第7話 もしもえっちなことをしてる最中に異世界転移しちゃったら ②

 ナユタとピノアは、無我夢中でお互いを求めあっていた。


 ピノアはナユタの上にまたがる、いわゆる騎乗位の状態になっており、下からナユタに激しく突き上げられていた。


 ピノアが間もなく絶頂に達しようとしていた瞬間、



 姪のサクラと目があった。


「はぇ? ……え、えっ、ええー、サクラ!?」


「……うん、サクラだけど。

 ピノアちゃん、何してるの?」


「あ、えーっと……せ、せっくす?

 こ、こうすると赤ちゃんできるんだよ!!」


 ふたりは気づいたら異世界にいた。


 そして、そこはエウロペという国の女王の間で、ピノアの姪のサクラだけではなく、女王であるピノアの双子の姉と、その夫である王配がいた。




 数分後、ナユタとピノアは全裸で正座をさせられていた。

 娘の教育上良くないということで、サクラは自室に避難させられていた。


「え!? こっちではわたしがいなくなってから一週間しか経ってないの!!?

 わたし、あっちに17年いたんだけど」


 ふたりがいたのは西暦2038年だった。


「で、その男の子は?

 あ、その前にわたしたちが自己紹介しないとね。

 わたしはステラ・コスモス・ダハーカ。

 前国王はわたしの父ではなかったのだけれど、一応わたしやピノアも王族の血を引いていたから、今は女王をさせてもらってるの」


 ステラは、ピノアと同じ銀髪だったが、瞳の色は赤ではなく青かった。


「別の意味でも女王様なんだよ。超ドSなの、ステラは」


 ピノアは、ナユタにそんなことを耳打ちしてきた。


「余計なこと言わない」


 ステラに睨み付けられたピノアは、ヒィッとわざとらしく怯えた声をあげた。

 仲がいいんだな、と思った。


「ぼくは、ステラの夫でレンジ・フガク・ダハーカ。

 さっきの女の子は、ぼくたちの娘でサクラ・アキツキ・ダハーカ」


 王配はそう名乗り、この人がピノアの初恋の人なのだな、とナユタは思った。

 穏やかな、優しそうな人だった。

 その顔や雰囲気がよく似た人を、ナユタは知っていた。


「あ! レンジがこどもの頃に変な性癖を植え付けられた、にしおかすみこっていう芸人さんのネタ、DVD借りてもらって観たよ!!

 あれ、超おもしろかった!! 完コピした!!!」


 レンジはブホッと口から変な音をだし、唾が気管支に入ってしまったのか咳き込みはじめた。


 ナユタは幼い頃からVRゲームをするか、ピノアや叔母とふたりが考案したらしい謎の言葉遊びのようなゲームで遊んでばかりだったから、テレビをあまり観る習慣がなかった。

 今どんな俳優や女優が売れているかもよく知らなかった。だから知らない芸人の名前だった。

 だが、話の流れから察するに、ピノアがあちらの世界でその芸人のネタを観る前に、レンジからその芸人のことを聞いていた、ということだった。


 ピノアはこの世界からあの世界に行き、この世界に戻ってきたわけだが、彼はナユタと同じようにあの世界からこの世界に来た人なのだ。


 サクラの名前に入っている、アキツキという言葉にも聞き覚えがあった。


「もしかして、秋月サトシさんの息子さんですか?」


 サトシとは、雨野一家の友人で、ピノアが17年間お世話になり続けている家の人の名前だった。


「父さんのことを知ってるの?」


 レンジは驚いていた。


「ぼくが、ピノアちゃんが異世界人だと知ったのは一ヶ月くらい前なんですけど、ピノアちゃんはサトシさんの家に住んでいて、うちの家とは家族ぐるみのお付き合いをさせてもらってるんです。

 あ、ぼくは、雨野ナユタっていいます」


 ナユタの名前に、ステラとレンジは反応し、


「雨野……?」


 顔を見合わせた。


 父や叔母のことをふたりも知っているのだ。



「ピノア……まさかとは思うけど……タカミと、あっちの世界の真依(マヨリ)の子どもに手を出したの……?」


 あっちの世界の真依、という表現が気になったが、


「はい、父と母は、雨野タカミと雨野真依と言います。

 母の旧姓は、なんだっけ……たま……が、どうとかいうやつです」


 レンジは笑っていたが、ステラは何故かもはやどこからツッコんでいいのかわからない様子で、頭を悩ませていた。

 頭が痛いというよりかは、もはや「頭痛が痛い」というゲシュタルト崩壊レベルの、そんな顔をしていた。



「えーっと……

 ナユタくんは、ピノアの年を知ってるのかしら?」


「ミカナちゃ……叔母と同い年だと聞いていますが……だから、40くらい?」


 叔母はミカナといい、ミカナちゃんと呼ばないと、すぐにすねるめんどくさいけど、かわいい人だった。

 ピノアはなぜか、ピノアお姉さまと呼ばせたがったが、ミカナちゃんと同じでピノアちゃんと呼ぶようにしていた。



「もう4000年以上生きてるわよ、その子」



 はぁ? と思った。


「いやいや、まさかまさか、人をすぐ蝋人形にしたがるお相撲好きの閣下じゃないんだから……」


 ナユタはテレビをあまり観ないが、デーモン小暮のことは知っていた。

 確か彼は一万歳を超えていたはずだ。


 ピノアは、マニアやオタクと言ってもいいほどの、かなりの相撲好きだったからだ。

 彼女が考案した言葉遊びのようなゲームの中には、「架空のお相撲さんの名前を順番に漢字で書き、フリガナもつける」という、彼や叔母の頭がパンクしそうになるものもあったほどだった。

 ずっと外国人だと思っていたから、日本の国技がめずらしくてハマっているんだなと思っていたが、異世界人だったから本当にめずらしかったのだろう。


 お相撲好きの閣下というナユタの言い回しがツボにハマったのか、レンジは笑いを隠し切れずに吹き出していたが、ステラの表情は真剣そのものだった。



「……え、設定じゃなくて? ガチで4000歳過ぎてるの?」




 つい一ヶ月ほど前、ナユタは、


 初恋の女の子が異世界に住んでいると言ったら、信じてくれる人は誰かいるだろうか。


 そんなことを考えていた。



 そして今は、


 はじめて出来た彼女が異世界人で、その年の差が4000歳以上だと言ったら、一体誰が信じるだろうか。


 そう思った。


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