第117話 新たなメンバー候補「エルフ」のシェリア。




 〈エンペラーゴブリン〉戦から帰還して昼食を食べる。

 当然のようにハンナがお弁当を持ってきてくれたので近くのラウンジでいただいた。

 相変わらず美味しいし、いつもいつもありがたいと思う。


 お返しが錬金素材くらいしか渡せないのがなぁ。いや、思い返せば色々あげている気がするな。杖とか、〈能玉〉とか。今度装備もアップグレードするし。


 ……でも普段のお礼としても何か報いてあげた方が良いのか?

 俺は真剣にハンナのお弁当を見て検討する。



「ごちそうさまでした」


「お粗末様でした」


 そんな事を考えていたらあっと言う間に食べ終わってしまった。

 美味しいとすぐ食べ終わってしまうのが辛い。


「午後は新しいメンバーの面接が入っているんだっけ?」


「ああ。まずはエステルの勧める人からだな。「エルフ」の方って言っていたが」


「エルフさんか~。私まだエルフって見た事ないんだよ、ゼフィルス君は知ってるの?」


「まあ、な」


 ハンナがまたか~みたいな目になる。何故知っているのかとか、気になるけどいつもの事だから~、とか思っているに違いない。

 俺はごまかすように「こほん」と入れると、良かれと思って説明する。


「エルフというのは肉体は弱いが魔法に非常に高い資質を持っている種族だ。魔法の純アタッカーと言えば人間よりエルフの方が強い事が多いな」


 ステータス的には人間と同じからスタートなんだけど、就ける職業ジョブが魔法使い系の物がほとんどを占めているため【INT】を中心に育成する事が大半だ。

 そういう意味で魔法使い特化種族だな。


「また『精霊魔法』というエルフしか使えない魔法もあって、これがかなり強い。魔法の威力の%が他の魔法職より高いほか、出せる精霊によって属性を多様に使い分ける事が可能。そしてもっとも強力なのが、他のメンバーに精霊を貸す事が出来る能力だな」


「精霊を、貸す?」


「精霊は全部で6属性、【STR】を司る〈火精霊〉、【VIT】を司る〈氷精霊〉、【INT】を司る〈雷精霊〉、【AGI】を司る〈光精霊〉、【RES】を司る〈闇精霊〉、【DEX】を司る〈聖精霊〉だ。それぞれが強力なバフの能力を持っていてな。貸した相手のステータスを最大3割も上昇させる事が出来る。もちろん司るビルドのみだし、貸せるのは1人につき1体だけという制限付きだが、驚くべきは精霊を貸している間これがずっと続くという点だ」


 破格と言って良い能力だ。

 例えば〈火精霊〉をエステルに貸した場合、ただでさえ強力な【STR】が最大(×1.3倍)になる。最後に見た時は【STR】150だったから1.3倍で195だな。これがダンジョンアタック中ずっと続く。超強ぇ。

 その代わり精霊魔法は火属性が使えなくなるが、戻す事は可能だ。


 カルアの『素早さブースト』はLV10の時で最大1.6倍だが、これは【AGI】固定なのに対し、精霊魔法は貸し出した精霊で変化するので上げたいステータスが自由自在だ。

 これだけでもメンバーに入れる価値がある。


 しかもだ。貸せる精霊はとある条件を満たせば増える。

 1人につき1体という制限は変わらないので、複数人に精霊を貸せるようになる。例えばシエラに【VIT】の〈氷精霊〉。エステルに【STR】の〈火精霊〉。ラナに【INT】の〈雷精霊〉をそれぞれ貸すことも可能なのだ。


 夢が広がりまくる。


 その代わりプレゼントアイテムが無いとスカウト出来ないけどな。

 その辺どうなるか心配だ。今の状態でスカウト出来るのかな?


 あ、なんか話していたら「エルフ」に会いたくなってきた。


「ハンナ、時間は?」


「へ? あ、そろそろ行かないとね。もう13時になるよ」


「よっし。じゃあ行くか」


 話し込んでしまったがちょうど良い時間だった。

 待ち合わせは我らが本拠地〈エデン〉のギルド部屋。

 さあ、件の「エルフ」に会いに行こう。





「こんにちは、ゼフィルス殿。今日は〈草原〉に行っていたのですか?」


「ああ。こんにちはエステル。今日の午前中は昨日のMPポーションの補充をしていたな。そっちはどうだった?」


 何故だろう。普通の挨拶のはずなのに気が抜ける。

 いや、普通だからこそか。高いテンションを素に戻された気分だ。


 まあいい。

 まずは世間話から入る。ついでにカルアとリカの事も聞いておいた。今日は〈熱帯の森林ジャングル〉の最下層へ行くって言ってたし気になってたんだ。初の初級下位ショッカーボスはどうだったよ?


「はい。二人とも、初めてのダンジョン本番にも関わらず冷静沈着で、私も見習うべき所が多かったです」


「そういう話じゃないんだけどな」


 真面目か!

 もっと、面白そうだとか、楽しそうだとかあるだろう?

 初のダンジョンアタックだぞ? LV上げとか、もう少し喜び勇んで……いや、あの二人じゃ無理か……。

 無言と真面目でダンジョン攻略する2人が想像出来てしまい肩の力が抜ける。


 違うんだよなぁ。もっと楽しめよと言いたい。

 ラナはあんなにはしゃぎ回っていたのに…。あのパワーを分けてあげたい。


 なんか釈然としないまま話は終わり、続いて先ほどから気になっていた件の紹介の方へ向く。


 ギルドに来た時から気になっていた。

 エステルの横に座る緑色の髪をサイドテールにした少女。

 耳がやや尖っており「エルフ」だというのが分かる。

 身長はラナより大きく、エステルよりやや低い。高身長でスレンダー。顔は美形で目は優しい印象を受ける。花の冠のような髪飾りを付けているのがチャームポイントで目が引かれた。



 彼女がエステルの紹介したい人物。確か幼馴染と言っていたエルフの方だろう。


「彼女の名はケイシェリア。私はシェリアと呼んでいます。騎士家は魔法関係に強くなく、そこを補うため補佐を頼んでいる家系の子です」


「ケイシェリアです。初めまして、勇者様。どうぞお見知りおきください」


「初めまして。ギルド〈エデン〉のギルドマスターをしているゼフィルスだ。今日はよろしくな」


 エステルに紹介してもらう形で立ち上がったケイシェリアが一礼。騎士爵家と付き合いがある家系の子なだけあって礼儀正しい印象を受ける。


 さて、ここからどう進めようかと考えるが、先にこっちの疑問を解消しておこうか。


「一つ聞きたいんだが」


「はい。お答えできることなら」


「ああ。うちのギルドには〈ユグドラシルの苗木〉も〈赤い実〉も〈観葉植物セット〉も無いが入ってくれるのか?」


 以前エステルに質問した言葉そのままにケイシェリアに質問した。

 彼女の目が泳ぐ。




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