第75話 中盤戦、インターセプトからの怒濤の攻め。




「ナイスインターセプトだ!」


 思わずといった感じに俺は叫んだ。


 注目の北側。

 両ギルドが巨城へまっすぐ突き進む中、西側の〈キングアブソリュート〉から飛びぬけて速いツーマンセルが東側へ食い込んだ。


 東側から北へ直進していた〈千剣フラカル〉の前方にあったエリアマスをタッチの差で奪い取ったのだ。


 これにより〈千剣フラカル〉のメンバーは後ろのマスに弾き出された。

 保護期間により2分間は再取得できないし入ることも出来ない。つまり北へ向かうには迂回するしかない。

 〈千剣フラカル〉には苦しい展開だろう。


 しかし、ちゃんと保険はあったようで、さらに東側のマスから後続が北へ直進。

 〈キングアブソリュート〉に取られたマスの東隣接マスを取ることになんとか成功する。


 もしここで〈キングアブソリュート〉のさらなる東への進行を許していたら、〈千剣フラカル〉は保護期間で進めず、2分間の足踏みを強要されていただろう。危機一髪と言ったところだ。

 しかし、危機をギリギリで脱しただけで苦しい展開なのには変わりない。


 〈キングアブソリュート〉の足の速い猫人と人間ツーマンセルの怒涛インターセプトがすごいのだ。

 取得したマスから北東隣接マスを斜めに狙ってくる。しかしその足に〈千剣フラカル〉は追いつけていない。

 前方の北マスはまず取られると考えていい。そうなると〈千剣フラカル〉は北西マスか北東マスの隣接を狙うしかないが、〈キングアブソリュート〉本体に近い北西はリスクが高い。

 進行を一度止められたことには変わりなく、〈キングアブソリュート〉が一歩リードしているためだ。


 北西へ進めば北へ進むルートを潰されかねない。結果〈千剣フラカル〉はリスクを嫌って北東へ、更なる遠回りの道へ進んだ。


 たった一歩、たった1マス侵食されただけで〈千剣フラカル〉が窮地に追い込まれつつあった。

 〈キングアブソリュート〉の面々は冷静沈着な指揮者を中心に一糸乱れぬ進行をしているのに対し、〈千剣フラカル〉のメンバーは明らかに動揺が広がっている様子だ。


「上手いな」


 思わず感嘆する。

 初動はともかく、その後の動きは目を見張るものがあった。特にSランクギルド〈キングアブソリュート〉。Sランクの名にふさわしいすばらしい動きを見せている。


 Aランクギルド〈千剣フラカル〉も食いついてはいるが相手の方が上手だな。


「あ。フラカルが…」


 ハンナが手を口に当てる。


 全員の注目の先では、追い詰められた〈千剣フラカル〉が進行ルートを完全に潰されていた。あの早い猫人と人間のツーマンセルにインターセプトされたのだ。

 これで少しの間、〈千剣フラカル〉は足止めをくらい進めなくなる。


 ほんの少しの間だが、致命的だ。


 巨城は隣接マスを確保しなければ攻撃できない。


 〈千剣フラカル〉が一度戻り、保護期間の明けたマスを奪って再度進行をして追いついたときには、すでに巨城の隣接マスはすべて〈キングアブソリュート〉に囲まれていた。


 〈千剣フラカル〉は、保護期間で入れない。

 もう巨城が落とされるのを見ているしかなかった。


 真北の巨城は2000P。〈キングアブソリュート〉が取得した。


 大きなアドバンテージだな。

 というのも城は奪われたとしてもポイントが減らない仕様なのだ。

 〈キングアブソリュート〉は2000Pを保持し、奪われたとしてもポイントは減らず〈千剣フラカル〉が2000Pを稼いで同点になるだけ。

 そこから〈キングアブソリュート〉がさらに取り返すと追加で2000P手に入る。

 つまり4000P対2000Pになるだけ。差が縮まることはあれど逆転は無い。


 故に未取得巨城の確保は最重要となる。




 その後の展開は終始〈キングアブソリュート〉優勢だった。


 〈千剣フラカル〉は真北の巨城を取られた瞬間から守りに入り、まず東側にある巨城4つを確保した。

〈キングアブソリュート〉も西側にある巨城をすべて確保する。


 これで9つすべての巨城が陥落した。


「全部の城が落ちたわね。それにしても〈キングアブソリュート〉が早いわ」


「ああ。巨城5つ持ちなのに〈千剣フラカル〉が4つ城を落とすより早く終わってたな。おかげで場所取りは〈キングアブソリュート〉の有利だ」


「場所取りって?」


「この後の展開だが、巨城が終わったとしたら、次はなにが来ると思う?」


「なるほど、対人戦ね」


 シエラが正解を言い当てる。


「その通りだ」

 

 次に行われるのは、対人戦。


 所謂いわゆる人数減らし。


 小城を確保しつつ相手の戦力を削る戦略だな。

 動ける駒を減らせれば、自然とポイントが取り易くなる。

 

 〈城取り〉では、個人のHPが0になった時点で退場だ。

 回復魔法やポーション類の使用はアリなので戦闘不能にならなければまた復帰は可能。

 そのため戦闘では相手を逃がさず、きっちり戦闘不能にすることが求められる。


 そして場所取りというのは、複数のエリアマスを確保した戦術で、誰かがやられそうならフォローし、また攻めにも使える、将棋で言う駒組みに近いものだ。


 ここでも重要になってくるのが保護期間だ。

 保護期間中、相手はエリアに入れなくなる。これを前提として撤退経路を確保したり。またエリアを使った回り込み、分断、奇襲など様々な事に使って対人戦を有利に進めていくことが可能だ。ただ逆も然り、撤退するにも活用可能なので逃がさないようその辺を注意しながら駒を組むわけだな。


 そして、その陣形と場所取りは〈キングアブソリュート〉が圧倒的に早く終わらせた。


 陣形も満足に組めていない〈千剣フラカル〉は守りに入るしかない。


 攻め手は〈キングアブソリュート〉だ。


「「「ウオオオォォォォッ!!」」」


 対人戦が始まり会場が多いに盛り上がる。




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