未知への遭遇
影は速かった。
僕は地方大会でも150キロの球速のボールを見極めたり、何なら球速150キロ以上のボールを投げていた。調子のいいときは球速160キロ・・・も投げれてたような気もする。
それに加えて、巧みに投げる僕のボールはほとんど当たらなかったが、時々バッターのラッキーパンチで真芯で捉えたボールが打ち返されて自分の顔付近に来るピッチャー返しは、時に200キロ近い速度が出て僕を襲うが、それも集中していればキャッチすることができるくらいの動体視力を持っていると信じていた。
そんな僕ですら、影が動けばなんとか肉眼で把握できるスピード。距離だってあるはずだから、見やすいはずなのに。
それに目掛けてバットでボールを打ち当てようとしている少女たち。
影の大きさはかなり大きい。
翼を生やして、外野を舞う姿はまるで妖精のようだが、大きさは妖精なんてかわいいもんじゃない。甲子園のフェンスは約2・5メートルあるが、それの倍はありそうだ。
彼女達のノック技術は大したもので、わざとらしく立ち止まる影に対して、当たりそうなところに打ち込むが、影はニヤニヤしながらかわしていく。
二人は目線で合図して、影の動きを止めようと左右に打ち込んだり、先読みして打ち込んだりするが、それをかわして影はどんどん彼女たちに近づいてくる。
当たりやすくなっているはずだが、全然当たらない。
(彼女たちが危ない)
あんな熊よりもでかい化け物に襲われたら、殺されてしまう。
僕は一塁側の低いフェンスをよじ登って、フィールドに飛び降りた。
高校球児であった僕らの聖地に舞い降りた。
こんな夜更けに、こんな格好で。
鍛えた足の筋肉は飛び降りた衝撃を吸収する。
しかし、地面に触れた足の裏から衝撃と共に体全体を
それは、罪悪感。
聖地を穢すような気持ち、自分の甲子園を目指して努力した日々やその志を
(でもっ!!目の前にピンチな女の子がいても動けなくなっちゃったら、高校球児として学んできた精神すら否定しちゃうだろ!!)
ふざけながらとはいえ、200キロ以上出せそうな影から二人を助けるには間に合いそうもない。
僕は辺りを見渡すと、打ち損じてあったボールを見つける。
急いで拾い、思いっきり振りかぶる。
「うおおおおおおっ」
火事場の馬鹿力だろうか。
彼女たちの目の前にボールが飛んでいく。
最高球速に近い、いや、過去最高球速のボールが狙ったところにピンポイントにボールが行く。
危機的状況。
非現実的状況。
そんな時は一瞬がすごく長く感じるようだ。そして、現実逃避なのかもしれないが、無駄なことを考えてしまう。
(この球をあの試合で投げたかったな、くそっ。でもこれで・・・)
彼女たちもバットでその影を殴ろうとしている。
影はそれを二人の攻撃をかわす。
しかし、どんなに速く動けても、知覚が速いわけではないようだ。
影は当たるぎりぎりで、風を切って迫ってくる第三の矢である僕の1球に気づいたようだが、遅い。
「ギェエエエエエエエッ」
影は痛がる。
(あれっ、普通のぼーるじゃない・・・のか?)
どうやら、当たったボールは普通のボールと重さや触感が同じだったが、特殊な力を有しているらしい。
影の当たった翼はボールの大きさだけ消失したのではなく、広範囲にはじけとんだ。
少女たちは僕の存在に一瞬驚いた顔をしていたが、すぐにキリっとした顔をしてバットで影を叩こうとする。
「せいっ」
銀髪のポニーテールの少女のバットのスイングを後方にジャンプしながら、なんとか避けた影。
しかし、影は
「はああっ」
その好機を金髪のツインテールの少女は見逃さなかった。
大根切りのようにバットを振り下ろす。
痛快。
「ギイイイイイイアアアッ」
影が真っ二つになる。
(倒した・・・っ)
「危ないっ」
銀髪のポニーテールの少女が、金髪のツインテールの少女に叫ぶ。
よく見ると、影は体を回転させていて、金髪のツインテールの少女の
影はニヤつきながら、魔の手で金髪のツインテールの少女の体を切り裂こうとしていた。
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