第56話 レアボス注意! 『ゴブリン流・必殺破砕剣』




 ハンナはすぐに作業に慣れたようで次々とMPポーションを作製していった。

 たった30分でなんと高品質MPポーションを57本、ただMPポーションを22本も作ってくれた。ハンナには頭が下がる。


 さすがにこんなに今日中には使えないので続きは帰ってから行う事にして、一旦〈錬金セット〉を片付けた。


 その内の何本かをグイッと行かせてもらってMPがほぼ全回復したので自然回復を待たずにボス戦へ挑める。ありがたい。

 自然回復を待つとやたら時間が掛かるからな、今後MPポーションは必須だ。



 今回初戦なためハンナは救済場所セーフティエリアで待っていてもらい、ソロで挑む。


 蔓で囲いが作られたボス部屋、その門に手を翳すとスルスルと蔓が引かれ、中に入れるようになる。


「じゃ、行ってくるぜ!」


「うん。がんばってねゼフィルス君!」


 微塵も心配していないハンナの信頼に応えるためにも、目指すギルド作成のためにも、初級中位ボス程度、軽く屠ってやるぜ。



「あ」


 中に入ったとたん、理解した。

 あ、これ、手こずる。確定だ。


 普段ならすでにポップして挑戦者を待ち構えているはずのボスが見当たらない。

 なのに転移陣が光っていない、とすると考えられる事は一つしかない。


 〈野草の草原ダンジョン〉のボスは〈ナイトゴブリン〉。

 でかいオオカミに騎乗した武装したゴブリン。それと配下のソードゴブリンが2体とただゴブリンが2体のはず。

 しかし、それがまったく見当たらないということは。


 ああ、レアボスをツモったなこりゃ。


 初級中位ダンジョンからはいくつか初級下位ショッカーで見られなかった現象が起こる。

 例えば初級中位ショッチューからは、ボス部屋の中が救済場所セーフティエリアから見えなくなる。

 俺がボス部屋に入るまでレアボスイベントに気がつかなかった理由だ。

 初級下位ショッカーはまだチュートリアル卒業生のためのダンジョンなのでかなり簡単だ。罠も無いし、ボスは見えるし、ボスモンスターは同レベル帯のソロでも屠れるほど弱い。


 そして、初級中位ショッチューで最も重要な事象が、レアボス発生だった。

 初級中位ショッチューからは稀にレアボスが発生することがある。かなりの低確率なので普通はレアボスを出現させるため、使い捨てアイテムなんかを使って呼び出すんだが。

 今回俺は、素でその低確率をツモってしまったらしい。


 普段ならラッキーと喜ぶところだが、今回はちょっと複雑。

 だって俺、今一人ソロだし。


 パーティ攻略が前提となる初級中位ショッチューからはボスがやたらと強くなる。

 レアボスとなれば初級上位ショッコーのボスに届く強さだ。


 今回俺が初級中位ショッチューを実質ソロ攻略出来ると踏んでいるのも、〈天空シリーズ〉によるゴリ押しに頼った面が強かった。

 正直初級上位ショッコーのボスレベル相手にソロLV21は無謀と言っていい。


「あ~、でも〈天空〉装備あるし行けるか?」


 確かに普通なら無謀ではある。しかし、改めて自分のステータス、スキル構成、装備、アイテムを確認し、レアボスの強さを思い浮かべると……なんとなく行けそうな気がしないでもない。


 ま、あとは出たとこ勝負でやってみよう。


 そう考えを纏め終わるとちょうどいいタイミングで奥の空間が光り出す。

 レアボスのポップエフェクトだ。


 登場したのは、〈エンペラーゴブリン〉。

 煌く王冠と赤いマント、残りは半裸だが【筋肉戦士】より暑苦しい筋肉をしている。

 左手に持つのはロッド、右手に持つのは剣。


 魔法も使うし接近戦もする。やっかいな相手だ。


 じゃ、先制攻撃と行こうか。


「『シャインライトニング』!」


 〈天空の剣〉の先から放たれる魔法が登場したばかりの〈エンペラーゴブリン〉を襲う。

 全体攻撃なため威力はさほどでもないが〈エンペラーゴブリン〉は魔法の方が効きやすい。

 本職ではないが〈天空の剣〉の魔法力も手伝ってそれなりのダメージが出たはずだ。


「ゴギャアアァァァ!」


 しかし、そんな魔法お構い無しに〈エンペラーゴブリン〉が突っ込んでくる。


 うお、ノックバックも無しかよ。直撃なのに効いてる気がしねぇ!


