第461話 ラナたちが帰省から帰ってきた。そして揉めた。




「みんな、待たせたわね! 帰ってきたわよ!」


「おう、おかえりラナ。思ったより元気そうだな」


 サマーイベントを目前に控えた今日。

 帰省組の王女メンバーが帰ってきた。

 ギルド部屋で待っていると早速ラナと従者組がやってきたので挨拶を交わす。

 行きはかなり項垂うなだれていたラナだったが、今は元気そうだ。


「うん。ゼフィルス、ただいま。寂しかったわ」


「おう。……うお?」


 にこやかに挨拶してくるラナに俺は目をパチパチさせる。


 あれ? なんか今凄く素直すぎることを言われなかったか?

 聞き間違いだろうか? 

 

 おかしい、俺の認識ではラナはツンデレのはず。


 まさか偽者――。


「もうずっと〈幸猫様〉と〈仔猫様〉を抱きしめられなくて寂しかったんだから!」


 ちょっと思考に耽っている間にラナがスッと俺の脇を通り過ぎて〈幸猫様〉と〈仔猫様〉に抱きつき、そのまま攫っていった。

 一瞬の早業だ。両方に挟まれて頬ずりしていらっしゃる。


 寂しかったってそっちかよ!

 やっぱラナだ。本物だ!


「待て待て待て。毎度毎度〈幸猫様〉を好きにはさせないぞ! その手をゆっくり放し、〈幸猫様〉と〈仔猫様〉をあるべき位置に戻すんだ!」


「いいじゃないゼフィルス! 私なんか1ヶ月も離れ離れだったのよ? 少しくらい〈幸猫様〉成分を補給したっていいじゃない!」


 帰ってきた瞬間いつものやり取りが始まる。

〈幸猫様〉を賭けた攻防戦だ。ここで負けるわけにはいかない。負ければ〈幸猫様〉たちが攫われてしまう!(いつも負けてます)


「ゼフィルス殿、ただいま戻りました」


「みんなお変わりないようで良かったです」


「ん? おおエステルもシズもお帰り。ただ、ちょっと待ってな、今やるべき事があるんだ」


「あの、ゼフィルス殿。申し訳ないですが、今日はラナ様に〈幸猫様〉と〈仔猫様〉をお貸し願えないでしょうか?」


「……え? ええ?」


「ラナ様はこの日を心待ちにしておりました。日に日にラナ様の部屋へ積まれていくぬいぐるみ。ですが、いつもいつも〈幸猫様〉を思い、寂しそうにしておりました」


「〈幸猫様〉以外で満足してくれないかな……」


 なんということだ。

 エステルとシズがラナの味方を。

 く、これではダメだと言い難い。

〈幸猫様〉ーー!


 結局今日くらいは好きに〈幸猫様〉と〈仔猫様〉を堪能させてあげるということで話が付いてしまった。

 無念だ。(割といつも通りの結果かもしれないが、気のせいだ)


「カルア、カルア、お土産ありマース! これ、王都で有名なカレー店のカレーデース!」


「カレー!」


「名前はなんと、カレー男爵と言うのデース」


「カレー男爵!」


 ふと横を見れば仲良くなったカルアにパメラがお土産を取り出すところだった。

空間収納鞄アイテムバッグ〉は料理も出来たてを皿で持ち運びできるから便利だよな。

 でもカレー男爵とはいったい? 男爵芋の関係か?


「うま! カレーうま! 男爵カレーうま!!」


 即行で食べているカルア。絶賛だ!

 く、いい匂いがする!


