第251話 〈上級転職チケット〉の使い道。正しく使おう。




 中級ダンジョンからは〈上級転職チケット〉がドロップするようになる。


 これを〈竜の像〉の前で使用すれば、発現条件を満たしている上級職の一覧が現れ、転職が可能になる代物だ。


 この世界では、〈公式裏技戦術ボス周回〉が知られていないため〈上級転職チケット〉は非常に貴重で高価なアイテムだ。皆が欲しがっているのに需要に供給がまったく届いていない。むしろ絶対に出回らないまである。


 ゲーム〈ダン活〉時代でもギルドメンバー全員分を集めるのは苦労した。

 こっちは〈公式裏技戦術ボス周回〉しまくっていたというのに全然手に入らないのだ。狙おうとすると出てこない。「妖怪:物欲センサー」が邪魔をするんだ。


 それに中級ダンジョンでは〈上級転職チケット〉のドロップ率が非常に低い、というのもある。何しろ僅か1%だ。ボスに100回チャレンジして1個落とすかどうかの確率である。


 ガチャを回したことがあるなら分かるだろうが1%というのは本当に出ない。300回チャレンジしても出ない、なんて事もざらだ。

 そしてそんな〈上級転職チケット〉をパーティ5人分揃えなくちゃ上級ダンジョンを攻略することはできない。どれほど難易度が高いか分かるだろう。


 故に、このリアル世界では上級職への覚醒者が非常に少ない。

 普通のギルドでは1日1回ダンジョン攻略を目標にしたとして、卒業までに5人全員分の〈上級転職チケット〉が集まるかどうかは微妙な所。実際、土日祝日にしか攻略できないので5人は無理だ。


 たとえ5人分の〈上級転職チケット〉が集まったとして、上級ダンジョンをクリアするために最適な職業ジョブ持ちに使わなければ攻略は難しい。

 しかし、実際に〈上級転職チケット〉を使うのはドロップした攻略者だ。上級ダンジョンを攻略したいからそのチケットを差し出せと言われても誰も応じる者はいないだろう。


 故にこの世界では上級ダンジョンへの挑戦者はほぼいない。攻略しても〈上級転職チケット〉がドロップすることはこの世界では確認されていないので、皆〈中級ダンジョン〉をクリアしたがるらしい。それもこの世界が上級ダンジョン以降の攻略が進んでいない理由の一つだな。


 しかし、実際には上級ダンジョンなら〈上級転職チケット〉のドロップ率が3%に跳ね上がる。


 ゲーム時代ではなんとか中級で5個集めて、上級ダンジョン攻略メンバーだけ上級職にして、上級ダンジョンを周回しまくってチケットを集める、これがセオリーだった。

 ドロップ率1%でギルドメンバー最大50人分集めるのは厳しいよ。


 さて、いかに〈上級転職チケット〉が貴重かは理解して貰えたかと思う。

 そんな〈上級転職チケット〉がなんと、ドロップした。初の中級ダンジョン攻略で。これは幸先が良い! 〈幸猫様〉ありがとございます!


 ちなみにハンナの〈金箱〉には〈恐竜の鎧シリーズ〉と呼ばれる防具の〈頭〉〈体①〉の2つが入っていた。シリーズ防具は3種類以上揃えると〈シリーズスキル〉を覚えることが出来る。それを2つもゲット出来たのだ。

 これも素晴らしい、後一個足りない……妖怪が怖いな。


 が、しかし今これは置いておこう。〈上級転職チケット〉の方が重要だ。


 さて、全員がこの存在を知っていたため説明は不要。問題はこの〈上級転職チケット〉をどうするかである。


「私が使うわ! 私に使わせて!」


「いいえ。タンクに使うのこそベストよ。戦闘の安定性が格段に増すわ」


「攻撃力を上げるのはいかがでしょうか? 中級のボスはダメージが中々入りませんし」


「ええっと。私はまだ大丈夫かな…、でも…」


 まあ、全員が全員使いたがるだろうな。この世界では上級職は一握りの存在。非常に憧れの存在でもあるのだ。

 また、チケットは欲しくて手に入るものじゃない。むしろ欲しがるほど手に入らなくなる物でもある。(なんか妖怪ようかい?)

 ええい妖怪退散!


 現在〈エデン〉が保有する〈上級転職チケット〉は2枚。うち1枚は俺とハンナしか知らない秘密なので実質1枚だ。秘密の1枚はここぞという時のために隠しておく。


 さて、話が脱線したが俺はすでに〈上級転職チケット〉をどう使うか決めているので皆を落ち着かせよう。


「聞いてくれ。俺は、まだ誰かにチケットを使う予定は無い。この〈上級転職チケット〉はしばらく保管しておく」


「えー! ちょっとそれどういうことよ!」


「まだ、ということは今後使う予定はあるのよね?」


「もちろんだ。〈上級転職チケット〉を使うのは下級職のLVがカンストしたLV75の時のみ、それ未満での使用は〈エデン〉では不可とする」


「…続けて」


 ラナはまだ不満そうだが、先を促すシエラには理解の色がある。


「皆にも分かりやすく説明するとな。まず〈上級転職チケット〉が使えるようになる転職可能レベルリミットがLV30からだ。これは皆知っていると思う」


 俺の発言に皆が頷くのを確認して先に進む。


「だからといってLV30で〈上級転職チケット〉を使う人はいない。何故だか分かるか?」


「SUPやSPが勿体ないから…。なるほどね」


「シエラの言った通りだ。上級職に転職すると、現在のSUPやSPは引き継がれる。だからLVは75カンストまで育てた方が最終的に強くなれるんだ。今のLVで上級職に転職してしまったら残りの成長値レベルをロストしてしまう」


 そこまで説明すると全員が納得の表情を見せた。


「分かったわ。でもLVがカンストした時はどうするのよ、というか誰に使う予定なのよゼフィルスは」


 何やらラナが鋭い視線で見つめてくるが、そんな事は決まっている。


「全員だ」


「全員って…、そんなこと、出来るのかしら?」


「可能だ。確かにここに居るメンバー全員にチケットを配り終えるには少し掛かると思うが、俺たちにはボス周回があるからな」


「! ………そうね。それが出来る。出来てしまうのね」


「ああ」


 俺とシエラのやりとりで気がついたのだろう、ラナ、エステル、ハンナも目を見開いてとても驚愕の表情で俺を見た。

 それほどこの世界では常識外れの事なんだろう。しかし、出来る。


 元々〈公式裏技戦術ボス周回〉は〈上級転職チケット〉などを手に入れさせるために開発陣が苦肉の策で用意したものだ。


 だから、時間は掛かるだろうが絶対にゲット出来るんだよ〈上級転職チケット〉をパーティ分。そして上級ダンジョンが攻略出来るようになればギルドメンバー全員分が確保可能になる。

 だから争う必要も、取り合う必要も無い。

 時期が来ればパーティを、いや〈エデン〉全体を上級職に出来るのだ。


 そのために俺たちがやることは決まっている。


 まずは中級ダンジョンのボス周回だ。




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