第27話 クドラ山に入る直前のやりとり

 ルーロンはジャンザザを連れて一旦家に戻るとダイニングテーブル越しに向かい合った。




「まず結論からいうと、ワネはどこかの国のスパイだと思うの」




 ええ?とジャンザザが眉間にシワを寄せた。「どこかって、どこの国?」




「それは分からないよ。その辺はあんた兵士なんだから予想して」




 ジャンザザが釈然としない表情をしながらも頷いたのを確認して話を続ける。




「孤児だったワネとサーキはポエン国軍に引き取られると、まず兄が極秘で人体改造を行われているクドラ山に配属されて、妹は軍の管理する養護施設に入れられた。しかしこのクドラ山の防魔鏡がポエン王国と敵対している某国へと繋がっている洞窟で、クドラ山は実は某国に侵略されていた」




「そんな無茶な・・・」ジャンザザが口を挟んだけどルーロンは構わず続けた。




「それが可能になっていた理由はポエン王国の幹部に某国と繋がっている人物がいたから」




 ジャンザザの表情が変わった。




「確証があって言ってるのか?」




 ルーロンは首を横に振った。




「だからさっき考えた、一番辻褄の合う仮説だって」




「・・・それじゃ、その裏切り者は誰だと思うんだよ」




「ベッチャ大尉」




「えっ!?」ジャンザザが分かりやすく動揺を見せた。「それはないだろう」




「毎年やっている査定試合に出場する兵士はベッチャ大尉が選別しているんでしょ?それで人体改造の成果を見て、敵国に報告するためのもので、一昨年と去年もワネを出場させたけど、その時は成果が出なくて、今年になってようやく結果を出した。ただ予想以上の強さを見せてしまったのでこれ以上悪目立ちさせないために急遽反則負けにした」




 ジャンザザは喉の奥で低く唸った。彼の中でも辻妻が合ったのだろう。




「しかしここでベッチャ大尉にとって予想外のことが起こった。査定試合で、ワネの強さを知った某国が、ベッチャ大尉を無視してワネをけしかけてポエン国王の暗殺をもくろんだ。それに気づいたベッチャ大尉は慌てて城内の警護を強化した」




 ジャンザザは渋い表情をつくった。その警護に自分も駆り出されて、返り討ちにされたからだろう。




「最上階で待ち伏せたベッチャ大尉だけど、当然ワネを止める武力はない。やってきたワネを説得することにした。あらゆる条件を提示して、なんとかワネを撤退させることに成功した」




 そこまで話したところでジャンザザが「ちょっと待った」と止めた。




「裁判は開かれたと聞いてる。それの偽証はできないと思うけど」




 うん、とルーロンが頷いた。予想していた質問だ。




「裁判ににかけられたのはベッチャ大尉だったんじゃないかと思う。売国容疑とかで」




「確かにそれだったら、裁判にかけられた暗殺犯の名前が公開されなかった理由になるな・・」




 ついにジャンザザもルーロンの仮説に同意を示した。ルーロンは少し気を良くしながら話を再開する。




「そこでベッチャ大尉が王に直談判したんじゃないかな。『暗殺犯がどこに逃げたかは分かっている。自分が責任を持ってケリをつける。死体にしてでもここに連れてくる』とか言ったんじゃないかな」




「それで翌日、日中にまずベッチャ大尉はワネの妹のサーキさんを殺して、夜に直属の部下を連れてクドラ山に入った。これでワネを殺せば自分が某国と繋がっている証拠を完全にもみ消すことができる」




「それじゃ、爆発したのは・・・?」ジャンザザが質問をした。




「けっきょくワネ一人にかなわなくて、このまま殺されるくらいなら自分がスパイに関わった証拠もろとも消し飛ばそうとしたんじゃないかな」




「それじゃ、一人生き残ったクダチ兵長が行方不明になったのはなんだ?」




 うーん、とルーロンは自分の顎を触った。




「ここからはあまり自信のない仮説になるんだけど」




 一言断って、話を再開する。




「某国とのスパイ活動を誰かが引き継いだんじゃないかと思うの」




「なに!?」ジャンザザが声を荒げた。




「誰かは分からないけど、ベッチャ大尉のしていた事に気づいていた人物が、それを一から自分のものにしようと考えて、前任者と繋がりの強いクダチ兵士長は邪魔になるから殺したんじゃないかな」




 そこまで言ったとこで室内に打撃音が響いた。ジャンザザがテーブルを殴ったのだ。クダチ兵士長は彼の上司だった。ジャンザザは押さえた声を出した。




「ワネの妹の手紙は・・・?」




「うん、彼女の書いていた手紙が、軍の情報を某国に伝えるための暗号を含ませた機密文書だったんじゃないかな」




「それで関門を通過していたということか・・・」




「うん、だから今、サーキさんの代わりに手紙を書いている兵士は、もうスパイの仲間に取り込まれているんじゃないかな。だから、もしさっき会えていたらジャンザザは危なかったかもしれない」




「俺は命拾いしていたのか・・・」ジャンザザは大きく息を吐いた。


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