第38話 騎士

「おぉ、お主達戻ってきたか。

 どれどれ、ふむ最低限は龍脈の力を使える様になったみたいだな。」


「はい、結構長いこといた気がするのですが、どれくらいの時間が経過したのでしょうか?」

体感では1ヶ月以上はいた気がした。


「大体1日くらいかの。我が龍術で作り出した空間の中は時間の進みが全く異なるからな。

 我ら龍族からしたら大した違いはないが、お主ら人間からしたらかなり違うであろう。

 あぁ、試練で作り出した龍珠の中の空間だが、お主の力量だとまだ時間の進みを操作することはできない。空間の中では時間は経過しないので食料などの保存には適しているであろう。

 

 さて、これで世界を旅するための下地はできたな。

 試練の間に旅立つ前に話したように、世界を見てまわり他の龍王に会ってきてもらいたい。

 目的は龍王に会い、お主らが見たもの感じたものを話し、そして与えられる試練をくぐり抜け、龍王から力を授かり次の龍王の元へと旅立つ。

 それを繰り返してまたここに戻ってくるが良い。


 あとはあれを渡しておかねばな。

 プロウィス、あれを。」

「こちらに。」


 そうしてどこからかプロウィスさんは何かの卵らしきものを持ってきた。


「これは真龍の卵と言い、龍族の卵である。

 この真龍の卵は龍脈の力を使う度に成長していき、いずれ孵化する。

 我ら龍族が育てられると良いのだが、真龍の卵の孵化には龍王やその一族ではない別の種族が龍脈の力を注ぐ必要があるのだ。

 龍が世界と繋がりを持つためだと抜かしておったな。

 まぁ、そんな理由があるためにここ数百年、他の龍王のことはよく知らないが新しい龍族はあまり生まれていないのだ。

 ちなみにとても頑丈で神々でも壊すのが難しいくらいなので安心して欲しい。

 どれ、アルクスの龍珠の中にでも入れておくのが良いだろう。」


 龍王様はそう言うと、こちらの意見も聞かずにぐいと僕の龍珠の中に卵を入れてしまった。


「あの、龍珠の中の空間にしまうのって誰でもできるのでしょうか?」

「龍王なら造作もないことだが、他の者には難しいかのぉ。

 孵化したら勝手に中から出てくるのでその時を待っておれば良い。

 鍛錬を怠らないことだな。」


 カラカラと笑い声が聞こえてきた後、龍王様の表情が急に引き締まった。

 そして、プロウィスさんが横から錫杖らしき物を手渡した。

 

「アルクス、バルトロマエウス、アリシア。お主ら3名を龍王の騎士である、龍騎士として任命する。」

 龍王様がそう宣言し、呪文を唱えると龍装鎧の腕輪に紋章が刻まれた。


「それは見習い龍騎士の紋章である。龍騎士という名の通り、旅を通して成長すればいずれ龍に騎乗できる様になる。そのためには自らを鍛え、龍と絆を育む必要があるがその第一歩としてまずは他の龍王に会うことだ。

未来の龍王である、まだ卵ではある龍の御子に仕えて旅をするものだと思って欲しい。」


 龍騎士と言う名前は格好良いが聞いたことが無い。

 王国に騎士はたくさんいたし、国に仕えていたが、龍に仕える騎士と言うことか。

 バルトロ兄さんとアリシアは刻まれた紋章に喜んでいる様子だった。

 

「アルクス、召喚術を覚えたのであれば契約した精霊を呼び出すが良い。」


 急に言われて戸惑ったが、ポルトゥルムさんから教わった魔法陣を描き、龍脈の力を込めて呪文を唱えた。

「出でよ、水と土の精霊よ。」

 

 無事フルーとナトゥを呼び出すことができた。

 2柱の精霊が顕れ、契約の時程ではないが魔力がごっそり持っていかれた。

 大喰らいの精霊なのかもしれない。

 とはいえ龍の試練の間を出てから初めての召喚だったので失敗しなくて良かった。


「ふむ、水と土の精霊か。お主らが契約したアルクスとその仲間は龍騎士となった。

 故にお主らにも我が力を授けておこう。」

 

