第76話 杖と石

 モンテ・クリス島のダンジョンでは長らく地下四階の探索が冒険者によって続けられていた。

地下四階はかなり広く、道は入り組み、非常に強力なモンスターが出没する。

良質な魔石が獲得でき宝物などもたびたび発見されるのだが、このフロアで生き残れる冒険者は少ない。

ダンジョンが一般開放されて五カ月が経過したけど地下四階の先へ続くルートは未だ発見されていなかった。


 ところがだ、本日ついに新フロアへ至る階段が発見された。

見つけたのはシローの宿の常連でもある女戦士六人衆。

彼女たちはフロアのボスと目されるモンスターを撃破し、新しく上り階段を見つけた。

ダンジョンはいったん地下に向かい、それから地上部に戻ってくるように作られていたのだ。

方角的にはモンテ・クリス島の中央部にある山側に伸びているので、ひょっとすると山の内部にダンジョンが作られているのかもしれない。

 

「グラスは満たされたな? みんなよくやってくれた、私たちの成功に乾杯!」


 女戦士のリーダーが音頭を取り、祝杯が飲み干されていく。

今夜は特別に作製したスパークリングワインを提供してあげた。

本場フランスのシャンパンにも劣らない出来だと自負している。


「うまい!」

「こんな酒ははじめただ!」

「お兄様美味しいですぅ」


 この世界にも泡が入ってしまうワインはあるみたいだけど、こんなきめ細やかな泡は作り出せていないみたいだった。

女戦士たちはグビグビと咽喉を鳴らしながら勝利の美酒を豪快に流し込んでいく。

樽一つ分も作ったから、これくらいガブガブ飲んでも量は足りると思う。

だけど、どこぞのホストクラブだったらとんでもない金額を請求されてしまうくらい鯨飲しているぞ。

「シローペリニヨン」だって高いのだ。


 もっとも、今のこの人たちなら余裕で払えてしまうだろうな。

フロアボスを倒したときに途方もないお宝を発見したそうだ。

ラメセーヌの杖と言って、魔族の大侯爵ラメセーヌ二世が所持していたと伝えられる秘宝らしい。

伝承ではエマンスロックとかいう魔導書を開く鍵になると伝えられているそうだ。

数々の宝石や黄金があしらわれていて金銭的にも芸術的にも価値が高い。

ギルドでの買い取り額は3億レーメンを下回ることはないだろうと言われたそうだ。

近く本国から荷物引き渡しのために地位の高い貴族がやってくるとも聞いている。


 大盛り上がりの戦士たちに比べてセシリーたちの方はしょんぼりしていた。

それもそのはずで、セシリーたちも同じフロアで近い位置を探索していたのだ。

ひょっとしたらラメセーヌの杖を見つけていたのはセシリーたちだったかもしれない。


「いいなぁ、アイツらが見つけたのは秘宝。それに比べて私が見つけたのはこれですもん」


 ぼやきながらミーナは手の中の石ころを転がした。

俺の鑑定もどきで調べたところ、この石は〈必中の石〉と呼ばれるマジックアイテムだ。

投げると狙ったところに必ず当たるという代物でピンポン玉くらいの大きさをしている。


「これだってすごいと思うけどね」


 俺も借りて遊んでみたけど本当に百発百中だった。

多少のホーミング機能もあって、動く的にも面白いように当たる。

思いっきり振りかぶって全力で投げても狙い通りの場所に命中するのだ。

コントロールを気にしないで済むから、非力な俺でもそこそこの速球を投げられた。


「便利っちゃ、便利っすけど、ダンジョンの中で使ったらすぐになくしちゃいそうっすよ……」


 必中の石の外見は普通に石だもんな。

薬品作製で光を反射する蛍光塗料でも作ってあげようか。

それなら暗いダンジョンの中でも比較的見つけやすいだろう。


 ただ、魔法を使えるのは内緒なので、昔貰った物として渡さなくてはならない。

この島で俺の創造魔法のことを知っているのはセシリーだけだ。

彼女は口が堅いからルージュやミーナにも魔法のことは一言も漏らしていなかった。


 不自然にゴーレムが増えて変な疑いをもたれないように、最近ではシーマを中心に作製することが多い。

海の中にいるシーマなら人との接触はほとんどないから目立たない。

地上のゴーレムは少しずつ西島へ移動させたり、山の奥で待機させたりもしている。

山の中腹に潜んでいるワンダーなんてまるで野犬の群れだもんね。

まあ、そんな苦労をしながらもゴーレムを作り続けてレベルは順調に上がっている。


####


創造魔法 Lv.17 (全カテゴリの製作時間が21%減少 クオリティアップ)

