第1話 解体戦士スパイナー登場
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ここはヒーローワールドの小都市シャインシティ。
束の間の平和を享受していたこの街は今、再び悪の軍団の脅威に晒されていた!
「ネジジジジ!」
商店街に突如出現した黒ずくめの兵士達。
通称「ネジー」と呼ばれる、悪の組織「ダークフォース」の戦闘員である。
ネジー達は奇声を上げながら巨大なネジを象った金属棒を振り回しつつ行進。
するとネジ棒の頭から小ネジ弾が四方八方に発射され、周囲の建物や道路を次々と破壊していく!
「キャー!」
「助けてくれー!」
響き渡る破壊音、立ち上る煙、人々の悲鳴。
駆け付けた警官隊も、怪人達の圧倒的な数と火力の前に瞬く間に蹴散らされていく。
もはや、シャインシティの平和を取り戻せる者はいないのか?否!
「そこまでだ、ダークフォースの尖兵共!」
ネジー軍団の前に一人の戦士が立ちはだかる。
全身を覆う紺色の装甲。
巨大なスパナのような物々しい形状の右腕。
頭部は一見すると昔のニッポンの鎧兜のようだが、
前立部分も良く見るとスパナの先端のような形状になっている。
悪に対して激しい闘志を燃やすその男の名は!
「解体戦士、スパイナー!トゥッ!」
叫び声と共にネジーの群れに突っ込むスパイナー!
「ネジ!ネジジ!」
彼を取り囲み、巨大なネジ状の金属棒で滅多打ちにしようとするネジー達だったが、
攻撃は全てスパナアームに阻まれてスパイナーには届かない。
「これでも食らえっ」
スパイナーはスパナアームの先端を開閉させ、一体のネジーの胴を挟み込むと軽々と持ち上げる。
そしてアームを高速回転させて振り回し、他のネジー達を薙ぎ払う!
「ネジッ!?ネジジ~~!」
ネジー達は次々と吹き飛び、空中で爆発!
最後にアームから外れたネジーも空中に放り出され、花火のように弾け飛ぶ。
その爆発を背景にスパイナーはゆっくりと戦場を去っていく。
『戦闘シミュレーションを終了します』
彼の頭上から突如電子音声が流れる。
同時にスパイナーの周囲の風景が、商店街から四方を壁に囲まれた小部屋へと一瞬で変化した。
そう、今の戦闘は研究所内のトレーニングルームで行われていた疑似戦闘だったのである。
「うむ、大分慣れてきたようだな」
壁面にモニターが浮かび上がり、口髭をたくわえた壮年男性の姿が映し出される。研究所の責任者で、スパイナーシステムの開発者でもある空戸博士だ。
「この分なら実戦も問題ないだろう」
「いえ、訓練は訓練です」
スパイナーが変身を解除すると、凛々しい顔をした青年が姿を見せる。彼こそがスパイナーの変身者である玄場(げんば)コウジ。
「いくら訓練で敵を倒しても、実戦で通用するとは限りません」
「自慢じゃないが、わしのシミュレーションシステムは実戦とほぼ変わらない精度だよ。それに、確かに最初の内は実戦で戸惑う事も多いかもしれないが、何も心配することはない。今までの鍛錬で、君はわしの期待以上の成果を挙げてきた。頑強な肉体、戦闘技術、そして何より、悪に立ち向かうという強い意志。いずれも常人を遥かに凌駕している。君にだって、その自負はあると思うが」
無言で頷くコウジ。あの日のことは忘れようにも忘れられない。平凡な大学生だった彼が帰宅したその日、家はダークフォースの襲撃を受けて燃やされ、両親は殺されていた。コウジ本人も戦闘員に攻撃され瀕死の重傷を負ったが、間一髪で博士に保護され、改造手術を受けて一命を取り留めた。その日からはダークフォース打倒の執念だけを胸に過酷な訓練を耐え抜き、博士の開発した肉体強化鎧装「マインドアーマー」をはじめとする数々の装備を使いこなし、スパイナーの力を我が物にしたのだ。ダークフォースを倒したいという思いの強さなら、誰にも負けるつもりはない。
「うむ、いい眼だ。君を見ているとあのメテオリオンを思い出すよ。……彼が生きていれば、君と共に戦えるのをさぞ喜んだろうに」
「はい……」
たった一人でシャインシティを守り抜き、ダークフォースを半壊させた英雄、流星戦士メテオリオン。残念ながらコウジがその存在を知った時には、彼はこの世界から旅立ってしまっていた。だが、その信念は博士、そしてコウジへと確かに受け継がれている。少なくともコウジはそう信じていた。
「ともかく、暫く活動を沈静化させていたダークフォースも、そろそろ動き出すに違いない。それに備えて、今日はもう休みたまえ」
コウジがトレーニングルームから廊下に出ると、快活そうなポニーテールの少女が彼の元へと駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、お疲れさま!」
彼女の名は玄場ユキエ。コウジの実の妹で、博士を除くとスパイナーの正体を知る唯一の存在だった。
「訓練は終わったの?」」
「ああ、今日もバッチリだよ」
「毎日ずっと訓練してるけど、本当に体は大丈夫なの?お兄ちゃんまでいなくなったら、わたし_」
不安そうな表情で口ごもるユキエの肩に、コウジは優しく手を置く。
「心配するなユキエ。お前も、この街も、俺が必ず守ってみせるから」
「……うん!晩ご飯作ってあるから、一緒に食べよ」
「分かった、後で行くよ」
遠ざかるユキエの背中を、彼は優しい眼差しで見つめる。彼女はコウジにとって唯一残された肉親だった。ダークフォースによってユキエの身に危険が及ぶなど、考えたくもない。悪と戦う決意を一層強めながら、コウジは自室へと向かった。
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