第255話 歓迎会&祝賀会! お祝いの時は豪勢に!
「では! 新しいメンバーの加入と、〈エデン〉の中級ダンジョン初攻略を祝って乾杯!」
「「「乾杯!」」」
グラスを掲げ乾杯の音頭を取ると、席からカカカランとグラスが当てる良い音が奏でられた。
現在、日曜日の夜7時。〈エデン〉ギルド部屋にて歓迎会&祝賀会が行われていた。
誰が作ったのか、〈幸猫様〉がお座りになる神棚の上には「第3回・ギルドエデン歓迎祝賀会」と書かれた横断幕が飾られている。なかなか気合いが入っていた。
Eランクになり広くなったテーブル席には多くの料理が並び、皆が舌鼓を打っている。
そして忘れてはならないのが本日の主役だ。
元々、中級ダンジョン初攻略の祝賀会はやる予定だった。中級ダンジョンの攻略ギルドというのは、それだけで学園内外からの評価も大きく違ってくる。一つギルドが大きくなったと同じ意味を持つのだ。祝わなければ嘘だろう。
そこに新たにヘカテリーナが加入したため、一緒に祝ってしまおうという話だな。
問題はルル、シェリア、シズ、パメラの時は歓迎会する暇が無くて出来なかったのにヘカテリーナの時はやるのか、という点だったが、彼女たちは気にしていないとのことなのでホッとしている。
あの時、俺がほとんど付きっきりで彼女たちを育成した事がプラスに働いたようだ。シェリアやシズは、もうたくさんいただきましたからと言ってくれた。
というわけで心置きなく歓迎会だ。チャットで全員に呼びかけた時、誰も予定が埋まっていない日が今日しかなかったのにはちょっと焦ったが、超特急で用意してなんとか間に合った。
俺は無事開催出来た歓迎会&祝賀会を満足しながら見渡すと、1人呆然としている彼女の元に向かった。
「ヘカテリーナ楽しんでるか?」
ちなみにさん付けは今日一日の濃いハードスケジュールをこなす過程でいつの間にか取り払われていた。ヘカテリーナも気にしていないようなのでこのまま呼んでいる。
ヘカテリーナは未だ状況が飲み込めないんですのといった顔をしてこちらに振り向いた。
「ゼフィルスさん。あの、おかしいですの。なんでわたくしはここに居るのでしょう?」
記憶が混濁しているようだ。いったい誰がこんなになるまで…。
まあ、十中八九俺が連れ回しすぎたのが原因だと思うが。
まずは正気を取り戻させなくては。
「よーく思い出すんだ。今日は何をしたっけ? さっき〈竜の像〉の前でやったことを思い出すんだ」
「んー。〈竜の像〉…、〈竜の像〉…、おかしいですわ、わたくし白昼夢でも見た気がしますの。ですが【姫軍師】の
「夢じゃ無いからな、それ」
記憶が混濁しているようだ。いったい誰がこんなことを…。
「とりあえず自分のステータスを確認してみ?」
俺に言われるがままにステータスを確認したヘカテリーナの瞳がくわっと開いた。
「はっ! あれは夢じゃ無かったんですの!? わたくしは本当に【姫軍師】になっていますわ! なぜ!?」
「理由なんていいじゃ無いか。まずは【姫軍師】への〈転職〉、おめでとう」
「へ? あ、ありがとうございますわ?」
「今日はヘカテリーナが〈エデン〉に加入した記念日だ。美味しい料理をたくさん用意したから楽しんでいって欲しい。あ、あとメンバーも紹介するな」
「はっ! 〈エデン〉。加入!? そうですわ、わたくし流れるままにトップギルドに加入までしてしまって、頭の処理が追いつかなくなっていたのですの!?」
おお! ヘカテリーナが再起動を果たした。
ようやく今の状況が何故起こったのか飲み込めたらしい。処理に凄く時間が掛かったな。
「じゃあ、まずラナから紹介するな。〈エデン〉唯一のヒーラーで――」
「ラナ殿下!? お願いゼフィルスさんわたくしもうパンク寸前ですの! 手加減してくださいまし!」
ヘカテリーナが悲鳴を上げる。
しかし、今回の主役の1人はヘカテリーナなので向こうからやってきてしまうのだ。
従者のシズ、パメラ、エステルを連れたラナが俺たちの前までやってくる。
「ヘカテリーナ久しぶりね! これからは同じギルドの仲間よ、よろしくね!」
「は、はい! ラナ殿下、こちらこそよろしくお願いいたしますわ」
「2人は知り合いなのか?」
「そうね、でも本当に知り合い程度の仲だったから、ここでは仲良くなれると嬉しいわ」
ラナの話によれば、この国シーヤトナ王国には3つの公爵家があるらしいが、ヘカテリーナの公爵家はかなり遠いところにあるようだ。そのためラナとはあまり面識が無かったみたいだな。
ヘカテリーナは公爵家の息女として、最も名高い学園まで学びに来ているのだそうだ。
まあ、それで結果が【大尉】じゃ浮かばれない。ヘカテリーナの今朝の落ち込みようも分かるな。
