第327話 〈転職〉の影響が響く。新たに加わるメンバー。




 最近、世界中で注目を集めているニュースがある。


 とんでもないビッグニュースだ。


 ―――その名も、〈転職〉。


 つい先日、高位職の発現条件たる氷山の一角が解明されたことにより、〈転職〉が今非常に注目を集めている、らしい。


 高位職が発現する条件の一つは〈モンスターの撃破〉。

 つまり、一度低位職、中位職に就き、モンスターを倒すのが高位職に就く正規のルートであったと。

 そんな事をとなえた人物が現れたのだ。

 誰かは知らないが、きっと素晴らしい青年に違いない。


 その事実と衝撃は、大きな波紋を呼び、瞬く間に全世界へと拡散した。


 〈転職〉すれば高位職に就ける可能性がある。また高位職の新しい育成の方法も研究されている。

 そんな噂が流れ出し、〈下級転職チケット〉が暴騰ぼうとうした。

 誰の目からも分かるほど高騰し、さらに一般人では買うのに躊躇する値段まで一気にその値段が膨れ上がった。

 青天の霹靂である。


 そしてこんな噂が流れ出す。


『〈転職〉した者は勝ち組。〈転職〉が人生の詰みなんて真っ赤な嘘』


 〈育成論〉があってこそ高位職が耀く。〈育成論〉という前提があってこそ高位職への〈転職〉は人生の詰みと呼ばれた存在から脱却することができた。

 しかし情報に疎い者や視野の狭い者は、目の前の値段や価値を信じてしまったのだ。


『〈下級転職チケット〉が凄い価値だ。これを使えばきっと良い事があるに違いない』


 そんな事を勝手に考え完結し、今後にできる制度や法案、そして〈育成論〉などの情報をまったく知らない者たちが我先に〈転職〉チケットを使う事例が多発してしまった。


 まあ〈転職〉すること自体は別に問題は無い。

 〈転職〉した者はみんな納得できる高位職になれたのだ。

 本人は喜んでいるし、LVリセットされて苦労するのは自己責任だ。


 しかし、当り前だが生活に困窮するものが現れ始めた。

 故に国は、転職に必要な重要アイテム〈竜の像〉の使用を、新たな制度が確立するまで使用禁止とする処置をした。

 これにより国民の期待は一気に高まり、国は早急に制度と法案の確立に動き出し始めた。




 そんな世界の動きがある中、学園ではまた違う問題が起きていた。


 1年生で高位職持ちが数多く出現し、上級生たちはいつ追いつかれ、そして追い越されるのかと戦々恐々としていた。

 また、『1年生ばかり高位職になってずるいぞ、俺たちだって高位職になりたい!』と思う者が多くいた。


 そこに出されたのが『国が法案を決め、制度が整うまで〈竜の像〉の使用を禁止する』というルール。

 しかし、大人が決めたルールに逆らうのはいつだって子どもの特権だ。


 ということで『制度が整うまで待てるか! 俺は転職させて貰うぞ!』、そう言う学生が一定数出てきてしまったのだ。


 所謂いわゆる抜け駆けである。


 スタートダッシュが非常に重要なのは誰もが知っている常識。

 〈転職〉の制度が整い、『皆せーので転職しましょうねー』と言われても、出し抜きたいと思ってしまうのが人間だ。

 だったらば、である。先に〈転職〉してしまえば良いじゃない、と考えてしまうのはしょうがない事なのだ。

 それを禁止にする処置も、学園は特に数多くの〈竜の像〉が配備されている機関。

 一度に全てを使用禁止にする処理なんて出来るわけないので、その抜け穴から『使用禁止になる前に〈転職〉してしまえ』という学生が出てしまったのだ。


 そしてメルトの話では、Bランクギルドの〈金色ビースト〉もその一つ。


 このダンジョン期間中、ギルドメンバー30人のうち3分の1以上が〈転職〉してしまったのだという。

 それを聞いた俺は一言。


「アホだな、その連中」


「そうだ。アホなのだあの連中は」


 つい口から出てしまった失言だったが、見ればメルトも深ーく頷いていた。

 まあそうだろう。〈転職〉したということはつまり、


「LV0が11人在籍するBランクギルドか~。確実にランク落ちだな」


「その通りだ。すでにいくつかのギルドから〈ランク戦〉を挑まれている。〈金色ビースト〉が最後に〈ランク戦〉を行ったのが5月13日。今日が6月3日だからあと10日で期限が切れる」