 龍王様がそう言うと、フルーとナトゥが一瞬光り輝いた。


「これで良いだろう。久しぶりに契約者を得たことを精霊王には伝えるでないぞ。」

「モチロン」「アリガタキ」

 龍王様とフルーとナトゥの間で契約者である僕を差し置いて何かの合意が取られていた。


「あの龍王様、精霊王とは一体。そしてフルーとナトゥはどうなったのでしょうか。」

「精霊王は精霊達の王だな。それ以上のことはまだ知る必要はないだろう。

 この2柱の精霊達にはお主を通じて龍脈から力を引き出せるようにしておいた。

 召喚しただけで魔力の大半を吸い取るような大喰らいなみたいだからな。」

 確かに魔力はあまり使わないと言っても召喚する度にこれだけ疲労するのも困る。


「お主らはかえって良いぞ。」

「バイバイ」「マタヨンデネ」

 フルーとナトゥは魔力をごっそり持っていった割に龍王様から力を授かっただけで帰っていってしまった。


「ただの大飯ぐらいじゃないか…」


「まぁそう言うな。精霊達と契約しておけば追々役に立つこともあるだろう。


 さて、お主らは確かまずは連邦に行くと言っていたな。

 では次は連邦にいる龍王である蒼翠龍に会うことを目指すが良い。

 蒼翠龍は深い森の奥の渓谷にいる。

 探すことも旅の醍醐味であろうから深くは語らない、というよりも細かい場所は我は知らぬ。

 お主らが龍の試練の間にいる間に蒼翠龍に近いうちに若い人間の騎士が行くと伝えておいたので、行けばなんとかなるであろう。」


 王国から連邦まで相当遠く離れているがどうやって伝えたのだろうか…


「龍王様同士は離れていても会話が可能なのでしょうか?」

「会話もできないことはないが、基本は一方的に伝えるだけだな。龍脈が繋がっていれば、造作もないことよ。」


「僕も龍王様に龍脈を通して、何かを伝えることもできるのでしょうか?」

「空間術の転移ができるのであれば、可能だ。

だが、まだお主では大陸間の龍脈は辿ることはできないだろう。

慣れていない最初のうちは明確に内容を伝えられるとは思わないことだ。

それとお主のいる場所が一定の場所ではないからこちらから伝えるのは難しいだろう。他の龍王のところにいる時であればできるがな。」


 なるほど。

 龍王様に連絡は出来ても返事はもらえないのか。

 旅先で見たことや聞いたことをルーナに手紙を書くし、その際に龍王様にも伝えてみようか。


「さて、お主らは連邦へはどうやっていくつもりだったので?」

「この山を越えた先にある港町から船に乗って向かおうと思っていました。」

「それであればそこの道を行くと良い。連邦のある大陸へ出られるであろう。

 細かい話はプロウィスから聞くと良い。」


 アリシアが地図を広げるとプロウィスさんが連邦のある大陸の南にあるこの辺りに出られるはずだということを教えてくれた。


「ありがとうございます。最後にお願いがあるのですが、龍王様とお会いしたことを家族など他の人に話ても大丈夫でしょうか?」

「なんだ、そんなことか。おそらく龍と会ったと言って信じる者など人間の中にはほとんどいないだろう。自由にするが良い。では頼んだぞ。気が向いたら連絡を寄越すが良い。」


そう言うと龍王様は寝てしまった。

3人で深く礼をして、プロウィスさんの案内で洞窟の中を進んでいった。

餞別として旅で役に立ちそうな物をもらい、龍珠の中へと収納した。


「アルクス、その龍珠の中の空間ってどれくらいの大きさなの?

 なんだか色々入っているみたいだけど。」

「今は大体宿の一部屋分くらいかな。上達すればもっと大きくできるみたいだけど。」

「それだけあれば、旅の荷物としては十分だな。食料にも余裕が持てそうだ。」

 バルトロ兄さんとアリシアは僕が覚えた龍術に興味があるらしかった。


 話をしながら洞窟を進んでいると目の前が蜃気楼の様に揺らいでいる場所があった。

 海の下を進んでいくのかと思ったが、どうやら違うようだ。


「こちらが境界となります。ここを越えますとすぐに連邦になります。

 あちら側からは境界は認識出来ないため、こちらには戻れない一方通行となりますのでご承知おきください。

 皆様のおかげでご主人様は久しぶりに楽しそうでした。

 ありがとうございます。

 そして旅の無事をお祈りしております。」


「こちらこそありがとうございました。龍王様とみなさんのおかげで今まで想像もできない体験ができました。龍王様に朗報を伝えられる様に頑張ります!」


 そしてプロウィスさんは深々とお辞儀をして、こちらを見送ってくれた。

 境界を越えると空間術の転移を使ったかのような感覚に襲われ、今までいた場所とは違う洞窟の出口付近にいた。


「不思議な体験だったな。」

 バルトロ兄さんがぼそっと呟いた。


「でも、私達おかげさまで強くなったんじゃない?」

 アリシアは龍脈の力を得たことで自信に溢れている様子だった。


「旅に出て本当に良かったと思う。でも色々な力を得たと言っても貰い物の様なものだからしっかりと使いこなして自分のものにしないとね。ここはもう王国じゃあないみたいだし、慢心は死に繋がるかもしれないからね。」


 流石にすぐに命の危険があるとは思わないけど、気をつけるに越したことはない。



 洞窟を出るとそこは知らない土地であった。

 景色も風に匂いも今まで感じたことのない世界が広がっていた。

 辺境へ旅立った時も今まで自分の置かれていた環境とは全く違う環境に飛び込んだとは思っていたけれど、違う大陸違う国となると比べようもない。

 これからどんな冒険が待っているのだろうか。

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