第297話 サターン達は逃げに入った、逃げられなかった。




 放課後。

 今日一日、教室はこうピリッとした空気に包まれていた。


 まあ朝からあんな騒動があれば当たり前かもしれない。

 俺も昼食中にシエラに捕まって説教を食らったのだ。

 すべてはサターンたちのせいで切り抜けようとしたが、ダメだった。

 昼食の味が思い出せない。


 ミサトにはしっかり説明してもらわなければならないな。


「何か釈明はあるかなミサトくん?」


「えと、私もようやく状況を理解したところなんだけどね。そもそも〈天下一てんかいち大星たいせい〉には一時的に加入しただけだし、いつでも抜けていいって条件だったから。あと〈エデン〉に行くなんて言ってないよ私。いいかも~とは言ったかもしれないけど」


 教室でミサトにそう問いただしたところ、返ってきた言葉に俺は〈天下一てんかいち大星たいせい〉の方を向く。


「ミサトはこう言っているが、正しいのかな?」


「ま、待て。その目をやめるのだゼフィルスよ」


「ふ。恐ろしい。なんて恐ろしい目ですか。顔は笑っているのに目が笑っていませんよ」


「そんなことはどうでもいいから早く言え」


 なぜか怯むサターンたち。やましいことがある証拠だな。


「お、概ねその通り、かも知れない…か」


「な、何!? 俺様はミサトを〈エデン〉に取られると聞いたから抗議に参加したのだぞ!?」


 トマ君が渋い声を出して目を逸らしながら言った。「か」じゃねえよ。

 しかし、トマの証言に度肝を抜かれたような声を上げるヘルク。1人だけ忘れられていたのか?


「し、しかしだ。ほとんど引き抜かれているのと変わらん状況だろうと我は思う。我らの〈天下一てんかいち大星たいせい〉は5名しかいないのだ。しかもヒーラーのミサトに抜けられては解散するしかないのだぞ!?」


 サターンが訴える。

 学園の規則でギルドは5人以上と決まっている。

 人数が5人未満の時、1週間以内に数を満たせなければギルドは解散になるのだ。

 学園側もギルド部屋を貸し出している関係上、この規則には厳しい。


 また、サターンたちは多くのクラスを回り頼み込んだが全て断られた実績がある。

 きっと「我らのギルドに迎え入れてやろう」とでも尊大な態度で言ったに違いない。

 2組以降の学生はLV的にサターンたちより下に違いないので無駄なプライドをへし折る役がいなかったんだなきっと。


 と、話が脱線した。


「つまり、〈エデン〉には無関係だったということだな?」


「ふふ!? え、ええ。そうなるかもしれなかったりするかもしれないですね」


「悲しい行き違いがあったようだな。だが概ねそんな感じかもしれない」


「俺様が聞かされたこととは違うぞ!?」


「………なるほど?」


 こいつら、認めやがったぞ。

 話し合うなら俺よりミサトを説得しろよ。


「それで? もし俺との話し合いが決裂したらどうしてたんだ?」


 もし仮に事実だったとして、どう考えても決裂する可能性は高いと思われる。


「ふ、ええと。それはですね…」


「そ、それはだな」


 なんとなく歯切れが悪いジーロン君とトマ君。目が泳ぎまくっている。なんだ?


「さあ、吐け」


「ミサトを賭けて、〈決闘戦〉を挑むとか言っていたぞ。そして〈エデン〉から報酬を―――」


「へ、ヘルク待て!? そそそそれは言葉の綾だ。ゼフィルス違うぞ。我はそんなこと欠片も思っていない!」


 思わぬヘルクの言葉にサターンが激しくビビる。

 こいつら、前回ギルドバトルに負けたばかりだというのをもう忘れたのだろうか?

 いや、覚えているからこそビビっているのかもしれない。

 またプライドが伸びてきたようだな。ちょっと目を離すとすぐにニョキニョキ伸びるんだから。後でまたへし折っておかないと。


 いや、女を賭けて決闘とかロマンなんだけどさ。紅の飛行機に乗ったワイルドな豚紳士が見えるかのようだ。そうなるとこちらが賭けるのはミールか?

 やはりへし折っておこう。


「さてサターン、他に言いたいことはあるか?」


「ひ!? ま、待つんだゼフィルス。落ち着け、話せばわかるのだ!」


「―――スケジュール3倍」


 サターンが言い訳じみたことを言い始めたのでペナルティを課すと、サターンたち4人が一瞬で逃げに入った。

 しかし、


「しかし勇者からは逃げられない」


「そ、そんなバカな!?」


 すでに教室の2つの出入り口と窓は〈エデン〉のメンバーで固めている。

 全員が格上だ。サターンたちに逃げ場はない。


「ほ、本当なんだゼフィルス! 我らは……弱い。少なくとも今はまだ弱いと分かった。あれは、そうだノリだ、その場のノリで言っただけなんだ。ちょっと日頃の恨みと鬱憤が溢れ出しただけなんだ!」


「なお悪いわ!」


 ついに本音が出たサターン。スケジュール3倍からも逃げられないようだ。


「ねえ、ちょっと聞いてもらってもいい?」


「ん?」


 そこへ救いの女神登場。待ったを掛けたのはミサトだった。


「実は私もこのまま抜けるのは薄情だと思うのね。だから私の替わりに入ってもいいって言う人を見つけてきたのよ。これでギルドは解散しなくてもいいはずだよ」


 そこに投下されたのは本当に救いの情報だった。

 ジーロン君なんて「おお、やはりミサトは天使…、いや女神だ…」とか呟いてるぞ。


「さすがに勧誘避けとして加入させてもらっておいてすぐ抜けるなんて道義どうぎもとるからね。2人ほど見つけてきたよ。1人はヒーラーの【ホーリー】よ。もう1人は斥候役で【密偵】ね。後で紹介するね」


「おお、ミサトよ、我らのために!」


 照れたようにそう言うミサトにサターンたち4人は感涙にむせび泣いていた。

 いや、ミサトは抜ける準備を着々と進めている様子だが、いいのか止めなくて?

 俺にはサターンたちの心理がよく分からなかった。


 だけどこれだけはわかる、スケジュール3倍は決定だ。




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