第269話 練習ギルドバトル開始! 一手と二手で決める。




 練習ギルドバトル。

 〈城取り〉〈5人戦〉〈菱形〉フィールド。


 この前のEランク試験の時とほぼ同じ構成だ。

 違うのは人数が5対5というところだけだな。


 対人戦も前回先生組がやらなかっただけでルール的には可だったしな。


 今回の練習ギルドバトルも、片方のギルドがFランクなのにアリーナが使用できたのは『Eランク試験の練習』という名目が効いているからだ。

 でなければこの時期にアリーナを借りることは中々難しかっただろう。


 また一応このギルドバトルをやる前に練習や基本的ルールの説明もしっかり行われている。これもEランク試験の時の内容を省略するためだな。

 練習ギルドバトルを行った経験のあるギルドはEランク試験を受けるとき、俺たちが受けたような座学と実技は免除されたり、試験突破率が高くなる。先生側の負担も減るので練習ギルドバトルは学園側からも推奨されていた。

 ちなみにルール説明をしてくれたのはムカイ先生である。あの人、しゃべるときは結構流暢にしゃべりおる。


 さて、ブザーが鳴り、練習ギルドバトルが始まった。


 ギルドバトルは初動が何よりも大事。

 ギルドバトル初心者にはまずその辺を理解していただきたい。

 果たしてサターン君たちは大丈夫だろうか?


「カルア、行くぞ!」


「うん!」


 まずこのメンバーの中で最もAGIの高い俺とカルアがブザーの音と共にツーマンセルを組んで飛び出した。


 目指す場所は前回のEランク試験と同様、北にある巨城。


 それと同時に、東と南の間にある本拠地からまず中央マス天王山を目指す一手。


 相手からすれば、俺たちがまず中央マス天王山を目指しているように見えるだろう。

 中央マス天王山を抑えられると第2の拠点として使われてしまい、主に対人戦の面で大きく不利になる。もちろん3つの巨城の中央に陣取られるので簡単に巨城をひっくり返されてしまい、防衛の面でも不利になる。


 また自分たちの行動に対し、対処されやすくなってしまう。

 例えば本拠地へ戻ろうとしたら先回りされたり、簡単に足止めされてしまうのだ。

 各個撃破も非常にやりやすい。


 基本的に中央マス天王山を取ることは場の有利という面で非常に大きい意味を持つのだ。


 まあ、俺が前回のEランク試験の時に行った方法など、対処するやり方が無いわけではないが。あれは熟練者向けだ。勝ち筋をしっかり理解できていなければできない戦法だな。


 さて、俺たちの一手に対して〈天下一てんかいち大星たいせい〉の手は?


「ん。西」


「まあ、初心者あるあるだよなぁ」


 対する〈天下一てんかいち大星たいせい〉は二手に分かれる手を打つ。

 西の巨城に3人と、北の巨城を目指す2人だ。


 巨城へメンバーを分けて向かわせるのは決して悪い手ではない。

 〈菱形〉フィールドにある巨城は3つ。

 過半数の2つを先取せんしゅ出来れば非常に有利になる。

 ただ、理想に現実が追いついていないんだよな。巨城のHPを甘く見ている。


 〈エデン〉は前回同様、俺とカルアが先行し、それを追う形で残り3人が北を目指していた。つまり5人全員で巨城1つを落とす構えだ。


 巨城のHPは高く、また〈HPを0にした側が巨城を先取する〉というルールがあるため、なるべく攻撃開始から短期間で城を落とすことがセオリーとなる。

 でなければ差し込まれて持っていかれる恐れがあるからだ。

 理想は1撃で落とすことだが、俺たちの今の攻撃力ではそれは不可能だ。


 正直なところ2人では巨城を落とすのにかなり時間が掛かる。

 10発以上のスキルと魔法を打ち込む必要があるためだ。クールタイムもある中、悠長に時間をかけて落とすなんてギルドバトルではありえない。

 後半になれば10人単位で1つの巨城を落としに行くこともあるのだ。


 差し込みされないために絶対必要な技術である。


「ん、それに遅い」


「それも仕方ない。俺たちが速すぎるだけだ」


「うん」


 カルアが、追いかけてくる相手の2人、サターン君とジーロン君を見ながらそう呟いた。

 現在カルアは〈爆速スターブーツ〉の能力スキル『爆速』により、空中を後ろ向きに飛んでいる。

 何それカルア、ちょっとカッコいいんだけど。俺もやってみたい。


 防衛モンスターはザコだ、通常攻撃ですり抜けながら瞬殺できるレベル。これなら俺たちの足止めにもならない。


 しかし、〈天下一てんかいち大星たいせい〉はそれがスムーズに出来ていない。

 そのため1マス1マスに掛かる時間が俺たちより圧倒的に多い。


 まあこれは結構コツがいるからな。俺だってダンジョンに挑み始めたときから練習しているからこの速度が出せるのだ。初級下位ショッカーの〈アーマーゴーレム〉をすり抜けながら効率よく転ばせるのはいい練習になった。


