バッタを斃しに

「第五のラッパが吹き鳴らされ、蝗が人々を五か月の間苦しめる。黙示録そのままの光景だ」


樹海の惑星グ=ラス 南半球赤道直下】


快晴だというのに、真っ暗な空だった。

荒野を飛び交っている無数の存在は昆虫。サバクトビバッタと呼ばれる地球原産の生物が、陽光を遮るほどに異常発生しているのだ。恐るべき光景であった。まともに頭を上げてはいられないほどなのだ。

「これは……まるで天罰ですな」

「黙示録ですか。第五のラッパが吹き鳴らされ、蝗が人々を五か月の間苦しめる」

「ええ。もっとも、罰を下されるほどの罪を犯したのは神々でしょうが」

アンドレア・マッケンジーは同行する科学者に対して頷いた。このような敵地への浸透任務はもう幾度もこなしているが、今回はこの科学者たちの調査行の支援と護衛だ。周囲でも現地人に偽装した兵士たちが科学者たちの指示の下、データを採取するべく動いている。

「遺伝子戦争期にもサバクトビバッタの群れが東アフリカ一帯の農業を壊滅に追い込み、数百万人が飢餓に晒されました。原因は気候変動。濫用された各種の兵器や気象制御型神格による被害が原因です。今目の前で飛び交っているのも同様でしょう。猛烈なサイクロンが降らせた大量の雨が、繁殖に最適な環境を作り出したわけです」

「つまり、今回も多くの人々が飢餓にさらされる。と?」

「ええ。その可能性は大いにあります」

科学者が示したのは同意。

それが意味するのは恐るべき事態だ。この惑星に居住させられている人類はその大半が農耕や牧畜で生き永らえている。そしていまだ国連軍は、そのすべてに手を差し伸べることができてはいないのだ。このような場所に科学者からなる調査チームが送り込まれたのもそれを危惧してのことだった。

「戦時でなければ神々が対処したでしょうが。いや、そもそもサバクトビバッタの大量発生を許すような気候変動を抑止していたはずです」

「なんとかせねば。人道上の危機です」

「そのためにもまず、我々がすべきことはデータを集める事です。上がどう判断するか。信じましょう」

「ええ」

ふたりは、自然が作り出す猛威の光景を見上げていた。




―――西暦二〇五九年。遺伝子戦争から四十三年目の出来事。

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