第106話 ハンナ装備にはたくさんのミールが掛かります。




 ハンナがまたとんでもない激レアを当てた。


 これはハンナが〈フレムロッド〉を大切に使っていたおかげだろう。


 リアルの恩恵かは知らないが、〈フレムロッド〉がハンナの優しさに報いたいと思って〈トリプル魔能玉〉になったに違いない。

 そう思う。


 何しろハンナはスラリポで〈フレムロッド〉を一度も使わなかったらしいからな。


 「折れちゃいそうだから大切に、ね」と言ってスラリポ担当はメイちゃん両手メイス2世を使っていたというハンナ。


 その優しさが、〈トリプル能玉化現象のうぎょくかげんしょう〉を引き寄せたのだと思う。


 じゃなければ一発で1%をツモるなんてあり得ないからな。

 多分、そうに違いない。俺の心の平穏のためにもそういうことにしておいてほしい…。



 もう一度性能を見てみよう。

 〈魔能玉:『ファイヤーボールLV5』『フレアランスLV3』『アイスランスLV1』〉


 〈スキル〉〈魔法〉はLV5の時、倍率ドンで強くなる。

 『ファイヤーボール』がなんとLV5だ。まさかここまでレベルアップされるとは、『能玉化LV10』マジ半端はんぱない。

 『ファイヤーボール』は下級中位の火属性魔法なのでLV5とはいえ火力はお察しだが、クールタイムが非常に速いので連発が可能だ。武器も〈マナライトの杖〉になったしザコモンスター相手ならなんとかなる。と思う。


 続いて『フレアランスLV3』、中級中位の火属性魔法だ。『ファイヤーボール』が〈格上げ〉された姿だな。LVも2上がっていて中々の威力を誇る。実はラナの『光の刃』と同格の魔法だ。ただ、ラナの『光の刃』はLV1、と『フレアランス』よりLVが低いのにハンナのINTが初期値なせいで火力負けしているのが少し面白い。


 最後の『アイスランスLV1』だが、これには驚いた。

 なんとこれ氷属性、しかも等級とうきゅう的には『フレアランス』や『光の刃』と同クラス。

 つまり転化する時に〈変化〉と〈格上げ〉の二つが適用されたという事だな。

 下級魔法の『ファイヤーボール』から『アイスランス』に転化するのって凄い低確率なのだが見事に転化している。これが二番目に凄い。一番はもちろん〈トリプル能玉化現象〉だ。


 つまり、この〈能玉〉は下級魔法LV5が1つと、中級魔法が2つも付与された〈トリプル魔能玉〉、凄まじい激レアということである。これ売ったらいくらになるか、〈マナライトの杖〉とセットでオークションに掛けたら3000万ミールくらい行くかもしれないな。そのくらいに激レアだ。しかも強い。


 閑話休題




「さて、それはともかくとして、だ。今後初級上位ショッコーへ行くなら今の装備じゃ全然ダメだ。ハンナは元のステータスが貧弱だから装備で補わなければならない」


「はい! お願いします、ゼフィルス君!」


「良い返事だ、ハンナ弟子」


「ノリええなぁ」


 〈トリプル魔能玉〉の件が多少落ち着いて現在、まだ〈ワッペンシールステッカー〉にお邪魔中だ。

 良い武器が使えるようになってハンナが魔法遠距離アタッカーとして活躍出来る可能性が出てきた。


 その可能性を掴むためにも大幅な装備更新アップデートが必要だ。


「そこでマリー先輩にはハンナが初級上位ショッコーでもやっていけるだけの装備を調えてほしい。できれば初級中位ショッチュー素材以下で」


「無茶言うなぁ」


 俺だってできれば中級素材とか購入して作ってやりたいんだが、手持ちがとっても心許ない。

 現在俺の手持ちは約200万ミール。ハンナはいくら持っているか知らないが1000万ミールには届いていないだろう。

 1000万ミールとか中級装備一つ二つで軽く飛ぶからなぁ。

 多分タダ券出したところで全部吸い上げられてしまうに違いない。


 なら身の丈に合ったミールで装備調えた方が防御力は上がる。

 持ち込みの方が安く済む。世知辛い理由なのだ。


「次の〈小狼の浅森ダンジョン〉で大量のボス素材稼いできますので、一つよろしくお願いします!」


「兄さんにそこまで言われたらやるしか無いやん。分かったわぁ、なるべく良いのを作ったる。ボス素材メインで使いたい放題なら初級上位ショッコーどころか中級下位でもやっていける装備も作れるしな」


「おお! 頼むぜマリー先輩。さすがは先輩、頼りになる!」


「へへん。そやろ?」


 腕組んで仰け反るようにフンスするマリー先輩が微笑ましい。

 俺もたくさんヨイショしておく。


 その後、詳しく素材の数や掛かるミールなどについて話し合った。


 初級中位ダンジョンの一つ〈小狼の浅森ダンジョン〉。

 ここは主にオオカミ系のモンスター〈ウルフ〉が登場し、毛皮を多くドロップする。

 しかし、必要なのはボス素材。しかもレアドロップの〈大毛皮〉系もいくつか集めなくちゃいけないらしい。〈クマアリクイ〉と違って小狼は小さいのだ。大毛皮なのに。

 マリー先輩からは帽子、腕、足、上着で最低でも15枚欲しいと言われた。


 これは数日掛けて素材集めに奔走する事になりそうだ。

 さすが初級ダンジョンの最高峰、初級上位ショッコー

 今までより挑戦するにも準備に時間が掛かる。


 明日から〈小狼の浅森ダンジョン〉の周回だな。


 そう明日からの予定を組んでマリー先輩の店を後にした。




「ああ、ハンナ。言い忘れていたが、多分ミールは全部吐き出す事になるからそのつもりでいてくれ」


「ふぇ?」


 帰り道、マリー先輩と話し合った装備の代金を告げると、ハンナは気絶しかけるほど仰天ぎょうてんした。

 しかし、よほど一緒に行きたかったらしい。

 涙を呑んで、「だ、大丈夫。付いていくためだもん。大丈夫…」と言っていたが、声は震えていた。


 その日の夜に女子寮で何かを叩く音が延々と響いていたというオカルト系学園ニュースが流れてきたが、俺は「ソウナンダ不思議ダネ」で済ませた。

 多分。身に覚えの無い事だろう。


 一応、激レア武器と〈能玉〉は俺が管理する事にしたが、他意は無い。




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