第46話 無風

『何者だ!』

不授の楽園へ到着し、入り口の門から中へ入ろうとするも門番の兵士達に止められてしまった。


『不授の楽園を見たくてやってきたのですけど。』

『見たところお前達探索者だろ?この街は基本的に不授以外の人間が入らないようにしているんだ。皆辛い思いをしてきたからな。ラピス無しで探索者をするような酔狂な奴はほとんどいないから、この街には探索者協会もないぞ。わかったら、帰るといい。』

『いや、僕達3人とも不授なんです。』

『はっ、笑えない冗談だな。そんなに言うなら確かめてやろう。おい、あれ持ってこい。』


そういうと1人の兵士が詰所らしき場所に戻り、何かを持ってきた。

『これに手をかざしてください。ラピスがなければ色がついたり光ったりしないはずです。』

そう言うと魔導珠に似ているがとても小さな球体を持ってきた。


バルトロ兄さん、アリシア、僕の順番で手をかざした。

2人の時は何も反応がなかったが、僕の時は明るく光ったが、無色だった。


『確かに3人とも不授のようだな。すまなかった。特にお前さん、ラピスがないのに魔力を練る訓練をしたんだな。せっかく頑張ったのに辛かったな。嫌な思いをさせてすまない。

 だが、この街は不授にとって楽園みたいなもんだ、中に入って見て回ってくれ。

 宿はこの道をまっすぐ行ったところにある。

 ずっと滞在してくれても構わないからな?』


そうして先程までとは打って変わった態度で迎え入れてくれた。

魔力量とラピスの有無によって光る魔道具か。ちょっと欲しいかも。


門をくぐり中に入ると今までの街以上に活気に満ち溢れていた。

すれ違う人達は皆微笑みを浮かべている。


「皆笑顔で何だか楽しそうじゃない。」

「そうか?逆に異様な気もするけどな。」

「とりあえず宿に泊まってしばらく過ごしてみようよ。数日いればわかることもあるかもしれないし。」


門番の兵士達に勧められた宿をとり、しばらく滞在することにした。

滞在中は街中を見て回る以外に街の周囲に魔獣が潜んでいないかを調査することにした。


日中街中を見て回っていても皆笑顔なこと以外、特におかしなところはなかった。


「何だか普通の街だね。」

「あぁ、ここに来る道中で街の周囲に魔獣が多い感じでもなかったしな。」

アリシアとバルトロ兄さんは拍子抜けした感じで何だかやる気を失っていた。


「そういえばこの街、龍脈が通っているよ。」

「お、じゃあ龍気を使った訓練もできるな。」

「訓練しながら狩りができるならちょうど良いわね!」


しかしあの川から出てきた死んだような魔獣は何だったんだろうか。

川の近くにいればまた出て来るだろうか。



その後、何度か獣や魔獣を討伐しに出かけると門番の兵士達から何をしているのかを聞かれた。

獣や魔獣を狩っている旨を伝えると、もしよければ肉や素材などを売って欲しいとのことだった。

街の周囲にはあまり魔獣はいなく数は少なかったが、快諾して売ることにした。


川の近くに向かうこともあったが、あの魔獣が現れることはなかった。

日中ではなく夜間にしか現れないのかもしれない。


久しぶりに龍脈の上にいるということで、精霊のフルーとナトゥを召喚する訓練もした。

「ヒサシブリ」「タイクツシテタ」


ただ召喚するだけで魔力をごっそりと持っていかれる感覚には慣れてきたが、もう少し余裕を持てるようにしたい。

普通は必要な時に必要なだけ使うらしいが彼らは先払いで持っていく主義らしい。

「マリョクオイシイ」「ダイスキ」


魔力に味なんてあるのだろうか。

龍脈の上を通っている時はたまに召喚していたのだが、龍脈を逸れてからは召喚していなかったので魔力を与えていなかったから少し拗ねているのかもしれない。


フルーとナトゥを呼び出した後は2柱との連携の訓練をした。

精霊は魔術を使わなくても魔術と同じことができるらしい。

高圧の水流で岩を切り裂いたり、地割れや落とし穴を作ったりと魔術であればなかなか難易度が高そうなことをあっさりと実現していた。


「精霊ってすごいな。俺も契約できないだろうか?」

「私達は魔力がないからね。それでも契約してくれる精霊っているのかな?」


バルトロ兄さんとアリシアは精霊の力を見て、自分達も契約してみたいと思ったらしい。

契約してくれる精霊がいるのかを2柱に聞いてみた。

「トウキガスキナヤツモイル」「ソウイウノハハンセイレイ」


「半精霊?」

聞いたことがないが半分精霊で半分何かが混ざっているのだろうか。


「カラダホシクテユウゴウシタ」「イツカアエルカモ」

