ニ章.悪の軌跡編
7.悪魔の預言者
「お嬢様見てください!このプレゼント凄いですよっ!」
「なんでほとんどのプレゼントが真っ赤なの?しかも趣味悪っ!私ってそんなイメージなの?」
「私には豪華で素敵でお嬢様にとても似合うと思いますが!特にこのネックレスとかお嬢様にぴったりです!」
「ゴテゴテでダサッ!」
私の誕生日プレゼントが大量に別邸に運ばれて、ニイナが一つ一つプレゼントを楽しそうに開封していくのだけれど・・・。
「好きなのあったらなんでも持っていっていいわよ。」
「絶対に要りませんっ!」
「やっぱりダサいと思ってるじゃないのよぉー!」
私のイメージに合わせて選んだと思われるプレゼントは真っ赤でゴテゴテで派手な物ばかりでとてもダサかった。
高そうな物なのにニイナが受け取りを拒否する程のダサさ。
質にでも売ればいいじゃない!
「コレが最後の一つです。1番小さいですが結構重いですね?」
「・・・今すぐ捨てて来て。」
「えぇ!?」
赤い箱にキラキラした真っ赤なリボンの小さなプレゼントが最後に残っていた。
そのプレゼントが視界に入らないように視線を逸らす。
「あぁ、思い出しました!確か王子様からのプレゼントでしたね!」
余計な事思い出さなくて良かったのに・・・。
「お嬢様がどんなに王子様を嫌っていても、王子様からのプレゼントを捨てるなんて私には出来ません!折角のプレゼントなんですから開けてみましょう!」
「どうせゴールドのブレスレットよ。」
前世で箱の中身を知っている私はため息をついてベッドに突っ伏した。
「違うみたいですよ。」
「え?」
「見てください!すっごく高価そうな豪華な薔薇のブローチです!」
ブレスレットじゃない事に驚いてベッドから顔を上げると、ニイナが嬉々としてプレゼントの中身を見せて来た。
プレゼントの中身は私の予想とは違う物が入っていた。
「すっごいですよ!作りがとても繊細で綺麗でキラキラで、とても美しいです・・・。」
プレゼントの薔薇のブローチに見惚れて口がポカンと開いているニイナ。
その薔薇のブローチは私が見て来た中でも、トップに入る程の美しさを誇っていた。
ルビーとダイヤが散りばめられた真紅の大きな薔薇のブローチは、まるで一輪の大輪の薔薇の様に鮮やかに咲いていた。
ルビーとダイヤの重みでブローチは重く、光に反射してキラキラと輝いている。
あの男からのプレゼントだというのに、私は心を奪われたかのように目が離せなかった。
薔薇のブローチを見ていたら、ふと書庫の記憶が蘇る・・・。
『こんな綺麗な本があったのね。』
その本にはこの国グランツの各地についての事が書かれていた。
【伯爵令嬢アリスのグランツ旅行記】
という本は書庫で生活があまりに暇過ぎて端から本を読んでいくという行為を続け、書庫での生活が8年経った時に手に取った本だった。
タイトル通りアリスという伯爵令嬢がグランツの各地を旅行し、各地での出来事や町の様子や文化などを細かく印した内容の本だ。
特にその本の大きな特徴としては、全てのページの絵に色が着いている事だった。
書庫の本は全体のまだ3分の1程度にしか読み終わっていないが、今の所本の絵に色が着いているのはこの本しか見つかっていないので、外に出られない私にとってはまるで外の世界を見ているかの様な新鮮な気持ちにさせてくれた。
その本の中で特に気に入っているページが北の辺境の町についてのページだった。
その町の名は【スノーベック】。
北の辺境はそびえ立つ雪山に囲まれ夏でも雪山を見ることができ、5月と6月は名物である薔薇の開花時期なのでスノーベックの町はお祭りで薔薇一色になる。
町の至る所にある薔薇の柄や模様が必ず目に入り、薔薇関係の商品が店先や露天で並び、町は常に薔薇のいい香りで満ちているとか。
そしてこの町の名物のスノーベックローズという薔薇は大陸1大きい薔薇の花を咲かせ、人々は見事な大輪に心奪われるそうだ。
魅力的な町の紹介と共に絵で描かれた真紅の大輪の薔薇に私の気分は高揚した。
『見てアンこの本凄いわよ!珍しく絵に色も着いてるし内容もとても面白くてね、絵がとってもキレイなのっ!』
アンは掃き掃除をしている手を止めて私の手元の本を覗き込んだ。
"ほんとうですね とてもきれいです"
メモに木炭で書いた文字を私に見せて優しく微笑むアンに、私も笑顔になる。
『辺境って田舎だってバカにしてたけど、町中が薔薇一色になって薔薇に関する商品でいっぱいになって薔薇のいい匂いがするそうよ!それにね大陸1の大きい薔薇が咲くんですって!どれくらい大きいんだろ?とっても素敵だと思わない!』
嗚呼、この町に行ってみたい。
『ねぇアン!いつかここを出られたら一緒にっ・・・・・一緒に・・・。』
いつかって、いつ?
