第35話 12周目で激レアドロップ! 真のレアは銀箱に。




「ガ、ガアアァアーーッ」


 ズシンッと重い音を響かせて〈クマアリクイ〉が地面に沈む。

 HPが0になり膨大なエフェクトに包まれて消えていった。

 これで今日は12回目。


「お疲れ様、ゼフィルス君。今回のって今までで一番早かったんじゃないの?」


「おう。さんきゅ。やっとリアルな〈クマアリクイ〉にも、身体を動かすのにも慣れて馴染んできたって感じだ」


 ハンナがタオルと飲み物を持ってきてねぎらってくれたのでお礼を言ってありがたくそれを頂戴した。


 俺たちは今、〈熱帯の森林ダンジョン〉のボス周回に励んでいた。

 今のクマアリクイで12回目の攻略だった。初のボス攻略から3時間も経っている。


 さすがに12回もやると身体が慣れてきて今では攻撃を一度も食らわないし、『勇者の剣ブレイブスラッシュ』を使わなくても純粋な通常攻撃で楽に倒せるまでになった。

 ハンナにも俺がヘイトを取っているうちに攻撃させるくらいには余裕だったな。


 ハンナも、棒立ちで見ているだけよりも戦闘に参加した方が経験値が多く貰えるから、慣れてきてからは積極的に参加してもらった。


 そしてハンナ、君はセンスあるわぁ。ボスにも躊躇無く行けるって才能だと思う。

 実際にリアルボスを見るまで思わなかったけど、ボスって結構怖いからな。



「ドロップ拾ってくるね。終わったらまたやるんでしょ?」


「いや、さすがにMPが枯渇した。ボスリポマラソンは一度引き上げよう」


 ボス部屋に強い衝撃を与えるとボスがリポップする設定上、『勇者の剣ブレイブスラッシュLV1』を門にぶち当てる必要があるんだが、さすがに自然回復だけではMPの回復が追いつかず、またボス周回の速度がだんだん速まっていることも相まって、これ以上のボス戦は出来なくなってしまっていた。


 MPを15回復させるには、なんの補助スキルも持っていないと30分くらい掛かる。ゲームではそんなに掛からなかったのだが、リアルになるとなんでも遅くなるのか?


 初のボス戦の時は2発『勇者の剣ブレイブスラッシュ』を使ってしまったが、それ以降は節約して通常攻撃に努めていたけれど、ボス戦の度に使う『アピールLV5』は毎回MP5消費するし、さすがに枯渇してしまった。


「じゃあ、戻る?」


 ハンナの視線が転移陣に向かうが、俺は首を振って反対方向に指を指す。


「いや、あっちに戻るぞ」


「階層を戻るの? でもボスリポップしてないしマナー違反じゃ」


「今は〈熱帯の森林ダンジョン〉を独占してるからな。誰も来ないだろ? それに帰りは転移陣を利用するつもりだから大丈夫だって」


「う、う~ん。それならいいのかな?」


「作戦はこうだ。ボスをMP枯渇まで周回したら階層を戻り、雑魚モン狩って素材を集めつつMPの自然回復を待ち、MPが溜まったらまたボス戦周回をする。基本はこのループだな」


 俺はハンナに説明しつつ、確かにハンナの言うことも一理あるなと考える。

 もうここは一人ひとりゲーの世界ではなく、他人が多く利用するリアル世界なのだから、今後はマナーなどにも気をつけなくちゃいけないか。

 今後はボスをリポップさせてから階層を戻ろうと考え直した。


「ねぇゼフィルス君。この腕輪ってなんだろう?」


「ん?」


 ドロップ品を〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉に収納していたハンナがボス撃破報酬の「銀箱」から出た腕輪を片手に持ってきた。

 


 んん!? これは!


「おお! こいつは〈『ゲスト』の腕輪〉だ! 初級下位ショッカーじゃ間違いなくトップレベルのレアドロップだぞ!」


「え! うそ、やったー!」


 俺のレアドロ判定にお宝に目がないハンナが一瞬でキラキラした目に早変わりして喜ぶ。

 ハンナが持ってきたそれは、「なんで銀箱に入ってるんだ?」と多くのプレイヤーから疑問の声が上がったほど超強力な効果を持つ腕輪装備だ。

 正直これのせいで初級下位ショッカーの大当たりは金箱ではなく「銀箱こそ真の当りだ」なんて言われたほどだ。

 いつか当てたいなぁとは思っていたがまさかこれほど早く当てるとは。


 〈ダン活〉にはスキルオーブやスキルスクロールなど、職業ジョブを無視して後からスキルを獲得することは出来ない仕様だった。

 しかし、装備を着ける事でスキルを一時的に使う事は可能だ。

 俺の〈天空シリーズ〉のシリーズ特典『状態異常耐性LV3』なんかがそれにあたる。


 そして、一時的にスキルが使えるようになる装備の代表として〈『○○』の腕輪〉という装備群があった。

 ハンナの持つ〈『錬金LV1』の腕輪〉なんかがそれにあたる。


 多くが職業ジョブの発現条件を満たすために使われるので、LV1相当のスキルしかもたず。

 LV1しかないので本職の職業ジョブにはまるで敵わないし、発現条件を満たしたらさっさと売られてしまうので激安で販売されている。


 俺も学園に行く道のりの街でスライムゼリーを売って、腕輪を買いまくり馬車で発現条件を満たしまくった。そのせいで学園での準備金を全部使い切ってしまったのは痛い思い出だ。あの時スマホさえあれば暇を潰せたのに…。暇潰しに全財産使っちまったじゃないか!


 と、そんな〈『○○』の腕輪〉だが、一部凄まじい価値を持つ変わり種が存在する。

 その一つがこの〈『ゲスト』の腕輪〉だ。装備者に『ゲスト』を付与する効果を持つ。ちなみに防御力は上がらない。


 そして『ゲスト』の効果は、パーティメンバーとは別枠でパーティに参加出来るという破格の効果だった。

 〈ダン活〉ではパーティは最大5人まで、しかしそこに『ゲスト』を追加で参加させることが可能になる。〈『ゲスト』の腕輪〉が超レアドロップに分類される所以だ。


 しかし、戦闘に参加すると自壊する限定条件があるので戦闘には参加出来ないのだが、そこを抜きにしても非常に価値の高い品物だ。


 『ゲスト』は主にポーターや審判などに使用されるため学園側が高値で買い取り、生徒には有料で貸し出している。(自壊させたら罰金)

 さっきみた暑苦しい筋肉六人もダビデフ教官が〈『ゲスト』の腕輪〉を着けていたから6人パーティで〈初心者ダンジョン〉に挑むことが出来たんだ。教員には無料で貸与されるからな。


 しかし早い段階で〈『ゲスト』の腕輪〉を手に出来たのは僥倖だった。

 これ買い取りはしているけど売っていることはほぼ無いからな。




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