第359話 採用協議! 採用する子を決めよう!




 金曜日の夜。

 夕食後、俺たちはとあるラウンジの個室に集まっていた。

 件の面接について相談するためである。


 メンバーはギルドマスターである俺、サブマスターシエラはもちろん参加。

 それにスカウトのプロフェッショナルミサトと、下部組織ギルド創立の手続きなど細かなサポートのためにセレスタンとメルトにも参加してもらっている。


「みんな、こんな時間に悪いな。助かるよ」


 俺はまずみんなに礼を言う。

 夕食後という遅い時間になってしまったのは俺の臨時講師仕事のせいだ。

 質問が長引くせいで拘束時間が毎週のように長くなっていき、今回は夕食の前まで質問が終わらなかったのだ。


 前回初参加の上級生たちがこの1週間で色々疑問と質問を考えて来たのだろう。

 真面目なのは良いことだ。俺も頑張って受け答えしてしまった。

 そのおかげでこんな時間になってしまった。

 相談に乗ってくれて集まってくれたみんなには感謝だ。



「問題無い。明日からはダンジョン週間だしな。今日のうちに決めたいというのも理解している」


「私もよ。むしろ、相談も無しにこれだけの人数を採用しようとしたらお説教だったわ」


 メルトが理解の意を示し、シエラもそれに頷く。

 シエラの後半の言葉は聞こえない。


 今までは俺がほぼ単独で採用を決めていた。

 その辺、今でもゲームの時の感覚が抜けていないのだ。

 だが、今回はさすがに規模が規模である。

 下部組織ギルドの創立もするため、さすがに話し合わなくてはいけないだろうと判断したのだが、大正解だった。危なかった。


「まず下部組織ギルドの創立ですが、問題はありませんでした。手続きさえ踏めばQPを支払うことでいつでも創立可能です」


 セレスタンの報告にみんなが頷く。

 下部組織ギルドの創立について反対意見は無いようだ。

 続いて隣に座っているミサトが話を次に持って行く。


「じゃあ次は採用人数だね。元々はDランク昇格後の補充という名目で5人が採用枠だったけど、下部組織ギルドを作るのなら話は変わるよ」


「まずは〈エデン〉のDランク昇格後、新たにメンバーとなる5人の選抜がメインだが。一旦下部組織ギルドに在籍してもらい、そこで改めて実力を確かめて選抜するやり方がいいだろう」


 ミサトの言葉にメルトが加わり方針を決めていく。

 俺も異議は無い。


「下部組織ギルドは創立直後10人まで在籍可能だから、採用枠は10人で良い?」


「いいと思うわ。Dランク昇格時に基本10人の中から選ぶ形にしましょう」


 ミサトの提案にシエラが答え、するすると話は決まっていく。


 やっと採用枠が固まったな。

 さて問題は、誰を採用するか、なんだが。

 そこでシエラから質問が投げられた。冷たい声で。


「ゼフィルス。これは何かしら? なぜあなたが選んだ採用候補の22人のうち、女の子が21人もいるのか、この男女比、説明してくれる?」


「ゆ、優秀だったからだな」


 シエラが先ほど配っておいた採用候補者のメモを片手に視線を鋭くして俺の眼を見る。

 思わず眼を逸らしたくなった。


 確かに性別の偏りはある。

 だけど、それは面接に来た男子たちに言ってほしい。

 なぜかあいつらミサトや集まった女子たちにカッコイイところを見せようと的をぶっ壊そうとするんだよ。

 壊れないって言ってるのに! アホなのか?

 ちなみにミサトに良い格好見せようとしているとは木曜日に気がついた。ミサトを連れてこなければ良かったか? と一瞬考えたが、女子に色目を使う男子は危ないので要らないなと考え直した。ミサトについてきてもらってよかったよ。