ラナとの交流が終わった後は他のメンバーも紹介していく。
これからヘカテリーナがバンバン指示出しする相手だ、しっかり名前と顔を覚えて貰わなければ。
ヘカテリーナ1人ではまだ不安だろうから俺が付きっきりでフォローした。
「つ、疲れましたわ」
「そういうときは美味いものを食べれば生き返るさ。これなんかオススメだ」
紹介も終わったので〈
出したてなので熱々だ。
「あの、そういうとき女の子には甘い物を出すものですわ。なぜがっつりとしたステーキなんですの?」
そう、ヘカテリーナの言うとおり、俺が出したのはステーキだった。
確かに、疲れ切っている女子に出す物では無いのかもしれない。
だが、これでいいのだ。
「まあ食べてみな。こいつは料理アイテムだ、むっちゃ元気が出るぞ。それに美味い」
「はあ、では一ついただきますわ。――ぱく、………おいしい。あの、もう一口よろしいでしょうか?」
「おう。どんどん食べな」
「――本当に美味しいですわ。それに元気が出てくるような。あの、これはなんなのです?」
「ふふふ、聞いて驚け。こいつはレアモンスター〈ゴールデントプル〉のドロップ肉を贅沢に使った料理アイテム、〈耀きの恐竜ステーキ〉だ。一時的にHPの最大値が上昇するほか、睡眠耐性を始めとした多くの耐性を得ることが出来る強力なアイテムだな。ちなみに狩ったのはうちの優秀な【錬金術師】のハンナだぞ」
元気が出るのは睡眠耐性のおかげだな。目がシャキンとするぞ。
「〈ゴールデントプル〉のお肉ですの! あ、ハンナさんと言えばあの有名な!? レアモンスターのお肉なんて贅沢、わたくしがいただいてしまって良かったのでしょうか」
「良いに決まっているだろ、ヘカテリーナももう〈エデン〉のメンバーなんだし。むしろ今日は歓迎会&祝賀会だぞ。ここで食べないでいつ食べるんだよ。それでも悪いと感じるなら〈エデン〉で頑張ってもらえればいい」
「……そうですわね。正直なところ、まだ実感がふわっとしていますの。【姫軍師】に転職できたことも、1年生〈戦闘課1組〉だけで構成されたトップギルド〈エデン〉に加入出来たことも、全部朝になったら目覚めてしまうのではと思ってしまって、足がすくんでしまいますのよ?」
「はは、まあ夢じゃ無いから安心しろって言ってもこればっかりはな。まあ明日になれば実感も湧くだろうさ。〈エデン〉に入ったからにはビシバシ鍛えていくからそのつもりでな」
「ふふふ。もし夢で無ければ、お願いしますわ。わたくしをあの暗闇から救い出してくださるのなら、ゼフィルスさんに頑張って付いてくと誓いますわ。だからわたくしも支えてくださいねゼフィルスさん?」
「え? ああ。大船に乗ったつもりで任せてくれていいぞ?」
あれ? なんか空気が変な気が…、気のせいか?
「あの、わたくしの名前、親しい方はリーナとお呼びになるんですの。ゼフィルスさんも是非そうお呼びになってほしいのです」
「そ、そうか。リーナ?」
「はい!」
試しに呼んでみると花が咲くような笑顔でヘカテリーナ改めリーナが返事をした。
えーっと、懐かれた、のか? え、違う?
リーナの反応に動揺していると、そこに影が現れた。
振り向くと、ちょっと不機嫌そうなラナが、
「ちょっとゼフィルス! 何新しい子にデレッとしているのよ! というかさっきからベッタリとしすぎよ! 離れなさい!」
え? まったく身に覚えが無いんだけど?
「ゼフィルス、そろそろ皆の方を回っても良いのでは無いかしら? ヘカテリーナさんだってずっとあなたと一緒だから心が休まらないはずよ」
シエラまで来た。
え、なんかシエラまでトゲのある口調なんだけど?
「あの、わたくしは別にゼフィルスさんが居てもらっても――」
「もうゼフィルス君、せっかく作ったお料理が冷めちゃうからこっち来て。よそって上げるから。あと〈幸猫様〉にもお供えしよう。〈耀きの恐竜ステーキ〉も食べてもらおうよ」
最後はハンナが俺の腕を取り、無理矢理テーブルの反対側に連れて行った。
なんかハンナも機嫌悪い?
リーナが何か言っていたが、ハンナの声にかき消されて聞き取れなかった。
その後俺はルルたちのいる場所に連れて行かれ、たくさん料理を食べさせられた。
さすが料理専門ギルド〈味とバフの深みを求めて〉に依頼した品だけあってどれも美味しかったが、君たち食わせすぎじゃ無い? もう入らないって。え、まだ食わす気? 気のせいだよな?
結局、俺は腹が膨れすぎて身動きが取れなくなるまで料理を食べるはめになった。
こうして歓迎会&祝賀会は過ぎていったのだった。
第四章 -完-
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