第10話 シロー、ひとりぼっち

 夜明けとともに目が覚めた。

横を向いたら同じように目が覚めたばかりのクリス様と目があってしまった。


「おはようございます」

「おはよう。素敵な夜だったよ」

「はあ……」


 改めて言われると気恥ずかしくなる。


「いろいろと初めての経験をさせてもらったが……、悪くはなかったぞ」


 この王女様は、どうしてそういうことを恥ずかしげもなく言えるんだろうね。


 クリス様は朝から食欲旺盛で骨付きの炙り肉をムシャムシャと食べていた。

鍋があったらあの骨からいいスープが取れそうだ。

鍋だって欲しいよな。

鏡、石鹸、髭剃り、釣竿、火打石、鍋と欲しい物、必要な物が次から次へとあらわれる。

そろそろ野菜だって食べたい。

フルーツを食べているのでビタミンが欠乏することはないと思うけど、料理をするのだったら畑もあったほうがいいだろう。

作製しなければならないものはたくさんあるのだから、魔法以外で採取できるものも増やしておいた方がいいだろう。


 朝食を食べ終わると、クリス様はできあがった水瓶に小川で水を汲んで、船まで運んだ。

クッションにするための枯草も大量に持ち込んでいる。

それから一晩かけて燻製した肉やフルーツも運び込んだ。

そんなことをしているうちに残り2個の水瓶もできた。

それにも水を汲んで積み込めばいよいよ出発の時間だ。


「ご武運をお祈りしています」

「シロー……達者でな。そなたを側室に迎えたかった」


 きっと好意で言ってくれているのだろうけど、俺にそれは受け入れられない。

後宮の男なんてやっぱり嫌だと思ったんだ。

だから無言で手を振った。

クリス様をのせた船はどんどんと遠ざかり、やがて水平線の向こうへと消える。

そして俺はひとりぼっちになった。



 石のナイフを研ぎながらこれからのことを考えた。

単純作業は不思議と心を落ち着かせくれる。

時々水を掛けながらナイフを前後に動かしていると、クリス様がいない現実を少しだけ忘れることができた。

とりあえず、何をしようかな? 

幸いなことに肉もフルーツもかなりある。

まだ採取していないバナナやマンゴーの木だって見つけてあるのだ。

やっぱり最初に作るべきは火打石かな。

今はクリス様がつけてくれたたき火が燃えているから良いけど、これが消えたら肉を焼くこともできない。

文明生活の第一歩はやっぱり火だよな。

というわけで火打石を最初に作ることにした。


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作製品目:マグネシウムファイヤースターター(火打石)(Lv.1)

カテゴリ:道具作製(Lv.1)

消費MP 20

説明:棒状のマグネシウムとスチール板のセット。あらかじめマグネシウムを削って粉末にし、着火させる枯草や小枝にかけておく。スチール板にマグネシウムを打ち付けることによって火花を飛ばし、粉末を燃焼させて火をつける仕組み。

作製時間:20時間

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 素材としては海水中の塩化マグネシウムを利用すれば10時間で出来てしまうそうだ。

