我が名はテレパシー⑥




その後、一度諦めたのか屋上への誘導は来なくなった。 先程まで屋上に来いと言ってきていたクラスメイトも今はケロっとしていて、まるで最初から何もなかったかのようだ。 

だがそれでも操のことは気になり、次に同様の状況が起きたらどうしようか考えているうちに放課後になっていた。


―――ふぅ、今日も無事に学校生活が終わったな。

―――少し嫌な予感はするが、あとは帰るのみだ。

―――気を引き締めよう。


幸いなことにこの後の予定はない。 なるべく早く帰ろうとしたところで、バッグを持ちながら強ノ助が寄ってきた。


「おーい、久遠ー! 今日も一緒に帰ろうぜー」


意外かもしれないが、強ノ助とはほぼ毎日のように下校を共にしている。 いや、正確に言うなら共にされている。


―――いつから一緒に帰るようになったんだ。

―――俺は一度も許可を出した憶えがないぞ。


いつも通り特に何も返事はせず教室を後にした。 後ろ目で強ノ助を見る。


―――相変わらず、しれっと付いてくるんだな。

―――これがもう当たり前のように思えてきて嫌だ。

―――馬鹿みたいに付いてくるから、放課後の時間をいつも満喫できないんだ。

―――大人しく帰るしか選択肢はない。

―――本当は行きたいところがたくさんあるんだがな。


だがそれも今日となれば話は別だ。 今日は予定がないことが幸いなくらいで、強ノ助がいた方が何かと心強いのかもしれない。


―――・・・いや、それはないか。

―――何かを避ける肉壁くらいにはなるのかもしれないが。


そのようなことを考えているとも知らず、強ノ助は相変わらず一人で喋っている。 久遠が応えないことなんてお構いなしだった。


―――・・・一人でガヤガヤとうるさいな。


しばらく歩いていると突然目の前に操が現れた。 人気の少ない道に来るのを待っていたのかもしれない。


「よう、久遠。 ようやく学校が終わったか。 気配を捜すのは大変なんだぞ、校舎を出るならそう言ってくれ」


―――やっぱり来たか。

―――どうしていちいちお前に報告をしないといけないんだ。


予想通りではあるが、正直見たい顔ではない。 会いたくない度で言えば強ノ助よりも上だ。 そしてその強ノ助はというと、操を思い切り指差してキッパリと言った。


「あ、さっきの不審者だ!」

「不審者!? 誰のことだ!?」


操は強ノ助の発言を真に受け、辺りをキョロキョロと見渡す。 誰もいないことを確認し首を傾げていた。


「・・・まぁいい。 さぁ、久遠! 早速勝負をしようではないか!」


―――断る。

―――まだ死にたくないんだ。

―――やりたいことがたくさんあるからな。


操を無視しそのまま通り過ぎる。


―――まぁ、そう簡単には諦めないだろうけどな。

―――さて、この状況からどうやって抜け出すか・・・。

―――・・・ん?


そこで違和感に気付いた。


―――急に静かになったな。

―――諦めて大人しく帰ったのか?


振り向くと強ノ助が操に掴まっていた。 強ノ助の後ろに操が回り、強ノ助の首を絞める形をとっている。


―――いつの間に。

―――馬鹿なら一人で脱出できそうだが、抵抗はしないのか。

―――何故かやけに楽しそうだな。


強ノ助は笑顔で言う。


「おぉ、何だこれ? 社交ダンスか?」


―――こんな往来のど真ん中で社交ダンスなんてするわけがないだろ。

―――しかし、結構絞められているだろうに呑気なものだな。


ただ強ノ助の力が人並外れて強いことを久遠は知っている。 だからこそ一人で脱出できるとも思ったし、今の状況をピンチとも思っていない。 

操は体格が勝っていると思っているようだが、強ノ助の馬鹿力は馬鹿にはできないのだ。


「おい、久遠。 コイツを助けたかったら、お前の学校の裏山へ来い!」

「・・・」


返事も聞かず操はそう言って強ノ助を連れてここから去っていった。


―――馬鹿はチビだからな。

―――体重は軽そうだし、攫うのは簡単なのだろうか。

―――まぁ馬鹿は強いから一人で逃げられるよな。

―――さて、何をしよう?

―――久々に誰にも邪魔をされないんだ。

―――お気に入りの本屋へでも行こう。


久遠からしてみれば、久しぶりの一人の放課後の時間なのだ。 操の脅威を強ノ助に押し付けられたとするなら、この時間を謳歌するのは当然の選択だった。 

ということで、二人を無視し一人の時間を楽しむため本屋へと向かった。



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