第74話 風格

「雷吼狼牙」と「碧龍の翼」は一晩語り明かし、名残惜しむ間もなく翌日「雷吼狼牙」は連邦へと旅立っていった。


『縁があればまた会うことだろう。その時はどれだけ強くなったか手合わせを頼む。』

『今度は帝国で会えると良いな!他の仲間にも紹介してやりたいぜ。』

『皆さんまた会える日を楽しみにしています。

 クリオさん、紹介状ありがとうございました。必ず役立てます。』


出港する船が見えなくなるまで、アルクス達は手をふり続けていた。

ヴォルナー達「雷吼狼牙」はアルクス達が出港したポルト・ピスカーテの町ではなく、当初予定していたポルト・トランキへ向かうとのことだった。


『ポルト・トランキからだと連邦の色んな街へ行きやすいのよ。少し遠回りになるけどテルミヌスまで行けばすぐにアルフグラーティに入れるだろうしね。』


クリオによるとポルト・トランキは連邦と他国の交易の中心である港町で数多くの商会が集まって鎬を削っているとのことであった。

大森林の北を経由すればメディウムの街に、大森林の南を経由すればテルミヌスの街へと繋がっていた。

中央を走る大森林を突き抜けることができれば距離を短縮することができるが、数多くいる魔獣や迷いの罠によりその道を選択する者はいなかった。


『さて、アルクスにも会えたし俺達もそろそろ帝国へ向かうとするか。』

『あ、バルトロ兄さんちょっと待って。実は白狼アルバから帝国に向かう前にアウレアンの島の中央に行く様に言われているんだ。』

『中央って昨日いっぱい竜がいたあの道の先だよね?』

『あぁ、多分そうだろうな。』


アルクスの言葉にアリシアとバルトロは少し苦い表情を浮かべた。

初めて見る多種多様な竜種が闊歩する道とあっては激しい戦いを避けられないであろうことは想像に容易くかった。


『竜か。昔は竜殺しの英雄に憧れたりもしたけど… どんな竜がいたかわかるかな?』

『確か「雷吼狼牙」の人達は亜竜とか飛竜とか言ってたかな。』

『地を這う蛇みたいな感じのやつや、首が長いやつに空に向かって火を吹いてるやつもいたかな。』

『リントヴルムやワイヴァーンやファイアー・ドレイクあたりかな。強さはよくわからないんだけど、見た感じだとどうだったかな。ウィルドよりも強そうだった?』

『そう考えると数の多さに圧倒されたけど、ウィルドよりは圧力は感じなかったかな。』

『そうだね、ウィルドの方が強いと思う。』

『それならバルトロ兄さんがしっかり守ってくれれば、全滅することはないんじゃないかな。』

『そうだな、任せておけ!』


数多くの竜がいたことで驚いたものの、冷静に判断すると自分達で対処が出来そうだと言うことがわかりアリシアとバルトロは再度の挑戦に対しての不安がなくなった。


『やっぱりアルクスがいないとだね。』

『あぁ、俺達だけだと冷静に判断できないからな。』

『よし、じゃあ今日は1日準備をして、明日向かうことにしよう。』


その後、航海で世話になった人達にアルクスとクリオが無事合流出来たことを説明しに向かった。

無事だったことを驚かれ、そしてクラーケンに立ち向かったことに感謝された。


『何かあったらいつでも俺達の船に乗ってくれ!命の恩人様なら喜んで乗せるぜ!』


その後は男女に分かれて食料や道具の買い出しをして回った。



「そうだ、アルクス。この島は魔獣が出ないから魔獣の素材が他よりも高く買い取ってもらえるようだぞ。もし龍珠の中にしまっている素材でいらないものがあれば売っておくと良いかもな。」