MP 3994/3994 (MP回復スピードアップ 10MP/分)

食料作製Lv.16 (作製時間32%減少)

道具作製Lv.15 (作成時間30%減少)

武器作製Lv.2 (作成時間3%減少)

素材作製Lv.12(作製時間25%減少)

ゴーレム作製Lv.12(作製時間28%減少)

薬品作製Lv.10(作製時間18%減少)

修理Lv.16 (修理時間32%減少)

魔道具作製Lv.9 (作製時間17%減少)

その他――


####


 そして、久しぶりに新しいゴーレムが作れるようになった。


####

作製品目:メタルゴーレム モグラ型

カテゴリ:ゴーレム作製(Lv.12)

消費MP 252

説明:モグラ型のメタルゴーレム。地中に潜りレアメタルを集めることが得意。土中に含まれる微量な金やミスリル、オリハルコンを検出して体内に取り込むことができる。

畑の土を耕し酸素を含ませることも出来る。

作製時間:61時間

####


 大きさ的には普通のモグラよりもずっと大きい。

水族館で見たカピバラくらいあるぞ。

コツコツとレアメタルを貯め込んでくれるみたいだから、1年くらい集めさせたら少しはまとまった量が採れるかもしれない。

オリハルコンならたとえ1gでもかなり貴重だろう。

素材作製でも作れるんだけど、1gを作るのに4000MPも魔力を使うから今の俺では作成できないんだよね。

時間も4週間くらいかかるんだ。

さっそく一体作製して山へと向かわせた。

鉱床とかあったらラッキーくらいの気持ちだった。


 こんな感じでゴーレムを作ったり、新しい飲み物を開発したりと俺の生活は充実している。

畑の作物も種類が増えた。

この夏は俺が開発したスイカジュースが大人気で、ダンジョン前では屋台まで出しているのだ。

鉢巻をしめたゴクウ3号が専属で屋台のおじさんをして、かなりの売り上げを出していた。

でも、それもそろそろ終わりだな。

空気の匂いが変わってきたのだ。

夏は確実に終わりに近づいていた。


 商業区を歩いていたら馴染みの店員さんに声をかけられた。


「男将さん、聞きましたか。新しい船が入り江の外に来ていますよ」


 また、新たな荷物と冒険者を乗せた船団が来たのかな。


「じゃあ、頼んでおいた本が届くのかな?」


 マダム・ダマスに大金を払ってこの世界の本を数冊発注してあるのだ。

この世界ではネット通販のように注文すれば翌日には届くというサービスはない。

前にお願いしてから、かれこれ5週間は経っていた。


「いえいえ、今回着いたのは例の秘宝を受け取りに来た地位の高い方ですよ」


 女戦士たちが見つけたラメセーヌの杖のことだな。

貴重なものだから帝国から受取人が派遣されると言っていたが、その船が着いたのだろう。


「やってきたのはベブルス伯爵という爵位持ちの貴族というから驚きじゃありませんか」

「そんな偉い人が島に来たんだ」

「ええ。私も見てきたのですが、軍艦が7隻も停泊していました」


 それだけの護衛が付くということは相当なお宝なのだろう。


「最新鋭の軍艦だから壮観な景色でしたよ。男将さんも見てきたらどうです?」

「俺にはお店の準備もあるから……」


 港には近づかないでおこうと思った。

この世界に飛ばされた当初、巡回中の兵士たちに見つかってレイプされかけた記憶が甦る。

調査隊が来たときはロッテ・グラム様が目を光らせていたから問題は起きなかったけど、今度のベブルス伯爵というのがまともな人という保証はどこにもない。

“君子危うきに近寄らず”というのが正解だろう。

身を慎んで岩屋に籠ることにした。

仕事はゴクウたちに任せ、エッチな小説のお気に入りシーンでも読んで引きこもることにしよう、そう心に決めて岩屋へと戻った。

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