何と融合したのかは気になるところだが、そういう存在がいるということが励みになったのかバルトロ兄さんとアリシアはいつか契約するんだと意気込んでいた。


「そういえば卵はどうなっているかな。」

久しぶりに龍珠の中から真龍の卵を取り出してみた。

少し動いているような気もする。


「触らせて!」

アリシアも興味があるのか真龍の卵を抱いてみてた。

「あ、動いたんじゃない?」


以前は全く動いていなかったから、成長したのだろうか。


「マダウマレナイヨ」「モットリュウキツカワナイト」

全然まだらしく、ダメ出しをされてしまった。

これからは常に龍脈の上を歩くように気をつけないと。



訓練が一息ついて街へ戻ると門番に売った肉や素材が街中で活用されているのか、いろんな人から「ありがとう」と感謝された。


おそらくこの街の住民は皆顔見知りなんだろう。

外から来た僕達はもしかしたら住民に監視されていたのかもしれない。

考え過ぎかもしれないけど。


ふと気になって街中にハルモニアの教会を探してみたがやはりなかった。

他の街には小さいながらも教会があったが、この街は皆不授だから調和神を信仰していないのだろうか。


街中を見て回っていると1つ大きな建物があった。

目の前で眺めていると警備兵らしき人が話しかけてきた。

「ここは領主館だ。一般人は立ち入り禁止だからすまないが中には入れることはできないんだ。」


すまなそうにしている警備兵というのが印象に残った。

大体こういう人達は自分の権力ではないのに高圧的なことがよくあるから。




その夜、3人で夕食をとりながら何か情報はないかと話し合った。

「特に怪しいところは何も見つからないね。」

「そういえば今日、1つだけ怪しい話を聞いたぞ。

 突然人がいなくなることがあるらしい。だが誰かがいなくなったことに誰も触れないことがこの街で幸せにコツらしい。」

「すごい怪しいね。バルトロ兄さん誰に聞いたの?」

「屋台の店員だったかな。串焼きが美味いんだ。」

「いなくなった人がどこに行くかは知ってた?」

「いや、知らないらしい。だが、もしいなくなった人が集まっていてもわからない場所が一箇所だけあるとは言ってたな。」

「領主館か。」

「あぁ、はっきりとは言ってなかったけどな。次は自分じゃないかという不安もあるらしく、外からやってきて実力のある俺達になんとかしてもらおうと思っている住民は多いらしい。」

「住民の人達も何が起きているのかはわからないのか。

 領主館を調べるとは言っても正面からは無理だから夜に忍び込むしかないか…」

「私がやるよ!」

アリシアが急に声を上げた。


「急にどうしたんだ?」

「いつもアルクスと兄さんに頼ってばかりだし、私も良いところを見せないとね。

 それに最近気配を隠すのも上手になってきたし。」


僕達の中で一番気配を探るのが得意なのはアリシアだが、最近その応用で逆にどうしたら気配を消して近づくことができるかということを試行錯誤していた。


「確かに俺もアルクスもそういうのは得意じゃないし、良いんじゃないか?

 この街なら龍気も使えるし、そうそう危険なことはないだろう。」

「バルトロ兄さんが良いっていうなら。確かに最近は会話もわかるし読み書きもできるようになってきたから大丈夫かな。危ないと思ったらすぐに戻って来るんだよ?」

「もちろん、善は急げで今晩行ってくるね。実は準備はもうしてあるんだ。」


アリシアはそういうと鞄を取り出して、色々な道具が入っているのを見せてくれた。


「うーん、何に使うのかわからない道具も多いけど。そうだ念のためにこれも持っていって、少しだけ光りを出す魔道具。あんまり明るいと誰かに気づかれるかもしれないけど、これだと薄らと光から近くにいなければ気づかれることはないはず。」

「ありがとう、アルクス!じゃあ行ってくるね。」


そうしてアリシアは夜の闇に消えていった。


その後、バルトロ兄さんと相談してフルーとナトゥを召喚した。

「アリシアが偵察に行ったんだけど、何かあってもすぐ連絡を取ることができないから念のため彼女の近くにいてくれるかな?姿は現さなくて良いし、何もなかったら見てるだけでいいよ。でももし身の危険があったら全力で助けてくれるかな?僕達も領主館の近くに行くようにするから。」

「リョウカイシタ」「マカセトケ」


2柱の精霊達も急いで領主館へと向かった。


「俺達はどうする?」

「領主館の近くで隠れられそうな手頃な場所は見つけてあるからそこに行こうかと。」

「さすがアルクス、準備が良いな。」


今晩で片が付くと良いのだけど。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る