第260話 クエストのことについて聞きにきたら…おや?




 今日も授業をこなし、放課後。

 俺はリーナと共に職員室に向かっていた。例の大型クエストを受けるためだ。

 本当は〈学生手帳〉から申請も出来るのだが、色々リアルのクエストについて先生に聞きたいこともあるので直接聞きに行こうと思ったのだ。


「ゼフィルスさん、本日はわたくしを付き添いにお誘いいただいてありがとうございます。わたくしゼフィルスさんに誘っていただけて、とても嬉しいですわ」


「いや、この後リーナに用事があっただけで付き添いには誘っていない気がするんだが?」


 俺の記憶では「ちょっと職員室に行ってくる」「あ、一緒に行きますわ」こんな感じのやり取りだったような気がするが…。気のせいだっただろうか? いやチャットにしっかり履歴が残っている、気のせいではない。


 一応この後、新しいメンバーとなったリーナのLVを10に上げると共に、指導役として色々詰め込む予定を立てていた。所謂勉強会(ダンジョン編)というやつだな。だけどわざわざ職員室まで同行しなくてもいい気がする。


「ふふふ。そうだったでしょうか? でも教室は今とても騒がしくて、待っていられる所ではありませんの。あなたのせいですわよ?」


 そう言って流し目で見てくるリーナ。

 その妖艶な視線にドギマギする。


「いや、まあ。あそこまで大騒ぎするものとは思わなくて、な」


「もう、ゼフィルスさんは認識が甘甘あまあまさんですわ。わたくし、昨日も今日もクラスの人たちにずっと囲まれっぱなしでしたのよ? 転職をどうやって成功させたのだとか、どうやって短期間にLVを上げたのかとか、色々質問攻めにあいましたわ。もちろんお答えは濁しましたけれど」


「でも、転職して良かっただろ?」


「それは、もちろんですわ。こうしてゼフィルスさんとも会えました。今では神様の思し召しではないかと思っているくらいですわよ?」


 それはさすがに大げさだ。

 だけど、喜んで貰えているようで良かったよ。


 正直言ってあの時は少し強引すぎたなぁとは思っていたんだ。

 だけど、お嬢様と二人っきりでダンジョンに行き、短時間に転職の条件を満たすには押せ押せするしか無かった。


 説明してもし警戒されたら話が進まなくなるし。というか初めて会う男子と二人っきりでダンジョンとかお嬢様なら普通は警戒してしかるべきだし。

 相手に考える暇を与えないくらい、もう姫を攫うくらい強引に進めるのがベストだったと、今振り返ってもそう思う。

 そして結果はご覧の通り、大成功である。

 通報された時は肝が冷えたけどな…。




「だけど着いてきても暇だぞ多分」


「暇でもいいですわ。一緒に行きますの」


「いや帰って装備整えてくれば?」


 放課後は〈初心者ダンジョン〉行くんだけど?

 まあ、〈初心者ダンジョン〉周回なんて学生服でも行けるが。


 〈初心者ダンジョン〉は短いので放課後の少ない時間でも余裕で攻略可能だ。

 またリーナの今のLVは8だそうだ。後1回か2回の周回でLV10に届くな。

 日曜日の時点でLV7だったが、昨日のうちに1つLVを上げたらしい。やる気に満ち溢れている。


 一応助言したつもりだがこのお嬢様はまったく気にした様子も無く話を変えた。


「そういえば、ゼフィルスさんは何をしに職員室へ行くのです?」


「いや、大した理由は無いんだけどな」


 学園クエストを受けるのは初めてなため説明を受けに行くのだと告げる。


「なるほど、ではその話、わたくしも聞いておいたほうがよろしいですわね」


 彼女の職業ジョブはサポート系でも最高峰に近い【姫軍師】だ。

 主にギルド単位の活動でその真価を発揮する。

 学園クエストはギルド単位のクエストになるので、確かに【姫軍師】はいた方がいいかもしれないが…、


「大型クエストは中級下位ダンジョンのレアモンスターの素材確保だからなぁ」


 今回学園が出した大型クエストだが、中級下位ダンジョンの一つ〈倒木の大林ダンジョン〉で出てくる〈ゴピップス〉というレアモンスターが落とす素材の納品だった。

 レアモンスターなため非常に出にくい、故に大型クエストで多くのギルドに探してもらおうという魂胆だな。人海戦術だ。


 一応参加報酬ももらえるがこちらは微々たるもの。しかし狩りに成功し素材を納品できれば大量のQPクエストポイントがもらえる。一攫千金だな。

 フィリス先生が「成功すれば」と言っていたのはこういうことだ。


 まあ、レアモンスターなので血眼になって探す人は少ないだろう。会えたらラッキー程度の感覚でいた方がいい。思いっきり時間をかけて探したけれど結局見つからなかったなんてザラだからな。

