第21話 ホスピタリティ

 食事をテーブルに運ぶと小さな歓声が上がった。


「おお! うまそう!」


 冷めてしまったパンも温めたオーブンで再加熱した。

こうすれば少しだけ焼き立て時の柔らかさを取り戻す。


「……」


 あれ? 

食べる前まではしゃいでいたのに、一口パンを食べたら全員が黙ってしまった。

変な物でも入っていたのか?


「うまい……」


 ミラノ隊長がつぶやいた。


「うまいなんてもんじゃないですよ! 私、こんなパンを食べるのは初めてだ!」


 そういえばクリス様が言っていたな。

俺の作るパンは王宮で出されるパンと比べても遜色のないほど美味しいらしい。

ルイスちゃんは喋りもしないで黙々と食事を口に詰め込んでいる。

頬を膨らませた姿がリスみたいで可愛かった。


「このパンはどうやって? 麦畑も作っているのか?」


 あ~……どうしよう。

創造魔法のことは黙っておいた方がいい気がする。


「小麦は船員に分けてもらいました。パンはもう1個だけならお代わりがありますけど、食べますか?」

「いただきます!」


 全員が手を上げた。

三人とも食欲旺盛で魚は骨までしゃぶるように食べていたし、パンもスープもお替りをしてくれた。

自分の作った料理を喜んで食べてもらえると嬉しいよね。


「シローちゃん、私と結婚してもらえませんか?」


 食後にチャラ女に口説かれた。

まあ、本気ではないのだろう。


「はいはい、また今度お願いしますよ」

「いや、私は本気だよ」

「どうせ、男を見れば端から口説いているんでしょう?」


 とりあえず口説くというのが礼儀だと思っているタイプだな。


「そうだけど、シローちゃんは特別だよ。料理は上手だし、色っぽいし」


 褒められれば悪い気はしない。

だけどね、クリス様やセシリーと比べちゃうとリーアンはどうしても見劣りしちゃうんだよなぁ。


「お褒めに与り光栄ですよ。でも、私はルイスさんみたいな誠実そうな人が好きだな」


 そうやって話をかわすと、ルイスちゃんは真っ赤になってしまった。

やっぱり可愛い。


「え~、シローちゃんは年下好みかぁ!」


 ふざけてくるリーアンを無視して空いた食器を下げた。


「ところで男将(おかみ)」


 ミラノ隊長が話しかけてくる。

オカミって俺のことだよな?