一本作ればしばらくはもつそうだから早速作ってみよう。

海辺で火打石の作製をセットして、薪になる枝を拾いながら岩屋へ帰った。


 今日はよく晴れた一日だった。

太陽は西の空へ沈みかけ水平線を真っ赤に染めている。

少しずつ夕闇が近づき、それと共に俺の恐怖が増大してきている。

これまではクリス様が一緒だったから全然怖くなかったのだが、今日からは一人の生活だ。

クリス様は俺のためにと剣を一振り置いて行ってくれたけど、まともに使える気がしない。

160センチくらいはありそうなロングソードなんだもん。

俺のような非力な男じゃまともに振ることもできないほど重たいぞ。

それにしても後悔していることがある。

どうせなら火打石ではなくて入口のドアを先に作ればよかったと思ったのだ。

魔物はスライムくらいしかいないようだけど、動物はいろいろいるのだ。

例えばクリス様が獲ってきたようなイノシシが襲ってきたら、俺にはとても太刀打ちできない。


マグネシウムファイヤースターター 作製終了まで 03:12:06


 火打石が出来上がるのは夜の8時くらいだ。

もう半分以上の時間が経ってしまったから、今さらキャンセルするのももったいない気がしてできないし、入り口をふさぐ板を作成するのは明日になってからだ。


 夕食を食べ終わるとやることもなくなってしまった。

俺は岩屋の入り口付近で盛大に火を焚き、傍らに剣を置いて、ひたすらにナイフを研ぎ続けた。

使えもしないのに剣が横にあるだけでなんとなく安心できたんだ。

眠れないまま火打石の完成時間を迎えた。

扉の板は生えている木を原料にするので、今は無理だ。

暗闇の中を森に入っていく勇気は持ち合わせていない。

だったら次は何を作ろうかな。

そうだ、このロングソードは重すぎて使うことができないから、これを素材にして槍とかナイフ、鍋を作るのがいいだろう。

俺みたいな素人はどうせ剣なんか碌に扱えないのだ。

だったらリーチのある槍の方がまだマシというものだろう。


剣を素材に槍を作製した。


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作製品目:槍(Lv.1)

カテゴリ:武器作製(Lv.1)

消費MP 29

説明:木製の柄をもつ槍

作製時間:15時間

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 ロングソードを素材にすれば8時間で完成すると出ている。

早速、魔法を試すとロングソードの先っぽがなくなっていた。

素材に使われた分だけ欠けてしまったようだ。

槍をセットした後もなかなか眠気は訪れず、まんじりとしないまま俺はひたすら石のナイフを研ぎ続けていた。


 動物の鳴き声に怯えながら過ごしたので、眠りについたのは夜も白々と明ける頃のことだった。


ポーン♪

槍 作製終了まで00:00:00

槍が完成しました。出現場所を指定してください。


 槍完成のアナウンスの音で目が覚めた。

時刻を確認するともうお昼だ。

すっかり寝過ごしてしまったようだ。

しばたく目をこすりながら完成した槍を目の前に出現させて出来栄えを確認してみた。

長さは270センチあり、穂先はピカピカと輝いている。

穂先と反対側の石突きの部分も鉄製の部品が取り付けてあった。

鑑定家ではないから詳しいことはわからないのだけど、美しい槍だと思う。

いい仕事をしているじゃないか。

これから森へ行くときは、この槍を杖代わりに持ち歩くとしよう。


 外に出ると焚き火がほとんど消えかけていたので慌てて薪を追加した。

まだ火打石は使ったことはなかったので、慣れるまでは火を消したくなかったのだ。

小枝や枯草を足してフーフーと息をかけると火は再び燃え上がった。

それから大きな枝を足して一息付けた。

薪なんてすぐになくなってしまうんだな。

新たな作製物を決めたら森で枝を拾ってこなければならない。

さて、昨日からの懸案事項である入り口の扉を作製するとしよう。

扉と言っても蝶番(ちょうつがい)は取り付けられないので木の板でいいだろう。

岩屋の入口より一回り大きい板を中から立てかけるだけの、お手軽ドアだ。

板は生えている木を材料にすればすぐにできることがわかった。

消費MPは18、時間は一時間くらいでできてしまう。

これさえあれば少しは安心して夜も眠れる。

すぐに魔法をセットして枝拾いに出かけた。


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創造魔法 Lv.2

取得経験値:151/300

MP 8/55

食料作製Lv.1(EXP:54/100)

道具作製Lv.2(EXP:126/300) 道具作成時間3%減少

武器作製Lv.1(EXP:29/100)

素材作製Lv.1(EXP:0/0)

ゴーレム作製――

薬品作製――

その他――


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