 また、単純にAGIの差も大きいな。カルアはすでに400近い数字になっている。俺も『身体強化』を含めれば320もあって非常に速い。

 正直、彼らが可哀想になってくるレベルだ。

 まあ、最初だけは手加減をするつもりはないけどな。


 結局余裕もあったため中央マス天王山を取り、そのまままっすぐ真北を目指す。二手目だ。

 ここでマスを、まっすぐ直線を作るように取るのがポイントだ。時計で言えば12時を指す針のようにまっすぐ道を伸ばす。これにより保護期間の道が出来、相手は1時の方角から11時の場所へは来られない。2分間、完全に分断される。相手は東の巨城に近づけない。


 北の巨城を取りつつ東の巨城を取られないようにする狙いの考えられた二手目だ。


 相手がここから東を狙うのならば一回南へ出て大きく迂回する必要があるが、追いかけてくる相手の2人、サターン君とジーロン君は意地でもと言わんばかりに北を目指している。

 まあ、引き返して南を狙おうとすれば後続の3人が相手になったけどな。東巨城は絶対にやらん。


「ん、防衛モンスター撃破完了」


「よっし、後続が追いついてくる前に削っちまおうか。『勇者の剣ブレイブスラッシュ』! 『ライトニングスラッシュ』!」


「ん、わかった。『スターバースト・レインエッジ』! 『32スターストーム』!」


 北巨城に一番に到着した俺とカルアで防衛モンスターをコロがし、ラナたちが追いついてくる前に少々巨城のHPを削っておく。

 カルアは3段階目ツリーが開放されて存分に【スターキャット】の奥義を連発しているな。スピードを生かした連続攻撃系のスキルでガンガンダメージを稼いでいく。


 そしてサターン君たちが到着するころを見計らって巨城の隣接マスをすべて取り、保護期間で入れなくした。


「ぐおおぉぉ! 貴様ぁぁ! ここに入れろー!」


「ふふ。まさか、計算が違いますよ。ここで横取りしてゼフィルスの悔しがる顔を拝む計画が…」


 保護期間のバリアに阻まれてサターン君たちが壁殴りをしているが、俺はまったく気にならない。勝負は非情なのだ。


 あとジーロン君、そんなことを考えていたのか。後日ペナルティだな。


「待たせたわねゼフィルス!」


「あの方たち隙だらけですね。撃っても良いのでしょうか?」


「やっと出番だな、任せてくれ」


 とそこにバリアなんて無い風に入ってくるラナ、シズ、リカのメンバーたち。

 この保護期間中のマスに入れるのは身内だけなのだ。


 シズよ、確かに壁殴りするサターン君たちは隙だらけだがやめてあげなさい。


 ちなみにここから撃っても保護期間のバリアに阻まれてしまうためサターン君たちに攻撃を届かせることは出来ないけどな。

 保護期間中の壁に守られながら一方的に攻撃することは出来ない仕様になっている。


「まずはこの北巨城を先に落としちまおうぜ。作戦通りに行こうな」


「残念ですね」


 シズがしょんぼりと肩を落として銃を構える。狙いは巨城だ。よかったなサターン君たち。


「『獅子の加護』! 行くわよ! せーの『聖光の耀剣』! 『聖光の宝樹』! 『光の刃』! 『光の柱』!」


「『グレネード』! 『連射』! 『ファイヤバレット』! 『アイスバレット』! 『サンダーバレット』!」


「『飛鳥落とし』! 『焔斬り』! 『凍砕斬』! 『雷閃斬り』! 『光一閃』! 『闇払い』!」


「『ライトニングバースト』! 『シャインライトニング』!」


「『デルタストリーム』! 『スターブーストトルネード』!」


 上からラナ、シズ、リカ、俺、カルアが「せーの」に合わせて一斉に攻撃を叩き込む。

 一斉に攻撃するのは差し込み防止のためだな。一斉攻撃も重要な戦術だ。


「あ、あ、ああああ!」


「ふふ、ふふふ、おっふ!」


 それをバリアに阻まれた向こう側から見るサターン君とジーロン君が、巨城が落ちたと同時に唖然あぜんとした声を上げたのが聞こえた気がした。


「ゼフィルス、城を落としたぞ! 次に行こう!」


「行くわよゼフィルス! 次は東の巨城ね!」


「ん、行く」


 そしてそんなサターン君たちに気が付くことも無く東巨城に向かうリカ、ラナ、カルア。

 バトルとは非情なものである。

 保護期間が明けてしまう前に俺もすぐに東巨城へ向かったのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る