第446話 『相槌』スキル検証。装備はどこまで強くなる?




 マリアに断ってから検証に移った。マリアも興味があった様子でアルルとハンナの合作である〈水流紋の短剣〉を〈解るクン〉で穴が空くほど見ていたほどだ。

 とても興味があるご様子。その証拠にボソッと「これは高く売れるわ」と呟いていたからな。それ、カルアのメインウェポンになる予定なので売らないでね?


 まず、他の作品でも能力が上がるのかを検証した。

 やるのはアルルとハンナの2人だ。俺も参加したかったが、まず実績のあるハンナで事を試さなければならない。


 結果、剣だけでは無く、防具、他の武器、インゴットの質にあたるまで『相槌』することで能力や品質の上昇、低下が見受けられた。

 マジかよ。

 どうやら【鍛治師】ではないハンナとの『相槌』でも能力値は変動するらしい。

 次に俺とアルルで『相槌』を試してみた。すると。


 出来上がったのはかなり貧弱な装備品だった。


「ダメやダメや! なんやこりゃぁ! ドロップ品より能力劣ってるでぇ!?」


「うーむ、【勇者】がダメなのか、それとも打つ腕がダメなのか。それともDEX値の影響か?」


 生産職、特に装備品を扱う者の存在意義として『ドロップ品より生産品の能力値の方が高い』というものがある。

 まあ、当り前だ。ドロップ品の方が強かったら生産職の存在価値が危うくなってしまう。


 ドロップ品でしか手に入らない、生産品でしか手に入らないという品はたくさんあるが、それはそれ。

 生産職にとって、ドロップ品に負けるというのはかなり屈辱的な事だったようだ。

 アルルが悲鳴を上げていた。


 出来上がった失敗作は確認した後、即行で廃棄処分を待つばかりの〈空間収納鞄アイテムバッグ〉にほうむられた。アルルが三段階目ツリーに覚醒し『鋳潰し』スキルを獲得した暁にはインゴットに還るだろう。

 もう存在することすら許されないといった処置速度だった。


 ふう、とりあえずだ。俺でも質に影響を与えることは分かった。


 それから何度か他の装備、アイテムで試したり、強化も使えるのか試したり、アルル、ハンナ、俺の3人で『相槌』したりと試したが、アルルから一言。


「ゼフィルス兄さんは見学しててや」


 俺は戦力外通告を受けてしまった。


 うん。俺が関わった『相槌』した作品が軒並み能力値下がっていたらそうなるよね。

 ちなみにマリアも誘ってみたのだが、


「私はこの本より重い物を持てないので」


 なんて手に持つ分厚いメモ帳を見せられて断られた。ツッコミ待ちか?


「ステータスあるのにそんな訳あるかい!」


 初期ステータスで武器持てないとかそんなのゲーム破綻しちゃうから!


「冗談です。私はメモに集中させてもらいますね」


「おう。任せたぜ」


 ということでマリアは記録係だ。


 とりあえず、この検証で分かったことがある。


 本当に【鍛冶師】じゃなくても『相槌』は出来るのか?

 出来る。多分『相槌』スキルを持つ【鍛冶師】が1人いれば出来ると思われ。


 誰でもいいのか?

 今のところ【鍛冶師】1人以外は誰でもいいらしい。


 はたして何人まで可能なのか?

 仲良し三人娘にご協力頂いた。4人までだった。5人で相槌するのと4人で相槌するのとでは質に変わりは無いことが分かった。


 装備の能力限界値はゲームの時と同じなのか、はたまた超えるのか?

 わからん。少なくとも検証不足だ。アルルもまだレベル低いしな。


 今のところハンナ以外の相槌では装備の能力、質共に上がらない。

 下がる一方だ。戦闘職では難しい?

 しかし、もし超えるとなるととんでもないな。まだ見ぬ能力値の先があるかも知れない。

 なお、【鍛治師本職】4人の『相槌』を超えられれば、の話であるが。

 ハンナが後2人居れば行ける気がするのが恐ろしいところだ。


 作品の能力、質はどういう基準で上がるのか?

 これはゲーム知識だが、STR値とDEX値、『相槌』に参加しているキャラのスキルLVによって変動していた。

 しかしハンナはSTR値が初期値だし、『相槌』スキルは持っていない。参考にならない。

 と思ったらハンナはRES値とSTR値を入れ替える〈パワリタンR〉を使っていたらしい。道理で能力値の上昇が顕著だと思ったよ! 今のハンナはSTRとDEX特化だった。


 そうなるとステータスは必要で、『相槌』だけいらないっぽい?


 しかしここはリアル。もしかしたら本当にリアル的な理由が採用されている可能性は無きにしもあらず。打つ腕の良さが質に影響を与えている?

 他に誰か叩くのが上手い人を連れてこないと検証は不可能だな。ハンナ以上に打つ腕が上な【鍛冶師】ではない人? そんな人……いる?


「とりあえず、今できるのはここまでか」


「お疲れ様やゼフィルス兄さん」


「ゼフィルス君お疲れ様。はいお水」


「さんきゅー」


 できること、思いつくことは大体やり終えたので一息つくと、ササッと寄ってきたハンナから水をもらった。炉の近くだから地味に熱かった。俺より炉の近くにいたハンナやアルルなんか汗がしたたり落ちて髪を濡らしている。ちょっと色っぽい。

 ただ2人ともロリなので問題無い。

 鍛冶っていうのは大変な作業だなぁと思うだけだ。うむうむ。


 検証が終わったのはここに来て3時間が経過した時のことだった。武器を作るのは時間掛かるが、インゴットやその他こまごまとした物はあまり時間が掛からなかったのは助かった。

 しかしすでにお昼の時間だ。

 アルルの腹が可愛らしく「ク~」と鳴ったのを皮切りに一度お昼休憩を取ることとなった。


「ハンナはん、これ〈スッキリン〉な。鍛冶には必須アイテムや」


「わ、ありがとうアルルちゃん」


 アルルが『クリーン』のスキルを発動できる使い捨てアイテム〈スッキリン〉をハンナに渡していた。あれだけ汗をかくのなら鍛冶に必須だというのも納得だ。

 ハンナも喜んで受け取り、すぐに使ってリフレッシュしていた。

 そういえば俺以外には敬語なハンナがアルルにはちゃん付けになっている。鍛冶、というか生産活動でずいぶん打ち解けたらしい。良きかな良きかな。


 ちなみに俺はふがいない結果しか生み出せなかったのでアルルから渡された〈スッキリン〉は受け取らず、自前の物を使用した。さすがに受け取れん。


 夏休み中でも営業している食堂で腹を満たすと、マリアは次に錬金を見ると言ってハンナと共に錬金工房へ行くようだ。


 そういえば当初の目的が生産を見ることだったな。俺も久しぶりにハンナの生産を見ていこう。




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