『ごめんなさい・・・なんでもないわ・・・。』
ここに閉じ込められて8年も経つのに、誰も助けにこなければ、出してくれる様子もないのに何言ってるんだろ私。
『別の本読も。』
久しぶりに見たカラフルな風景に心が高揚したけど、現実に戻るとその落差に力が入らなくなった。
フラフラした足取りでこの本があった場所の本棚に行く。
本棚に本を戻すと、身体から力が抜けて本棚にもたれかかってズルズルと狭い通路に座り込んだ。
『希望を抱いたら辛くなるのに、バカね・・・。』
アンが近寄ってきて私の隣に座りこんだ。
私はアンの左肩に頭を乗せた。
アンは左手で慰めるように私の頭を撫でる。
"いつかいっしょに みにいきましょう"
アンのメモには不確かな希望が書かれていた。
『フッ、そうね・・・いつか2人で・・・。』
いつかなんて不確かな物に期待したら駄目だとは分かってる。
けど、たまには素直にそんな夢を語っていいじゃない?
少し悲しい気持ちになるけれど。
『いつか・・・綺麗な薔薇を見に行きましょうね。』
「・・・・・ハッ!またぼーっとしてた!」
薔薇のブローチを見てたら書庫での出来事を思い出してまたもやぼーっとしてしまっていた。
危ない。凄く危ない。
「ブローチのあまりの綺麗さに私も見惚れていました!でもこのブローチまるでお嬢様をイメージしてプレゼントされたようですね?凄く愛を感じます!」
「愛?気のせいじゃない?それにしてもまたしても前世と違う展開だわ。プレゼントは金のブレスレットじゃなくて、豪華な薔薇のブローチだし・・・今世は私の知ってる世界じゃないのかしら?」
今世の世界は前世とは少し違うかもしれない。
そんな説が浮かんでいた。
少し違うだけでだいたいは同じだから何が違うかなんて、実際に見てみるまで分からないけど・・・ 。
だからと言ってルイス様の性格が前世と違って私に優しい性格になったとしても、ルイス様が嫌いなのは変わりないし無理なものは無理。生理的に無理。
「とにかく、ルイス様からの物はどんな物であろうとも私の視界に入らないようにしてちょうだい。売るなり使うなりニイナに任せるから。」
「えぇー!!・・・分かりましたが、お嬢様の視界に入らないようにするので、もし王子様のプレゼントが必要な場合は言ってくださいね。」
「絶対必要にならないと思うけど、分かったわ。」
ニイナはルイス様のプレゼントを持って部屋から出て行った。
私は再びベッドに突っ伏した。
「こう前世の事思い出す度に感傷的になってたらもたないわ・・・。」
切ない。
私がベッドで項垂れていると、ノックの音がしてお父様とバスティンさんと知らない青年が入ってきた。
「お父様そのお方は誰?」
セミロングの黒髪と私の真紅の瞳の色よりも明るい赤い瞳の中性的な綺麗な顔の青年だった。
「お前のカウンセリングの先生であり、共にアンダルシア1世の短剣を探してくれる、お前とは従兄弟関係にあたるアクロアイトの伯爵家の者だ。」
「え?従兄弟の先生と魔法の剣探すの?」
「そうだ。こいつはこう見えても様々な分野において優秀でな。お前の前世の話に大変興味を持っていて、お前のトラウマもきっと治してくれる筈だ。」
「私の前世の事話したの?どうせ信じない人がほとんどだから別に言っていいけど、恥ずかしっ!なんだか凄く恥ずかしいわ!」
後でお父様には私が痛い人に見られるから、これ以上は私の前世の話を他の人に言わないようにしっかりと言わなくちゃ。
青年はニコニコしながら私に近づきじっと私の顔を見つめると首を傾げた。
「この子ホントに王子の子供ぉ?ダリア・ボアルネと瓜二つじゃーん!超美人だけど可愛くなーい!」
「あ”ぁ?んだとこのクソガキァ!!」
軽いノリで初対面で失礼な事を言ってきた青年に私は思い切り枕をぶん投げた。
だけど青年はひらりと枕をかわしてさらに私をムカつかせた。
「怒った時の他人をゴミみたいに見る目は王子そっくりだねー!王子もそう思わない?」
「王子って呼ぶな。」
お父様はスリッパで青年の頭をスパーン!と叩いた。
「いってぇ!そうだったごめん王子!」
またしてもお父様にスリッパで頭を叩かれる青年。
「あだっ!?」
「え?お父様って侯爵家の次男なのにアクロアイトで自分の事王子って呼ばせてたの?引く。」
お父様の痛い一面に私は引いた。
「そうなんだよ~!偉そうな雰囲気とかマジ王子って感じ♪」
スパパーンッ!と青年と共に今度は私の頭もスリッパで叩かれた。
「いたぁ!」
「うげっ!」
「今度王子って言ったらお前達を木刀で殴る。」
私と青年は即黙った。
「とりあえずこいつもここに住む事になった。カウンセリングの他にも、お前の吹っ飛んだマナーや王妃教育にも精通しているからあらゆる面でサポートしてくれる。」
「こう見えても超絶天才のエミール・シュミットでーす!20歳でお金持ちの伯爵家の長男でーす!よろしくねお姫様♪」
こいつチャれぇ!
「前世の記憶とかあるお姫様なんて研究意欲そそられるよ~。」
それにムカつく。
「お姫様って止めてくれる?お姫様じゃないし。」
「ああそうだった。ローズお嬢様はルイス王子と結婚するから将来王妃様だったね。これからよろしくね王妃様♪」
「わざと言ってんのかテメェ!」
私は渾身の力でもう一つの枕をチャラ男の顔面に投げた。
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