 まあ、こちらには〈幸猫様〉が付いている。案外簡単に見つかるかもしれないので参加はする予定だ。


 つまりだ、職業ジョブLVが10にも至っていないリーナではLV不足なんだよなぁ。

 目的地、中級下位チュカ、入場制限LV40から…。


「う、確かにまだわたくしではお手伝いは出来そうにありませんが、後学のためにも聞いておいたほうがいいと思います」


「そっか。じゃあ頼む。今後指示出しなんかもリーナに頼む予定だしな」


「はい! わたくしまだ未熟ではありますが頑張ってお役に立ちますわ!」


 その意気やよし、だ。


 と、職員室に着いたな。ここもなんだか来慣れてしまったな。〈初心者ダンジョン〉の予約をするたびに訪れていたからだろう。


「失礼します。〈戦闘課1組〉ゼフィルスです」


「同じく〈戦闘課51組〉のヘカテリーナです、失礼いたしますわ」


 挨拶をしてから職員室に入り、勝手知ったるでフィリス先生の元へ向かう。

 ちなみにこの校舎には1年生しかいないので自分のクラスを言うだけでいい。


「あら、ゼフィルス君、ヘカテリーナさんも、いらっしゃい」


「お久しぶりですフィリス先生」


 リーナとフィリス先生は以前にも面識があったようだ。雰囲気からしてさほど親しいわけではなさそうだが、知り合い程度かな?


「お忙しいところすみませんフィリス先生にいくつか聞きたいことがありまして」


「いいわよ。ちょうど一段落したところだから何でも聞いて」


 許可を得たので予め用意していた事を聞いておく。


 ゲームでの納品クエは、帰還したときに〈中下ダン〉にいたゼゼールソンさんみたいな説明役の方に素材を渡して達成扱いだったが、細かな描写はカットされていたのだ。

 そのためちゃんと聞いておく必要がある。


 ポイントの方も使用するときはギルドハウスや購買などの一部で使用可能だったが、リアルではギルドハウスにいてどうやってポイントを使うの? って話である。

 ゲームでは、「ここに設備を置きますか?(1200QPクエストポイント)」などと表記され、「はい」を押すと自動で1200QPを支払って設備が出来上がる仕様だった。「設備完成まで残り2日」などと表記されて2日過ぎるといつの間にか完成しているアレだ。

 ゲームならではだが、リアルではまったく異なるだろう。異なるよな?


 フィリス先生には悪いが、〈ダン活〉のデータベースと言われた俺に穴があればそれは大変なことなので、しっかり聞かせてもらった。


 うん、やはりゲームとはだいぶ違う仕様だったな。脳内でゲームとリアルの差し替えを行う。ウィーン。差し替え完了。データベース更新、完了しました。


「もう、大丈夫かしら?」


 なんだかフィリス先生も少し疲れた顔をしていた。すみません。


「あ、そうだわ。学園長からつい先ほど〈エデン〉宛てに依頼が来たのよ」


「…学園長から、ですか?」


 はて? なんだろうか?


「ええ。何でもギルド〈エデン〉にしか頼めない内容だそうよ」


 そう言ってフィリス先生は2枚の書類を渡してきた。


 確認すると、そこにはこう書かれていた。



 〈学園長クエスト〈ビリビリクマリス〉の各種素材を納品してもらいたい。詳細は別紙記載〉

・〈六森ろくもり雷木いかずちもくダンジョン〉のレアボスを複数体・・・討伐する。

・〈ビリビリクマリスの大毛皮〉×20、〈ビリビリクマリスの雷斬爪〉×30、〈ビリビリクマリスの銀髭〉×10、〈ビリビリクマリスの大魔石〉×2、の納品。

・期限:〈5月19日(日)まで〉

・報酬:〈QPクエストポイント:20万P〉。



 〈学園長クエスト〈最上級からくり馬車(王族用)〉を作製し、納品してもらいたい〉

・ギルド〈エデン〉が使用している物と同じタイプの〈最上級からくり馬車〉を学園に納品する。

・期限:〈今月中〉

・報酬:〈QPクエストポイント:30万P〉。



 俺は顔が引きつるのを感じた。




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