第21話 昇格試験の案内
(....う...むむ...一体...何があった...?)
それから少しして目を覚ましたワロウ。辺りを見渡すと、そこは今泊っている部屋のベッドの上だった。つまり意識を失った時のままだった。
(急に力が抜けて...倒れちまったのか)
部屋の中の時計を見てみると、そこまで時間は立っていなかった。一時的に気を失っていただけのようだ。ワロウはそのことに安堵しながら、先ほど襲われた感覚について考えていた。
(この感覚...昔どこかで...どこだったか)
ワロウはこの体の中からエネルギーが無くなる喪失感のような感覚をかつて味わったことがあった。それはいったいいつのことだっただろうか。
必死で過去の出来事について思考をめぐらすワロウ。そしてついに思い出したのであった。この感覚はいつどこであったものなのかを。
(そうだ...!!思い出したぞ...あれは...)
(回復術を使った時だ!)
そう。先ほど意識を失った時の感覚はワロウが回復術を3回使った後のことだった。あの出来事でワロウは魔力というものを初めて体験したのだ。今回も同じことが起こったのではないか。
(魔力を使った...ってことか?でも、回復術なんか使ってないぞ)
(...”コイツ”か。考えられるのは)
ワロウは改めて自分の装備しているベストをじっくりと眺めた。だが、ベストは別にどこかが光ったりするわけでもなく、変化は特に起きていない。
その場で軽く跳ねてみる。特にいつもと変わらない。部屋にある靴べらを剣の代わりに見立てて振ってみる。やはりいつもと変わらない。
あの時、腕輪の力を得ることができた時には明らかに違いが分かった。つまり、これは何も変わっていないということなのだろう。
(...嘘だろ。反応しておいてただの防具でしたなんてこと、ありえるのか?)
腕輪が反応したことといい、先ほど魔力を奪われたことといい、必ず何かあるに違いないと思っていたのだが、完全に肩透かしを喰らった気分である。
「...まあ、いいさ。別に特殊能力がなくたっていい防具なのは確かだからな」
そう口では強がったワロウではあったが、内心では相当がっかりしておりそのまま深くベッドに倒れこんでしまうのであった。
ワロウが一人部屋の中で落ち込んでいると、部屋の扉がノックされた。ワロウが入っていいと許可を出すと、そこには用事から戻ってきたバルドの姿があった。
「お。早速防具つけてるんだな。どうだ着心地は?」
「...まあ、悪くはないぜ。悪くはな」
ワロウは言葉少なに返事をする。どう見ても買った防具に満足している様子ではない。
「...それにしてはなんかすげえ落ち込んでるじゃないか。もしかして不良品だったのか?」
「いや...不良品じゃあない。ある意味期待外れだったっていうのは間違いじゃないけどな」
”ふうん”とつぶやきながら首をかしげるバルド。腕輪の声が聞こえないバルドからしてみればワロウが一体どんな期待をしていたのかさっぱりわからないのは当然である。
「そんなことはいい。それよりも何の用だ?」
「そうだそうだ。忘れるところだったぜ。ほら...お前への報酬の件だよ」
「報酬の件?こいつのことか?」
そう言ってワロウは自分の来ているベストを指さす。それを首を振って否定しながらバルドは苦笑した。
「おいおい。装備の方に気を取られて最初の報酬を忘れてるんじゃないか?」
「最初の報酬...そうか! すっかり忘れてたぜ。昇格試験のことか」
様々な事情があり今現在ワロウはEランク冒険者である。Eランクの依頼の報酬は少なく、その日その日を生きていくのが精いっぱいなのだ。なので、ワロウが今している旅の続きをするのはEランクのままだと相当厳しい。
そこで、バルドの依頼を受ける代わりにワロウはDランク昇格試験への推薦状をバルドに書いてもらうといった報酬をもらう予定だったのだ。
途中でペンドールからの報酬も加わり、しかもそれが度肝を抜くような大金だったせいでその衝撃ですっかり頭の中から消えていた。
「お前が部屋に籠っている間に手続きを済ませてきた。これでお前も昇格試験を受けられるはずだ」
「本当か!そいつぁ助かる。これでやっとまともに旅ができるようになる」
「旅費だけだったらペンドールさんに頼めば何とかなったんじゃないか?わざわざ冒険者ランクを上げる必要もないかもしれないぞ?」
確かにペンドールに頼めば、きっとかつての仲間たちがいる町ガイルトンまで全く稼がずともたどり着くことができるくらいの金額は出してくれるかもしれない。だが、ワロウはそれは嫌だった。
「...それじゃ、旅の醍醐味ってやつが無くなっちまうだろ?人の金でどうこうっていうのも気に入らねえしな」
「大人だねぇ...俺だったら速攻で飛びついちまうけどなぁ」
バルドは感心したように頷くが、別に大人どうこうというよりかはワロウの個人的な感情が主である。なんとなく人の金で旅をするというのは落ち着かないし、これが最後の冒険になる可能性が高いのだから後悔するような真似はしたくないと思ったのだ。
「それで?いつ昇格試験はあるんだ?」
「ああ。一番近い日で...3日後だな」
ポンと何気なく告げられた日程に、ワロウは驚愕した。
「み、3日後だと?流石に急すぎるだろ、それは」
「そうすると次は来月になるとか言ってたかな。しかも場所はここじゃないらしい」
「ゲッ...ホントかよ...」
バルドが言うには、ここら辺の小さな町でだけでは試験するだけの人が集まらないので近隣の町から冒険者達を集めて一気に行うとのことだった。
なので、3日後の試験はたまたまこの町でやることになっているが、次は一か月後のまた違うどこかの町でおこなれるということだ。
そこまで急ぎの旅ではないとはいえ、流石にそこまで悠長には待っていられない。この町にはあくまでもちょっと旅費を稼ごうくらいの気持ちで立ち寄っただけなのだから。
「仕方がねぇ。その三日後のやつに出るしかねえな」
「おお、なかなか挑戦的だな。まあ、前に見せてもらった腕前なら大丈夫じゃねえか?」
バルドとはラモサを取りに行ったときに一緒にリザードマンを倒したことがある。その時にバルドもワロウの思わぬ強さに驚いていた。腕輪の力によって強化されたこの力は試験でも役に立つだろう。
「Cランク冒険者のお墨付きなら大丈夫そうだな。ささっと行ってささっと終わらせてやるさ」
「おう。頼むぜ?あんまりひどいようだと推薦した俺にまでペナルティが来るからな」
ワロウが一番最初にこの町のギルドに行ったときに言われたことである。あまり実力に見合っていない冒険者を推薦すると、推薦者にもペナルティが課されてしまうのだ。
「ああ、そういやそうだったな...まあ、恨んでくれるなよ」
「...おい、どういう意味だそれは!?」
ワロウの不穏な言葉に対して、バルドが突っかかる。そんなバルドをからかいつつもワロウは昇格試験について考えていた。
(一体いつぶり何だろうか...Eランクになったのは17の時くらいだったか?)
ワロウがEランクになったのはかつてのパーティに所属する直前のことだった。つまり、もう20年近く前の話である。
もちろんその時も試験は受けたのだろうが、流石にその当時の記憶はほとんど残っていない。はるか記憶の彼方だ。
(...まあ、今のオレなら大丈夫だろうさ)
ワロウは試験について楽観していた。十分に受かるだけの実力はあるだろうと。だが、その試験はワロウが想像だにもしなかった出来事が起きるのであった。
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