第205話 レアボスはたまに困ったちゃんになる。




「フッハハハハハ!!」


「『カウンターバースト』!」


「ブハッ!?」


 両腕を前に突き出しながら扇状に棘をぶっ放しまくっていた〈サボテンカウボーイ〉がシエラに『カウンターバースト』をぶっ放されてエフェクトに消えてしまった。

 遠距離攻撃だから防御スキルは効かないと油断したな、『カウンターバースト』は結構範囲がデカいんだぞ。

 ギリギリの距離で反撃を届かせてみせたシエラがすっきりとした顔で勝利の余韻を味わっていた。


「お疲れ様シエラ。最後ナイス判断だったぜ。だいぶ遠距離攻撃の対処にも慣れてきたか?」


「そうね。それに『カウンターバースト』の有効なタイミングも掴めてきたかしら。範囲も分かってきたし、次はもっと上手く決められると思うわ」


 今の手ごたえがよほど良かったのかシエラが珍しく意気込んでいた。

 だが、そんな彼女に心苦しいが俺は言わなくてはいけないことがある。


「残念だが〈笛〉の回数はもう1回ずつしか残ってないからレアは無理だな」


「……そうだったわね。でも普通の〈サボッテンダー〉にも使えるでしょうし、まだ練習は出来るわ」


 シエラの向上心は本当にすごいな。ここまで頑張れば俺も戦闘が上手くなるのだろうか? 俺も見習わなければ。


 〈笛〉を吹いて戦闘してを繰り返し現在8周目。とうとう〈笛〉の残り回数が1ずつになってしまった。これ以上吹けば壊れてしまうので、楽しい楽しいレアボス戦はここまでだ。

 残念だ。残念でならない。もっと〈笛〉が欲しいです!


 ちなみに戦果は当たりが5回、ハズレが3回だった。

 やっぱり3回ハズレたか。自腹じゃなかったら利益になんなかったところだ。

 一応〈ビューティフォー現象〉が1回だけ来たけれど〈金箱〉は出なかったからなぁ。

 利益的にはちょっと微妙なところになっていただろう。


 しかし、経験値的にはレアボスは非常に美味しかった。

 リカとカルアの職業ジョブLVが共に31に至ったからな。

 とりあえずの目標は達成した。


 とはいえまだ時間はあるので周回はする。次からは普通の〈サボッテンダー〉だ。

 ラナが何か言いたそうだがスルーする。シエラの向上心を見習ってほしい。




 時は過ぎて午後5時、もう〆の時間も間近だ。


「フッフッフー……フ…」


 通算28体目の〈サボッテンダー〉がエフェクトの海に沈んでいく。この光景も見慣れたものになってしまったなぁ。

 いつもより早いが今日はこれでしまいにしようと思う。


「そろそろ撤収しようか」


「え、少し早くない? まだ5時じゃない、全然出来るわよ」


 ラナが〈学生手帳スマホ〉の時間を確認して抗議してくるが、シエラが話に入ってきてたしなめるように言う。


「賛成するわ。明日からは学業があるから、ラナ殿下もエステルから早めに帰るよう言われていたでしょ?」


「うー。そうね、分かったわ。はぁ、さようならダンジョン」


 名残惜しそうにダンジョンにさよならするラナ。なんか覚えのある光景だな。俺も言った事があるセリフだ。

 ラナは相当ダンジョンにハマっている様子だ。



 そのまま初ダンに帰還すると、人は少ないのになにやら騒がしい。

 一部のダンジョン門に人が集まっているのだ。あれは初級上位ショッコーの一つ〈毒茸の岩洞ダンジョン〉の門だな。その門の前に人だかりが出来ている。


「何かしら、少し騒がしいわね」


「今日は1年生の測定最終日でしょ? 確か上級生も駆り出されているって聞いたけど」


 シエラとラナも同じく人だかりの方を気にするように言う。

 いつもより初ダンに人が少ないのは、ラナが言うように上級生も一部が測定に助っ人参加しているためだ。就活の内申書にも響くので参加する学生は多い。まあ、大体はクエストポイントが目当てだろうけど。


 しかしそんな中、そこに集まっているのは上級生だと思われた。初級上位ダンジョンに1年生で到達しているのはまだ〈エデン〉のメンバーだけのはずだからな。それに集まっている人たちの装備はまだ1年生では揃えられない物ばかりと言うのもある。何故上級生が集団でこんなところに?


 少し耳を澄まして話を聞いてみよう。


「くそう、諦めきれねぇ!」


「しかしどうすることも出来ないだろ」


「でも、一攫千金なんだぞ? あいつを倒せさえすれば、倒せさえすればー」


「それは倒せればの話だ。Eランクにも届いていない俺たちじゃ…」


「はあ、運が悪いなぁ」


「ほんとな、なんでレアボスなんて出るかなぁ。やっとEランクだと思ったのに」


「仕方ない。誰かに頼んで倒してもらうしかないだろう。あれに立ちはだかられてちゃ攻略が進まない」


「くそう、本当にそれしかないのかぁ」


「でも同級生も3年生も今日は忙しくて誰もいないぜ? 誰に頼むよ」


「はあ、運が悪いなぁ」


「そうだな、内申書とクエストポイントを無視してまでダンジョンの貸切を選んだのに。レアボス登場で進めずってどんだけだよ」


「やっぱり1年生を手伝わなかったから天罰が下ったんじゃないか?」


「はあ、運が悪いなぁ」


「お前さっきからそれしか言ってねぇな!?」



 ふむふむなるほど。状況、把握。


 どうやら彼らは今日の一大行事をサボってダンジョン攻略を優先したらしい。

 ダンジョンを一日貸切で攻略したのはさぞ気持ちが良かったことだろう。何の意味があるのかはよくわからないが。

 しかし、肝心のボス戦でレアボスが登場し、逃げたか負けたかして戻ってきたようだ。


 ちなみにレアボスは一度現れると倒されるか特定のアイテムを使われない限り消えず、登場したままになる。運が悪いと彼らのように攻略を止められてしまうこともあるのだ。


 そうして彼らは攻略を止められてしまい困っている、ということだな。


 なるほど、これはチャンスだ。


 俺は1人彼らの方へ足を向ける。


「ちょっといいだろうか先輩方」


「ん? すまないが今いそが……あれ?」


「どこかで見たような?」


「おい、お前らバカか!? あ、あの、もしかして、あなたは、〈エデン〉の【勇者】では!?」


「いかにも俺が【勇者】ゼフィルスだ。なにやら困っているようなので声を掛けさせてもらった。その困りごと、俺に任せてはくれないか?」



『サブクエスト〈立ちはだかるレアボスを討伐しよう〉が開始されました』

・〈毒茸の岩洞ダンジョン〉で立ちはだかっているレアボスを討伐する。

・報酬:〈金箱〉確定。

・期限:本日中。




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