「『ソニックソード』!」


 素早い移動からの斬撃。


 俺はこれを回避に使った。

 横に大きく移動すると、〈エンペラーゴブリン〉の攻撃が元俺のいた場所を叩いた。


「あっぶな!」


 スリリングだぜ。


「ゴアアア!」


 今度は魔法か!

 左手のロッドから『ファイヤーボール』が放たれた。

 これは普通に回避。ハンナのやつとあまり変わりないように見えたので余裕だ。


「よっと、次は俺から行くぜ!『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


 青く光るエフェクトを溢れさせ〈エンペラーゴブリン〉に強烈な一撃をお見舞いする。


「ゴアアアアァアア!」


 奴は剣とロッドをクロスさせて防御したが、さすがは〈天空の剣〉から放たれた『勇者の剣ブレイブスラッシュ』だ。ガードの上から崩されて〈エンペラーゴブリン〉がたたらを踏む。


 やはり、威力は十分以上。ガードの上からでもかなりのダメージを受けたのが分かった。

 ついでにデバフのアイコンが〈エンペラーゴブリン〉に付く。『勇者の剣ブレイブスラッシュ』は防御力低下のデバフ効果があるのだ。


 追撃したいが攻撃スキルがクールタイムで使えないのが辛いところだ。

 仕方無しに通常攻撃で剣を振るう。

 〈天空の剣〉の攻撃力も手伝って普通のスキル攻撃より威力は高いはずだ。


「ガアアア!」


 〈エンペラーゴブリン〉も負けじと剣とロッドを振るう。

 剣は盾で防御できたがロッドが〈天空の鎧〉を打った。


「あ痛っ! こんにゃろ!」


 痛みは思ったほどではなかった。ちょっとびっくりしただけだ。

 鎧とHPのバリアが良い仕事をしているな。

 でも小さくても痛いものは痛い。

 俺の怒りメーターが上昇した。


「ガアアアア!」


 相手も怒りメーターが上昇している。


「でっかい筋肉しやがって、〈ダン活〉じゃ筋肉なんてネタなんだよ!」


 俺の今までの鬱憤を溜め込んだ一撃が〈エンペラーゴブリン〉の胸に直撃した。


「ゴバアアアア!」


 そんなの知らねぇよとばかりにお見舞いされたロッドが俺を叩く。


「がはっ! こんのー!」


 そのままお互い一歩も引かない連打の応酬が始まった。


 俺の〈天空の剣〉が、腕、腰、腹、胸、首、頭を斬りつける。

 ゴブリンの剣は盾ですべて防御できているが、左手のロッドが厄介。剣で攻撃するたびに俺を叩き返してきやがる。


 HPの残量は、あまり多くはない。

 内心舌打ちする。ボス相手に耐久勝負とかやっていられるか! HP多すぎるんだよボスめ!

 耐久勝負を持ちかけたのは俺だけど!


 仕方無しに間合いを空けて回復する。


「『オーラヒール』!」


 中回復する『オーラヒール』は今の俺の最大HPの半分を回復してくれた。


 しかし、その間に〈エンペラーゴブリン〉が剣を振りかぶっていた。

 赤いエフェクトが見える、スキルモーションだ。


 俺の脳裏にゲーム時代の〈エンペラーゴブリン〉の挙動が再生される。

 『ゴブリン流・必殺破砕剣』か!


「ゴッガアアアア!」


 これで終わりだぁ、と言うように〈エンペラーゴブリン〉が剣を振り下ろすが、当たってたまるかよ!


「『ソニックソード』!」


 『ソニックソード』を使って緊急回避。

 そのまま後ろに回りこんで斬りつけた。


「ゴアアアア!?」


 スキル硬直の瞬間を狙った『ソニックソード』の一撃がクリティカルヒットした。

 〈エンペラーゴブリン〉から数秒のダウンを取ることに成功。


「おっしゃ隙だらけだぜ! 『勇者の剣ブレイブスラァァァッシュ』!」


 俺の最強の一撃が吸い込まれるように〈エンペラーゴブリン〉に直撃した。


「ゴォォゥゥゥ………」


 そのまま〈エンペラーゴブリン〉のHPが0になりエフェクトの海に沈んで消えた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る