第235話 ハードな訓練? この4人、正気か?




「ふふ、ふふふ、フフフフ――」


「悪魔だ。あいつは悪魔だ」


「マジ鬼だぜ……。俺様にここまで言うなんて。親にすら怒られたことないのに……」


 何故かアドバイスを送ったら他の3人もサターン君の後を追った。


 こいつら、メンタルが凄く弱いな! びっくりしたわ!


 挙げ句の果てには、そこまで言うなら実力を見せてみろ、とか言い始めたのでちょうど襲ってきたゴブリン3体相手に通常攻撃のみで秒殺したら大人しくなった。膝を付いたとも言う。


 ふう、俺もだいぶ成長したなぁ。LVだけじゃなく、プレイヤースキルもだいぶ上達してきた気がする。


 自分の戦果に満足している俺とは違い、彼らの凹みっぷりは地面にめり込むレベルだった。

 ちょっと、言い過ぎたか?


「ゼフィルスさん。これはいったいどうしたんですか?」


 採取の旅から帰ってきたモナが、大の男4人が膝と頭を地面に付けている光景を見てキョドる。


職業ジョブを効率よく運用出来るようアドバイスを送ったら、自分がいかにへっぽこなのか自覚してこうなった、みたいだ」


「ありゃぁ~。ゼフィルスさんって本当に凄いですから。僕もあのメモを最初に読んだ時、雷に打たれた思いでしたし」


 何か経験があったのかモナが納得顔で彼らを見る。

 しかし、元々プライドが高くなりすぎた彼らだ、この程度で折れはしなかった。

 歯を食いしばるような顔をしてこちらを向く。


「へっぽこ……。このサターンが、へっぽこ、だとぉ!」


「ふふ。その言葉は、聞き逃せませんね」


「俺を舐めたこと、後悔させてやる」


「俺様をここまで凹ました奴は貴様が初めてだ!」


 おお! さすが1組男子。負けん気が強い。もう復活したぞ。

 そうこなくっちゃな!


「よしその意気だ! 今日は俺がビシバシ指導してやるからな。頑張って上手くなろうぜ!」


 俺も彼らのやる気に応えようとしっかり指導することを約束する。

 しかし、約束された彼らからは一瞬凄い影が差した気がした。なんだろう、絶望感? 悲壮感? そんな感情が表情に表れた気がしたがきっと気のせいだろう。

 証拠にサターン君が決意を込めて言う。


「くっ!? いや、この我が、このサターンが負けるものか! いいだろう、その指導とやら、耐えきってみせるぞ!」


 サターン君が言えば他の3人も続く。


「ふふ、ふふふ。僕だって負けませんよ。サターン、君にだけ先に行かせる訳がないでしょう」


「俺だって負けん! この中で俺こそがトップの強者だと思い知らせてやる!」


「俺様を忘れて貰っちゃ困るな。俺様こそが真の強者だとすぐに分かるだろうぜ」


 ライバルには負けられないと言ったところか。3人が奮起する。青春を感じるなぁ。


 いいだろう。初の野良パーティだし少し彼らに合わせようと思っていたが、彼らが全力で学びたいというのなら俺も応えてやろうと思う。同じクラスのよしみだ。

 まあ野良だからさほど時間も無いし、色々詰め込むのでハードかもしれないが頑張って欲しい。


 じゃ、続きと行こうか。




「ほらサターン、狙いが甘いぞ! ちゃんと狙え! デカい魔法に頼るな!」


「ぐおおぉぉぉぉ! 『フレア』ぁぁぁ!!」


 サターン君の魔法がゴブリンに飛来するが狙いが甘く、避けられる以前に当たる軌道にすらなっていない。当然ゴブリンをスルーして飛んでいき、サターン君の魔法は無駄に終わる。


 先ほどからサターン君には後衛から魔法を撃たせているのだが、思った以上に命中率が低い。

 彼が前衛付近まで前へ出ていたのは、この命中率の無さをごまかすためだったみたいだ。


 当たれば一撃な『フレア』だが、当たらなければ無意味である。

 サターン君は今までその圧倒的な攻撃力のみでモンスターを殲滅していたみたいだが、それはザコだから通じる手段だ。今後中級ダンジョンに挑んだら確実に詰むな。


 今のうちにちゃんとしたやり方を身につけておいた方が良いだろう。


 ちなみに他の3人だが、こいつらは前衛なので攻撃が当たらないなんてことは無い。

 そのため俺の指導によりここ数時間でなかなかの成長を見せていた。半ばやけくそみたいに見える時もあるが。


 というわけでまったく成長の兆しが見えないのはサターン君だけだ。


「クソぉぉぉ! やっていられるかぁ! 『メガフレア』ぁぁぁ!」


 ついに癇癪を起こしたサターン君が中級魔法を使ってしまう。

 しかし、ゴブリンに当たらない。命中率が悪い。


「ノオオォォォォォ!?」


 サターン君が膝から崩れ落ちた。

 渾身の一撃も命中せず、凹み度が進行している。


「我は、サターン、偉大な【大魔道士】、サターンなのだ―――」


 ついには地面に向かって自己紹介まで始めた。

 相当キテいるかも知れない。


「うーん。こりゃダンジョンの前にまず練習しなくちゃどうしようもないな」


 今のままでは戦力外だ。良くこれでここまで来れたものである。逆に凄い。


 あと前衛組の視線が痛い。


「ふふ、また凹ませていますね」


「悪魔かよ」


「俺様だからこそ耐えられるのだ。こんなスパルタ指導をされればああなるに決まっているというのにな」


 いや、そんなハードな事言ってないぞ? 

 むしろそれ以前の段階だ。


 結局MPが底を突いたサターン君には休んでいて貰い、前衛組たちだけでその後は進んだ。


 そして夕方、俺たちは最奥の救済場所セーフティエリアにたどり着いたのだった。




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