第115話 笛発動。再戦の〈エンペラーゴブリン〉!!




「〈エンペラーゴブリン〉よ! 再戦の時は来た!」


 俺は〈野草の草原ダンジョン〉の最下層、救済場所セーフティエリアでそう高らかに叫んだ。


「わーわー。ゼフィルス君頑張ってね」


 後ろに控えてお茶の準備を始めたハンナが拍手でもって送り出してくれる。

 俺はそれに手を上げて返し、門の前に立った。


 今回ハンナは留守番だ。俺はまた、あの時の感動を胸に〈エンペラーゴブリン〉との再戦を望んでいた。

 〈草原〉に来たのだって、半分はこのためだったしな。


 もう一つの目的の〈魔力草〉は午前中でだいぶ集まった。

 なんと合計568個。

 前回よりも大幅に多い。というのも今回は俺が採取、ハンナが殲滅役だったためだ。

 ハンナはAGIが、低い。つまりそういうことだ。


 俺が集めた方がたくさん集まるという事が分かったし、次からはもっと効率の良いやり方はないか模索してみよう。


 とりあえず今日はここで採取は切り上げにしておく。


 〈魔力草〉はやはり最下層に近づけば近づくほど採取量は多くなり、そうなると当然帰るために最下層の転移陣を使った方が早くなる。ならついでにレアボスと戦っちゃおうよ、という単純明快な図式でもって、俺はボス戦に挑む。レアボス戦に!

 マリー先輩も一回分なら文句は言わないって多分。


 ということで取り出したるは〈レアモンの笛(ボス用)〉。

 まだ新品なため回数は5回余っている。


 証拠に笛の側面には淡く光っている点が5つあった。一回使うとこの光が消える仕様だな。どんな構造してるんだろうなこの笛って。量産してみたい…。


「さて行くぞ! ピ~~~♪~~~♪」


 不思議な事に縦笛のくせにホイッスルみたいな笛だった。穴を指で押さえても音が変わらないんだけど? この穴なんなの? 付いている意味あるの?(きっとあるんだよ)


 しかし笛の側面の点が一つ消えたのでこれで効果が現れたはずだ。

 初級中位ショッチューだとボス部屋の中身が見えないのが辛い。

 さて、成功か。はたまた失敗か。

 ゲームの時で笛の成功率は70%と微妙だった。

 大体に3回に1回は外れる。


 しかし、今回は成功したみたいだ。


 門を開けてみると何も無く、しばらくするとレアボスポップのエフェクトが発生。

 そして現れるムッキムキの影が一つ。


 俺が再戦を望んだ相手〈エンペラーゴブリン〉だった。


「よう。また遊びに来たぜ」


「ゴッブ」


 〈エンペラーゴブリン〉も俺との再戦が嬉しいのかニヤリと笑った気がした。


 部屋の中央までゆっくりと歩むと、それに合わせるかのように〈エンペラーゴブリン〉も歩いてきた。

 ほう? この挙動は初めてだ。

 距離が離れていたらまずダッシュからの振りかぶりか魔法の二択だ。

 歩いてくるなんてゲームではまずあり得なかった。


 いいね。ワクワクするぜ!

 〈エンペラーゴブリン〉との距離が縮まり、もう『ソニックソード』の圏内だ。


 瞬間、俺と〈エンペラーゴブリン〉の顔つきが一変する。獲物を狩るそれへと。


 俺はスキルも使わずに〈エンペラーゴブリン〉へ向かって疾駆した。


 〈エンペラーゴブリン〉は俺の行動にその場に留まり赤いエフェクトを見せた。


 『ゴブリン流・必殺破砕剣』、待ち構えだ!


「いいぜ! そうこなくちゃな! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


「ゴッオォォォッ!!」


 再戦は大技のぶつかり合いで始まった。


 俺の青いエフェクトを乗せた『勇者の剣ブレイブスラッシュ』と〈エンペラーゴブリン〉の赤いエフェクトを乗せた『ゴブリン流・必殺破砕剣』がぶつかり合う。


 結果、相殺。


「ぐおっ!?」


 スキル同士がぶつかり合うと、その威力の総数が近い場合〈相殺〉が発生する事がある。

 するとどちらも攻撃が通らず、ただ弾かれ両者がノックバックする。


 俺は〈ダン活〉に来て初めてのノックバックに思いっきりよろめいた。

 なんとか踏みとどまって転倒スリップダウンするのだけは避ける事が出来たが、隙だらけだ。


「ゴオオォブゥゥ!」


 元々近接でノックバックした事もありお互いの距離は近い。

 ノックバックから逸早いちはやく復帰した〈エンペラーゴブリン〉が大きくロッドを振り下ろす。


「あ痛! こんのやりやがったな!」


 直撃してやや大きくダメージが入ったが、そんなの気にしてられっかと〈天空の剣〉で反撃する。


「ゴッブア!」


 見事に胸に入ったが、相手も剣とロッドで殴り返してきた。

 剣は盾で防いだが。ロッドが直撃する。


「ぐお! まだまだぁ!」


 俺もかさず剣で切り返し、ダメージを与える。


 なんだか前と同じ展開になってないか!?


 そのまま連打の応酬が始まった。前回は途中でHPが危険域にまで減って、引いたところに危うく『ゴブリン流・必殺破砕剣』を食らうところだった。


 ええい、ここで引いたら負けだ!


「『ソニックソード』!」


 あの時の手応えが、まだ俺の手に残っている。

 〈エンペラーゴブリン〉の攻撃に合わせてスキル発動で回避! 背後に回り込んで一閃!


「ゴワァ!?」


 よっし。見事に決まった! 何度も夢に出てきたあの手応えだ!


「ゴブン!」


 だが、今回は相手がユニークスキル硬直後ではなかったためクリティカル発生せず。ダウンも取れず。

 即振り向いた〈エンペラーゴブリン〉が振り向きざまに剣でなぎ払おうとする。


 しかし問題ない、ちゃんと考えている。


「『ディフェンス』!」


 〈バトルウルフ〉第二形態に使った、防御から反撃カウンターのコンボをする構え。

 しかし、今回は意外な展開を見せる。

 剣が直撃した瞬間、〈エンペラーゴブリン〉は大きく弾かれたのだ。


「ゴア!??」


 パリィだ。つまり防御勝ち。タイミングが上手く噛み合ったらしい。

 防御スキルに不用意に攻撃してしまった〈エンペラーゴブリン〉は大きくノックバックしてった。ここはのがせない。


 このタイミングで決める!


「『勇者の剣ブレイブスラッァァシュ』!!」


 ノックバック中に高威力の攻撃を決めるとダウンが取れる。

 俺の青いエフェクト必殺の一撃が鋭く決まり〈エンペラーゴブリン〉はなすすべ無くダウンした。


 これが防御スキル、防御勝ちからのコンボ! リアルで見事に決めてやったぜ!


「これで終わりだ!」


 ダウンから復帰する前に一気に詰めた。

 通常攻撃で大きくダメージを稼いでいき、

 最後の一撃。


「『ソニックソード』!」


 『ソニックソード』はLV5まで育てた強力なスキル。

 移動だけが強いスキルじゃないんだってところを教えてやるぜ!


「ゴ……ゥ……」


 『ソニックソード』の一撃が〈エンペラーゴブリン〉のHPを0にし、またも〈エンペラーゴブリン〉は膨大なエフェクトの海に沈んで消えた。


 残ったのは、再び黄金に耀く〈金箱〉2つだった。




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