 またそういう男子たちは、明らかに自分たちより腕が上の女子たちの面接風景を見て打ちのめされていたが、これはどうでもいいだろう。


 そんな事実をふまえて、男女比はかなり偏っているが厳正な審査の判断だとシエラに告げる。


「そう。私たちのためなのね。なら、いいわ」


 シエラが納得してくれた。

 俺はそっと安堵のため息を吐いた。

 そのため、続いてシエラが言った「自分の身のことも考えてほしいのだけど」という言葉は耳に入らなかった。



「それでゼフィルス君、採用候補は決まったの?」


「ああ。とりあえず絶対にギルドに欲しい6人は決まったよ。この子たちは確定で加入させたいな」


 ミサトの言葉に俺はセレスタンが持って来た資料プロフィールを見せる。

 この6人はこれからの事を考えて絶対に欲しいと思った人材たちだ。この子たちだけは俺のギルドマスター権限を使ってでも加入させたい。


「ふむふむ。この3人、ゼフィルス君が欲しいって言ってた職業ジョブの人たちだね」


「ああ。ミサトはよく見つけて来れたな。居なければ〈転職〉を希望する人の中から選ぼうと思っていたんだが、まさか全員発掘してくるとは」


「たはは~、凄いでしょ?」


「ああ。さすがだわぁ。助かる」


 ミサトの言うとおり、6人のうち3人は俺がミサトにスカウトを頼んだ人材だ。

 しかし、マジで見つけてくるとは。正直見つけることは出来ても〈エデン〉には来ないかもしれないと思っていた。プロフェッショナルミサトがすげぇ。


「この3人ね? 〈支援課〉の子が2人に〈鍛冶課〉の子が1人? あ、この子はドワーフなのね」


 シエラが3人のプロフィールに目を通す。

 そう、今後のことを踏まえ支援や生産が〈エデン〉には必要になるだろうと考える。

 せっかく作るリアル〈ダン活〉の下部組織ギルドだ。もしかしかしなくても下部と親ギルドでゲームとは違った交流が可能になるだろうと思っている。

 支援や生産でサポートする人材を入れても良いと思うのだ。

 何も戦闘職だけが〈ダン活〉の全てでは無い。


 ミサトにもその辺を説明し、まずは支援で必要な職業ジョブ二職と生産職の【鍛冶】職を入れたいと相談したのだ。

 【鍛冶】の子に関して、やはり「ドワーフ」のカテゴリーを入れたいとは思っていたが、ダメなら普通の【鍛冶師】を入れようと考えていた。

 ミサトはよく「ドワーフ」を見つけてきてくれたよ。これで武器とタンクの装備は安泰だ!


「でも「侯爵」と「伯爵」は居なかったか」


「たはは~、さすがに私も御貴族様との交流は薄くてさ~。メルト様の伝で探してもらったんだけどね」


 実はミサトとメルトには「人種」カテゴリー「侯爵」と「伯爵」もお願いしていたのだが、これは集まらなかったようだ。

 まあカテゴリー持ちは仕方ない。強すぎてどこのギルドも手放さないだろうしな。


 Dランクになればギルドバトルがさかんになる。そろそろ魔法タンクの【深窓の令嬢】や、守りの「伯爵」も欲しいところだったのだが、残念。

 欲しいのは「人種」カテゴリー専用職業ジョブなので、これは〈転職〉でもどうにもならない。


 また、「伯爵」はギルドに2人までという上限がある。〈エデン〉にはすでにシエラとメルトが在籍しているが、リアルならもしかしたら上限なんて存在しないのかもしれないのだ、〈姫職〉が名声値関係ないように。

 その辺の検証もしたかったが、無いものは無い、残念。


「とはいえ今回は見送られただけだ。特に伯爵家の令嬢は手応えがあった、参加できないことを悔んでいたからな。次の面接には参加したいと言っていたぞ」


「おお、それは嬉しい報告だ。メルト、その子のこと引き続き頼めるか?」


「構わない」


 メルトの報告に俺は喜色を浮かべた。まだ細い糸だが繋がっていたか!

 メルトに任せて正解だったぜ。よっしゃ、次回に期待しよう!

 「侯爵」に関しては残念ながら【深窓の令嬢】自体に認知度がまったく無く、難しそうだ。こっちはまた別の手段を考えよう。


「残りの3人は全員〈戦闘課〉ね。あら、男子がいるのね」


「この女子2人は面接初日の子たちだね。動きが段違いだったから私もよく覚えているよ」


 再びプロフィールに視線を落としたシエラが気がついたように、俺はこの男子を是非とも下部組織ギルドに加えたい。

 〈姫職〉と同列のグループの職業ジョブ持ちだ。絶対大きな戦力になる事は間違いない。


 そしてミサトが言ったように、〈戦闘課〉の女子の中でも飛び抜けて優秀な動きを見せていたのがこの2人、【ラクシル】のラクリッテと【歌姫】のノエルだ。

 〈エデン〉は受けタンクが不足している。盾職は1人は入れたいと思っていたが、ラクリッテは面接した盾職の中ではトップの実力を持っていた。職業ジョブも申し分ない。

 デバフ盾、絶対採用したいところだ。


 そして【歌姫】のノエル。

 バッファーは〈エデン〉にほとんどいない。ラナやリーナ、賢者組ができるけどメインバッファーはいないのだ。是非欲しい人材である。職業ジョブも申し分ない。


 ということで俺が絶対欲しいという人材は6人。


 みんなも異論は無いようなのでこの6人は採用が決定した。


 さて、採用候補16人の中から残り4人を決めよう。




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