「みなさんも食べるデースか? いっぱい買ってきたのデース!」


「おう、後でもらうよ。実はこっちでも新しいカレーが手に入ってな」


 なぜパメラがお土産にカレーをチョイスしたのかはさだかではないが、こっちも王女一行がいない間に〈カレーレシピ全集〉がドロップしたのだ。

 この後、何気にカレー談議で会話が弾んだ。不思議。


「とりあえず、これまでの〈エデン〉〈アークアルカディア〉の活動を報告させてもらうな。後で〈助っ人〉メンバーズも紹介しておきたいんだ」


 ラナたちが帰ってきたおかげで帰省組で戻ってきていないのは残りレグラムだけだ。

 レグラムは〈海ダン〉の日までに戻れないかもしれないと連絡があったし、やはり戻るのは無理なのかもしれない。


 とりあえず、今までの学園居残り組の活動をラナたちに語っていく。

〈助っ人〉もマリアとメリーナ先輩を紹介した、しかしサトルはセレスタンと共にどっか行っており、紹介できなかった。

 まあ、後で紹介すればいいか。


 また、合宿企画のところでラナから「異議あり!!」が上がったがこれはスルーした。

 うむ、また企画するから許せ。


「スルーなんて許さないんだから! 私がいない間にそんな面白そうな企画……どういうことよゼフィルス!」


 ダメだった。

 まさに王女激怒。合宿の内容を聞けば聞くほどほっぺが膨れていき、最終的に「うがーっ」と爆発した。


「もう! まったくゼフィルスはまったくもう!」


「いや仕方ないだろう。もう8月も下旬だ。もたもたしてたら夏休みが終わっちまうし」


 説得を試みるが「仕方ない」なんて言葉で一度火が付いたラナが止まるはずもなく、これは何かご機嫌取りが必要そうだ。


「次! 次は〈海ダン〉だから、これはしっかり準備してるし、絶対楽しいぞ?」


「それも楽しみだけど……、それだけじゃ足りないわ!」


「ゼフィルス殿、ラナ様は学園から帰りたくなかった帰省をしての公務を、約一ヶ月もこなされました。何かご褒美をあげてはもらえませんでしょうか? もちろん私どもも協力しますので」


 ラナの相手をしていたら、こっそり近づいてきたエステルから耳下でこそこそと懇願された。

 うーむ。確かにそう言われると可哀想かもしれない。俺だって一ヶ月も〈ダン活〉を我慢させられたら、……おそらく大変なことになるだろう。


「……わかった。じゃあ、ラナには何かご褒美を検討しておくさ」


「本当! 約束してくれる?」


「ああ。わかった。約束だ」


「ゼフィルス殿、感謝いたします」


 とりあえずはこれで良し。


「じゃあ、例の〈海ダン〉の話に移るぞ。目下の問題は、水着だな。詳しくはシエラ、頼む」


「そうね。予定では明日の朝出発だもの、余裕が無いわ。今からマリー先輩のところに行くわよ。準備は整っているはずだから、後はデザインを決めればすぐに作ってくれるわ」


「水着ね! 初めて着るけどどんなのがあるのかしら?」


「ああ、ラナ様の水着姿、今から楽しみですね」


「まったくです。全身全霊でこの目に焼き付けなければ」


 さすがに女子の水着については管轄外なのでシエラに任せる。

 これから〈ワッペンシールステッカー〉に向かうようなので俺は見送りだけ。

 なんかエステルとシズが妙なことを口走っている気がするが、俺も楽しみなのできっと気のせいだろう。


「カルアはどんな水着にするのデスか?」


「ん。当日のお楽しみ。だけどゼフィルスが好きそうなやつにする」


「ゼフィルスさんがデスか! ふえ~」


 おかしいな。

 俺はどんな水着が好きかとか、カルアに語った覚えはない。

 いや、〈ダン活〉ではビキニが最強とは言ったかもしれない?

 ……まあ、いい。


 後は彼女たちの選択に任せよう。

 男子はいつだって賜るだけだ。求めると引かれるからな。


 ああ、明日が待ち遠しいな!


 その後、水着選びと注文を済ませて帰ってきたラナたちに、改めて明日のイベントの予定を通達し、明日に備えて今日は早めに解散したのだった。


 そして、待ちに待った〈海ダン〉の朝がやってくる。




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