 Dランク以上から行われる、ランク入れ替わりギルドバトルこと〈ランク戦〉。

 しかし〈ランク戦〉は連続で仕掛けることはできない。そんな事をすれば上位のギルドが不利になるからだ。

 故に〈ランク戦〉は1度行えば1ヶ月間は受けなくても良いというルールがある。


 ちなみにサターンたちが前回の〈練習ギルドバトル〉から一ヶ月経たずに再戦を申し込めたのは、〈練習〉はノーカウントだからだ。

 〈練習〉が一ヶ月も出来ないというのは逆に困ってしまうからな。



 話に戻る。

 メルトの話では〈金色ビースト〉の期間は残り10日で切れるとのこと。

 10日でBランクギルド並の実力まで取り戻せるかと言えば、否としか言えない。

 出来なくはないが、かなり出費が嵩む方法なので効率面からしてやりたくない。

 そのためゲーム〈ダン活〉時代も〈転職〉や新規キャラクターメイキングをするタイミングには気を張ったものだ。

 この期間中一ヶ月をフルに使って一気にLV上げをしなければ敗北は必至。

 ギルドランクを上げて安定化を図るのは、結構難しかったのだ。プレイヤーのテクニックが試される。


 そして〈ダン活〉プレイヤーであった俺から言わせれば、〈金色ビースト〉は完全にタイミングを間違えているとしか思えない。

 いったい何人のレギュラー勢、またはスタメンを〈転職〉させてしまったのか。

 1年生はまだBランクのギルドバトルに耐えられるほどのLVではない。

 つまり、〈金色ビースト〉は低レベルの1年生を抱えた状態でメンバーの3分の1が〈転職〉してしまい低レベルが溢れてしまったのだ。これではパワーレベリングをするのもままならない。

 要はギルドの弱体化だ。


 ただ育成をしっかりできる環境が整っているのなら話は変わる。むしろAランクも狙えるかもしれない。

 しかし環境が整っていないのに〈転職〉してしまうと育成がすごく大変だ。LV上げにすごく時間が掛かる。

 しばらくは動けなくなるだろう。そして負け続ければDランクまで落ちる。

 そうなると1年生のギルドも上がってくるし、ランク上げが難しくなる。

 ひょっとしたら負け続けたメンバーが、ギルドに嫌気をさして引き抜かれるかもしれない。

 Bランク以上に返り咲くための綿密なプランでも立てなくては、この先の〈金色ビースト〉の未来は明るくないだろう。


 そしてメルトから見れば〈金色ビースト〉は〈転職〉してからのプランがすごく甘いらしい。かなり衝動的なことだったようだ。これではとてもギルドを統制とうせいできるとは思えない、とのことだった。


 まあ、メルトがここに居る時点でお察しである。


 俺があーあ、やっちまったなぁ。と思っていると、目の前に座るメルトがいきなり頭を下げた。


「どうか俺を〈エデン〉の末席に加えて欲しい。〈戦闘課1年8組〉メルト、【賢者LV18】〈最高到達層:初級中位ダンジョン1つ攻略〉。絶対に役に立つ。よろしくお願いする」


「…………」


 いくつか話してみてたが、メルトはかなり意識が高い。

 Sランクギルド、そしてその上まで登りたいと強く思っていると感じた。

 それならば〈エデン〉をおいて他のギルドはないだろう。


 それに先を見通す目もある。行動力もある。

 いくら先が無いとはいえBランクギルドを脱退する事はそう簡単にはできることではない。

 それにこれは個人的な嗜好だが、俺は向上心が高い人が好きだ。努力をする人が好きだ。気合いが入っている人が好きだ。

 【賢者LV18】なら、二段階目ツリーからは最強育成論のルートに乗せられるしタイミングも悪くない。

 セレスタンの持って来たプロフィールにも合格と書いてあったので人柄にも問題は無いだろう。


 ならば、決めてしまうか。


 と考えたところで、我慢出来ないと言わんばかりに横から声が上がった。


「ねぇねぇねぇ! 私忘れてない!? この面接って一応私とメル君2人の面接なんだけど!? 私もちゃんと面接してくれてる!?」


 …………すまんミサト、すっかり忘れてた。




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