そして東側の一際大きな大山の麓には〈15組〉のクラスの拠点があった。


 北側にあったせいかは定かでは無いが、早々に〈1組〉から襲撃を受けたために、現在北側は混乱のさなかにあった。


 ある拠点。開始早々に拠点を襲撃された〈58組〉のクラスではその混乱が最も顕著である。


「くそっ!? よりによって向こう側にいるのは〈1組〉で、今の所同盟を組む予定は無いだと!? 完全に裏目じゃないか!」


 使者から報告を受けた〈58組〉リーダー、アトルトアが荒げた声を出した。


 このブロックで最も警戒すべきクラス、〈1組〉に試合開始のほぼ直後に攻め入られ、抵抗もむなしくほとんど一方的に点を掠め取られた〈58組〉は、その内容に嘆くしかなかった。

〈1組〉が勝手に引き上げただけで、とても〈58組〉が迎撃できたとは言えない内容だったからだ。



 そもそもこの場所、山脈に挟まれてはいるものの、他のクラスの拠点とかなり近い位置に拠点を構えたのは、お隣さんと同盟を組むためだった。

 自分たちは中位職クラス、強大な高位職クラスがたくさんいるブロックで勝つためにはどこかと手を組むのがセオリーだ。


 そしてこのブロックだ。

〈1組〉と〈2組〉がいる激戦区。

〈58組〉という、例年なら10組台、20組台でもおかしくない戦力を持つこのクラスではあるが、さすがに難易度は高いと言わざるを得ない。


 故にセオリーに従い、リーダーは他のクラスとの同盟を真っ先に組むために、ある拠点のそばに自軍拠点を築いたのだった。多少自分たちが不利な条件でも同盟を組める方が大事だからだ。


 一度は攻め入られたが人的被害は無かったし、〈58組〉としては〈1組〉と争う気は無い、むしろ手を組みたいと自分たちの考えを知ってもらいに使者を出した。



 そして結果はごらんの通りだ、―――やっちまったぜ!?



 使者に対応したのはシェリアとシエラだったが、同盟の話は普通に断った。

 断った理由は最高責任者クラスリーダーであるゼフィルスが不在で勝手に決めていいものではないから、だったのだが、そこまでの情報は使者には伝えていない。リーダー不在は立派な情報。簡単に打ち明けるわけにはいかない。


 そんなこともあり、〈58組〉は〈1組〉に同盟を断られたと思い込んで頭を抱えることになったのだった。


 これが〈2組〉であればまだやりようはあったものをと〈58組〉リーダーは嘆く。


「うおぉぉ……。こいつはまずい。本当にまずい。次に攻め入られれば終わる……」


 頭を抱えるリーダー。〈58組〉は26人もいて、半分以下の〈1組〉に手も足も出なかった。

 確かに突然の奇襲に浮き足立っていたのは認めるにしても、あんまりな戦果だ。


 しかも、〈1組〉の本拠地は目と鼻の先。いつでもまた襲撃できる。

 モンスターのストックが回復する20分後が凄く不安だ。


 正直、とても、まずい。

 致命的と思うくらいに。


 しかし、そこに人影が駆け込んでくる。それは開始早々に出発していた哨戒の1人だった。


「報告します! 東の〈15組〉から同盟の打診を貰って来ました! 使者殿もお着きです!」


「ナニィ!? でかしたぞ!!」


 ここに来て吉報が舞い込んできた。

 それは〈15組〉、つまりこの激戦区にてナンバー3のクラスからの同盟の打診。

 追い詰められていた〈58組〉リーダー、アトルトアはこれに飛びついた。


「すぐに会う! 丁重に、丁重にご案内するんだ!」


「はい!」




 そのまま使者と会う。早急に丁重にお連れしてくれとの指示で警戒のけの字も蹴飛ばしての邂逅だった。


「自分は〈58組〉のリーダーを務めているアトルトアという。使者殿、よろしく頼む」


「迅速な行動に感謝するアトルトア殿。俺の名はナイヴス。〈15組〉を纏めている者だ」


 その返しにアトルトアは目を見開いた。


 つまり使者とは名ばかりで、この者は〈15組〉のリーダーだというのだからそれも当然だろう。

〈15組〉リーダーは【剛力戦熊いくさぐま】の職業ジョブに就き、人種「熊人」のカテゴリーを持つ筋肉ムキムキの男だ。頭には巨体に見合わない小さな丸い耳がついている。


 他に黒装束を身に纏う怪しげな【忍者】を1人連れているのみで、〈58組〉の拠点に乗り込んできたのだ。もし襲われたら大事なリーダーを損失してしまうのに、いったいどういうことなのか。アトルトアはチャンスと思うよりまず困惑が勝った。


 しかし、アトルトアはその疑問を呑み込んだ。ナイヴスの表情に焦りのようなものを感じたからだ。そんなことより今は重要なことがある。


「色々聞きたいところだが、細かいことは後ほどで。その様子だと話とは同盟、対〈1組〉のことと考えてよいか?」


「さすがに分かるか。そちらも大きくしてやられたようだな」


「なるほど、つい先ほどの途中経過、〈15組〉が『残り人数27名』になっていたのはやはり」


「ああ。こちらの斥候部隊が手痛くやられた」


 ナイヴスがチラリと黒装束の【忍者】を見る。


〈15組〉が慌てたようにしてやって来た理由は、まさに〈1組〉との邂逅のせいだった。

〈15組〉が密かに計画していた忍者・・部隊の暗躍計画が試合開始5分で頓挫したのだ。残り時間が3時間55分もあるのに。


 すでに人数という面で他のクラスより負けている〈15組〉は、情報収集班を早々に潰されたこともあってなりふり構っていられない状態となっていた。

 斥候部隊を潰された〈15組〉が負ったダメージは想像以上に大きい。


「〈1組〉に99点が入ったのは、〈58組〉だな?」


「ああ。まさに電光石火の早業、それでいて嵐のような災害だった」


「しかし、人的被害は出ていないようだ、斥候は使えるだろう?」


 人数差で他のクラスに負けている〈15組〉がなぜ〈58組〉と真っ先に同盟を組もうとしたのか、その理由がこれだ。

 いくら〈15組〉であろうとも、情報収集班が潰されたこの状態で〈24組〉や〈2組〉の相手をすればただではすまない。〈45組〉が相手だった場合も、下手をすれば死力を尽くすことにもなりかねなかった。そのため同じく被害を被った〈58組〉に目をつけた。

 同じ〈1組〉から攻撃されたという共通の危機感が連帯感を生み、上手く歩調を合わせられると思ったからだ。


 さらに言えば、この〈58組〉拠点は対〈1組〉を相手に理想的な位置にある。

 上手く睨み付けられれば〈1組〉は動けなくなり、動いてくれてもその隙を突くことが可能だろう。

〈15組〉は〈58組〉の拠点を軸に、〈1組〉へ攻勢を仕掛ける気だった。


 そしてこれはいつ〈1組〉に襲われるか頭を抱えていたアトルトアにとっても悪くない話だ。〈1組〉とはすでにやるかやられるかの状態。やってくれるなら、それは願ってもない事だった。


「お互い、対〈1組〉同盟を築く事こそが生き残りに何より直結すると考える」


「〈58組〉としても異論は無い。こちらこそよろしく頼む。ついてはこの後の計画だが――」


 こうして〈15組〉と〈58組〉の同盟はなった。


 第一ブロック、その勢力図が固まりつつあり、そしてまたあの大災害(?)、

〈1組〉が大きく動き出そうとしていた。




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