「なんですか?」

「この宿の南に遺跡のようなものが見えたのだが、あれはなんだ?」


 あちゃー、あれも見られてしまったか。

上空からだとダンジョンの入口も丸わかりだろうな。

セシリーが独り占めしようと楽しみにしていたのに残念なことだ。

見つかってしまっているなら隠し立てするわけにもいかない。


「自分にもわからないのです。随分と古そうな建物でしたよ」

「そうか、午後はそっちを調べてみるかな。それから、今夜の宿を頼みたいのだが」

「えっ、お泊りになるのですか?」

「うん。本当はどこか適当な島に野営するつもりだったのだが、こんなところに宿屋があるのだ。利用しない手はないよ。男将の料理もうまいし」


 初めてのお客さんだ。


「ごらんの通り粗末な二段ベッドしかございませんが?」

「構わない、構わない! シローちゃんのベッドに添い寝させてくれたらもっといい!」


 リーアンが横から口を出す。


「添い寝はともかく、野宿よりこちらのベッドの方がずっと快適そうだからね。ルイスも泊まるか?」

「はい。自分も宿屋がいいであります!」


 三名様ごらいて~ん。


「承知しました。それではお戻りをお待ちしています」


 そこで、ミラノ隊長が懐から財布を取り出した。


「ごちそうさま。とても美味かったよ。いくらだい?」


 しまった、料金設定を忘れていたよ。


「えーと、自分は、物々交換しかしたことがなくて……」

「困ったな。私は干し肉以外交換できそうなものを持っていないのだ。手持ちの品はほとんど官給品だしな」

「あっ、いえ、お金で構わないのです。ただ、相場というものがわからないので……」


 いつかは現金が必要な時が来るかもしれない。


「だったら600レーメンでどうだろう? 帝都で昼飯を食べればだいたい500レーメンが相場といったところだ」


 リーアンもルイスちゃんもウンウンと頷いている。


「そうですか。では500レーメンで結構です」


 ぼったくるつもりはないのだ。

相場どおりの値段でじゅうぶんだと思った。

お金はそれぞれの兵士が銅貨を5枚で支払ってくれた。

気の強そうな女の人の顔がついている硬貨だった。

ルルゴア帝国メリッサ二世と書いてあった。


「ありがとうございました」

「うん。それでは我々は島の調査をしてくる。今夜の宿をよろしく頼むよ」


 三人が出ていく時にルイスちゃんにウインクしたら、ものすごくモジモジしていた。

反応が可愛いなぁ。

もしかして素敵なロマンスが始まったりして……。

淡い期待に胸を焦がしながらベッドを整える。


「ゴクウ、シーツを持ってきて!」


 お客さんが増えるようならゴクウをもう一体作ってもいいな。

掃除やベッドメイクなどをゴクウたちに任せることができれば便利だ。

ゴーレムの作製レベルも上がって一石二鳥というものだ。



 実は今朝からずっとイワオの大盾×3を作製していたのだが、俺はそれをキャンセルした。

MPを168も無駄にしてしまったけど仕方がない。

俺には作らなければならないものがあるのだ。


####

作製品目:岩風呂

カテゴリ:道具作製

消費MP 140

説明:大岩をくりぬいた浴槽 。深さ60㎝、幅400cm、奥行300㎝。

作製時間:4時間

####


 作製時間は4時間か……ギリギリだな。

そう、疲れて帰ってくるお客様のためにお風呂を用意したいのだ。

けっして皆の裸が見たいからじゃないぞ。

これは俺の親切心なのだ! 

 ぶっちゃけさぁ、人生において複数の裸を同時に、しかも生で見るという機会って滅多にないと思うんだ。

映像とかならそういうのもあるんだろうけど、リアルだと有り得ないと思わない? 

少なくとも俺の人生にはこれまでなかった。

いま、そのチャンスが来ているんだよ。

だったらMPの168くらいドブに捨てるよね。

こんなもんボーっとしてれば2時間ちょっとで回復するんだし。

とにかく俺は創造魔法で岩風呂をセットした。


「イワオ、ゴクウ、緊急任務だ! 全員集合!」


 ゴーレムたちが俺の周りに集まってきた。


「これより小川の近くにお風呂場を作るぞ。1号と2号は川沿いの場所を整地して平らな石を敷き詰めるんだ。ゴクウと3号はお湯を沸かすためのカマドを作れ。わかるな、ゴクウ? 先日作った石のカマドだ」


 モンテ・クリス島は南国なのでお湯はぬるくていいだろう。

だから沸かす湯の量は少なくて済む。

それにイワオは火傷もしないし、力持ちだ。

風呂桶にお湯と水を移すなどお手の物なのだ。


「みんな頑張ってくれよ。俺に未知の景色を見せてくれ!」


 壁のない露天風呂計画はゴーレムたちのおかげで夕刻前にコンプリートした。

出来上がった岩風呂を整地した岩の上に置いたけどぐらつきなどはなかった。

かなり広いので全員一緒に入っても問題ない。

俺が一緒でも大丈夫だろう。

いや、入らないけど……。


「それじゃあ俺とゴクウは花とハーブを摘みに行ってくるからな。イワオたちはお湯を沸かして風呂桶に入れておくんだぞ」

 南国のお風呂には花を浮かべたいよね。

疲れた心もリフレッシュしてもらわないと。

俺はエロだけの男じゃない。

ホスピタリティの心だって持っているのだ。



シローの現時点でのステータス


####


創造魔法 Lv.8

取得経験値:797/2000

MP 536/536

食料作製Lv.5(EXP:141/1000)食料作製時間9%減少

道具作製Lv.5(EXP:35/1000) 道具作成時間9%減少

武器作製Lv.2(EXP:104/300) 武器作成時間3%減少

素材作製Lv.4(EXP:78/800) 素材作製時間7%減少

ゴーレム作製Lv.2(EXP:139/300)ゴーレム作製時間3%減少

薬品作製――

その他――


####

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る