満月の夜にポテトチップスを食べるとオオカミになる
@shunkotoku
第1話
ジョージは、だれよりもポテトチップスが好きだった。一度食べ始めると、なくなるまで止まらない。今日、食べると明日も食べないと気が済まないというくらいに、ポテトチップスが好きだった。
ある日、久しぶりに尋ねて来たおじいさんのロイは、ジョージがポテトチップスを次から次に食べている姿を見て、母親アンナにこう聞いた。
「ジョージは、いつから、こんなにポテトチップスを食べるようになったのかね」
アンナは、こう答えた。
「3年前からよ。それまではポテトチップスには見向きもしないで、甘いものばかり食べていたのに、それがどうしたわけか、急にポテトチップスを食べるようになったのよ。初めは、これで甘いものを食べるのが減ってくれるといいわねと思っていたのよ」
それを聞いたロイは、見事に伸びているあごひげをゆっくりなで下ろしながら、こう聞いた。
「それが、3年でこんなふうになってしまったというのかい」
アンナは、ため息をつきながら、こう答えた。
「私も、初めのうちは何も心配なんかしていなかったのだけど、だんだん食べる量が増えて毎日、食べない日はないくらいになってしまっていたのよ」
ロイは、別のことを質問した。
「兄のオリバーは、どうなんだね」
アンナは、
「オリバーは普通よ。何も心配なことはないわ。ジョージもポテトチップスのことだけで後のことは特に心配するようなことはないのよ。どうしたものでしょうね」
ロイは、あごひげをなで下ろすのを止め、しばらく窓の外に見える裏山の、大きな檜のそびえている景色をみながらゆっくりと話し始めた。ジョージとオリバーとアンナは、久しぶりに尋ねて来たロイが、何を話し出すか分からないまま、耳を傾けていた。ロイはそんなことには、気がつかない様子で独り言を言っているように話し始めた。
「あれは、ずっと昔の話じゃ。わしが子供のころの話でな。わしの住んでいた村の古い言い伝えじゃ。村に住む一人の長老が口癖のように話していたことじゃよ。それは、満月の夜に、ポテトチップスを食べるとオオカミになるという話じゃよ。それをだれも信じているものはいなかった。あの頃は今みたいにポテトチップスを気軽に食べるような時代じゃなかった。手作りで作っていたころの話さ。毎日食べるようなこともなかったし、今のポテトチップスみたいな味がしていたわけでもない。ただ、保存食として大事なジャガ芋をむやみやたらに、食べ過ぎないようにというわけで言い伝えができたのだろう。そうそう、この話で大事なことを言い忘れていた。満月の夜にポテトチップスを食べてオオカミになるのは子供だけなんだよ。それも、ジョージぐらいの子なんだ」
ロイの話を聞いている間もポテトチップスを食べ続けていたジョージは一瞬、自分の名前が出て来たのでぎくっとした。でも何事もなかったようにおじいさんのロイに聞いた。
「ねえ、おじいさん。だれか満月の夜にポテトチップスを食べてオオカミになった子はいるの」
「いや、今までだれもいないし、俺は一度も聞いたことがない。だから今でもただの言い伝えと思っている。しかし、俺は一度も、満月の夜にポテトチップスを食べたことはないよ。子供のころはね。お陰で人間のままじだ。もちろん、その村の子供たちは一人もその言い伝えのようにしたものはいなかった。みんな怖がっていたからな。お前達だって、オオカミになんかなりたくないだろう」
ジョージはだんだんおかしくなって、ロイに聞いた。
「何だ、ただの言い伝えか。それに満月が出ていると知らなかったら平気だよ」
「いや、長老はこう言っていたぞ。満月が夜の空に出ていたら、見ていようとどこで食べようと同じだとな。必ずオオカミになるんだとな」
二つ年上の兄オリバーは、笑いながら相変わらずポテトチップスを食べ続けているジョージを横目にしながら真剣に聞いた。
「それでも、これから先満月の夜にポテトチップスを食べて、絶対オオカミにならないという保証はないんだよね。おじいちゃん」
「これから先のことは俺にも分からん。でも満月の夜は一月に一度は来る。一月に一度だけだ。前の日でも次の日でもない。たった一夜の完全な満月だ。ただし、雨が降ったりしていて空に満月が見えなかったら、一カ月後になるけどな」
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