「なるほどね、しまっておいても使わないしいらないものは売っておこうか。」


アルクス達は商会を周って不要物の処分をしながら珍しい食材などを買い求めた。




その間、アリシアとクリオは消耗品を買い集めていた。

アリシアはクリオがアルクスと2人だった時の話を細かく聞き出していた。


『さすがはアルクスだね。困った時は頼りになるね。』

『うん、アルクスがいてくれなかったらどうなっていたか…1人じゃ絶対に戻って来れなかったと思う。』

『そうだよね、アルクスがいれば絶対なんとかなるもんね。』

『ねぇ、アリシア。なんで貴方はそこまでアルクスのことを信じているの?』


アリシアはどうしてそんな当然のことを聞くの?という表情を浮かべた。


『だって当然のことだよ。アルクスがいなかったら私も兄さんも今もメルドゥースにいたと思う。

 アルクスは辺境にしかいられなかった私達のことを世界に連れ出してくれたんだよ。

 小さい時のアルクスはウィル兄さんのことばかりであまり私のことを見てくれなかったんだけど、不授になったおかげで一緒にいられるし、ウィル兄さんのこともあまり気にならなくなったみたい。

 それにアルクスと一緒にいると色んなことを経験させてくれるし、どんどん強くなれるんだよ。

 アルクスの妹のルーナには申し訳ない気持ちもあるけど、こればっかりはどうしようもないからね。』

『そ、そうだったんだ。アルクスはアリシアの英雄なんだね。私にとっても…』


アリシアの瞳が怪しい光を湛えるのを感じ、クリオは自分の想いを述べるのは辞めておこうと思ったところ、急に笑顔になり両手を掴まれた。


『クリオもアルクスに外の世界に連れ出してもらったもんね、私と同じだよ。

 でも、クリオのじゃなくてみんなのアルクスだからね。』

 

最後の一言を喋る時のアリシアの眼をクリオは忘れられなかった。




翌日アウレアンの街を出て、前日に転移した場所まで辿り着いた。


『ここが転移した場所?確かにここで龍脈が途切れているね。大森林と同じで周囲の環境を確認しづらくして転移させるのは多分同じ仕組みなのかな。とりあえずみんな逸れないように僕につかまって一緒に境界を越えよう。』


そして転移して山道に入ると、やはり様々な竜種が数多く生息していた。

地を這う竜や飛竜など他の地域では見ることの出来ない竜が存在していた。


『これが竜か。昔、本で見たことのあるのと同じ竜だね。

 でも龍王様達とは全然別の種族みたいだね。感じられる気迫とか、威圧感とかが全然違う。』

『こんなに巨大な生き物がいっぱいいるなんて…』


アルクスが竜を見た感想を述べ、クリオが竜達に圧倒されていると胸元からアーラが飛び出してきた。


『ピー!』


出てきたアーラが急に周囲に響き渡る、雄叫びをあげた。


『なんだ、この威圧感は!』

『立ってられません…』


アーラの雄叫びを聞くとアルクス以外、その威圧感に気圧されて立っていることが出来なかった。

1人無事だったアルクスは周囲を見渡すと点在していた竜達が目の前に迫りつつも、皆アーラに頭を下げて恭しく道をあけた。


『ピィ!』


するとアーラが「さぁ皆行くよ」とばかりに一声鳴いた。

アルクス以外も威圧感から解放されて動くことが出来るようになっていた。


『やっぱりアーラって特別な存在なんだね。』

『王者の風格って言うのかな。』

『大きな竜達に囲まれて歩くのって緊張する…』

『さすがは龍の御子か。』


竜が脅威でなくなったため、難なく山道を踏破して頂上付近にたどり着くと、頂上には古ぼけた遺跡とその手前には小さな集落があった。


『なんか遺跡と集落があるけど、遺跡はぼやけてよく見えないな。』

『遺跡、そんなのどこにあるの?』

『え、あそこにある建造物見えない?』

『俺には集落しか見えないな。なんだか靄の様なものは見えるが…』

『私はなんだかもやっとした建物が見えるような…』


アルクスが見つけた遺跡は他の面々にはちゃんと見えていなかった。

そして、集落があるとはいえこんなところに人が住んでいると言う何かおかしな雰囲気をアルクスは感じ取った。


『こんなところに何用ですかな?』


集落の前で立ち止まっていると、中から1人の老人が現れた。

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