第35話 神殿
「バルトロ兄さん、一体どこから!?」
「あぁ、ちょっと道がわからなかったので、上に行けば良いだろうと思って岩壁を登っていたんだが、戦闘音が聞こえたからあそこから飛び降りたんだ。」
少し上の方に足場らしきものが見えるものの、僕なら飛び降りたら怪我するな…
「龍脈の力でさらに頑丈になったんだね…」
「あぁ、この力はすごいな。よっぽどの力じゃないと俺の守りは崩せないぜ!」
そう話している間にもサーペントの怒涛の攻撃はバルトロ兄さんの盾で防がれていた。
「これならいける!」
僕が攻め、バルトロ兄さんが守るという役割分担ができ、余裕が生まれた。
しかし相手も今までの獣達と違い、非常に硬い鱗でこちらの生半可な一撃では通らずに防がれてしまっていた。
「ただ我武者羅に攻撃しても埒が明かないし、なんとか隙を作りたいな…」
「アリシアはどうしたんだ?」
「僕がこっちに来た時はまだ基礎の段階で苦戦していたよ。」
「じゃあ期待はできないか。」
闘気を伸ばしてみるも、やはり弾かれてしまった。
龍脈の力ではまだ使い方に慣れていないためか、上手く制御ができない。
試行錯誤を続けていたところ、バルトロ兄さんにも少し疲れが見えてきた。
「このままだとまずいな、一度撤退するか?」
「逃がしてくれるかな…」
このままだとジリ貧だと思っていたところ、どこからか飛んできた短剣がサーペントの口の中に刺さり爆発した。
「アリシアか!?」
「お待たせー!なんとかやってこれたよ。もう一撃!」
力を込めた強烈な矢がサーペントの目に刺さる。
「くっ、小癪な。ちっぽけな人間が調子に乗るんじゃない!」
サーペントは今までの精密で素早い連続攻撃から、怒り狂った苛烈な攻撃に切り替わった。
「威力は強いが、こっちの方が楽だな!」
「じゃあ僕が力を溜めて、一撃を叩き込むから、アリシアは口とか目とか硬くないところをお願いできるかな?」
「任せて!行くよ!」
アリシアは短剣を取り出し、サーペントの口の中に投げ込んだ。
先程と同様に爆発し、サーペントが戸惑った瞬間に僕はサーペントよりも高く跳躍し、渾身の一撃を叩き込んだ。
ざっくりとした切れ目が入り、大量の血が飛び出した。
「アルクス、気をつけろ!」
バルトロ兄さんの言葉に従い、血が届かないところまで離れた。
どうやら血液も強い酸性だったらしく、周囲が少し溶けていた。
「危ないところだった。バルトロ兄さんありがとう!」
「なに、少し嫌な予感がしただけだ。」
「その慧眼見事なり!」
「「うわっ!!」」
倒したと思ったサーペントの亡骸の中から蛇が現れた。
「ただの脱皮だ。お主達の力は理解した。この山を登る力があると認めよう。
この空間もあと少しだ。頑張るが良い。これは餞別だ。」
蛇は鱗と抜け殻の一部をくれた。
「一部の地域では幸運の証として使われているらしい。
持っていれば何かに使えることもあるかもな。
ではさらばだ!」
そしてどこかへと去っていった。
「はぁ、疲れた。とりあえずこれで山を登るのを認められたってことかな。
アリシアも来たことだし、山を登ろうか。」
3人で山を登り始めたが、久しぶりのことのように感じられた。
「そういえば2人とも途中からやってきたけど、今までどうしてたんだい?」
2人とはここに来たのに時間差があったから会えたのは幸運だったと言っても良い。
「俺は、龍脈の力を使うことができるようになるまでは早かった。
だからすぐにここに来たんだが、如何せん守りに偏り過ぎていてなかなか敵を倒せなくてな。
隙があれば一撃お見舞いすることができたんだが、なかなかそうもいかなくてな。
だが、弱くてもよければ寝ながら力を使うこともできたからのんびり安全重視で、少し迷ったりもしたがやってこれた。」
「確かに上からバルトロ兄さんが降ってきた時は驚いたよ。」
「私は龍脈の力のことがわかるまでに時間がかかっていたのはアルクスも知ってると思うけど、
わかったらすぐに使いこなすことができたわ。
プラエルさんも驚いてた。
それで早くアルクスに会いたいと思って闘気の応用でこの力を使えないかなって思って色々試していたらすぐに使えるようになったから急いでやってきたの。
ここって闘気を込めても全然意味がないでしょ?
途中で狩とか採取とか面倒だなと思って力を込めて短剣を投げてたら、なんか爆発しちゃったの。
それで面白いと思って少し練習して、爆発するのと突き抜けるのと2種類の力の込め方ができるようになって、また急いで走ってきたらちょうどアルクスと兄さんが戦ってたのよ。」
「あぁ、良いタイミングだった。どうしようもなくて困っていたんだよ。
アリシアが来てくれて助かった。」
感謝の意を伝えたらアリシアは少し照れ臭そうにしていた。
アリシアは話ながらも飛んでいる鳥に矢を射て、射ち落としていた。
「元から器用だったが、磨きがかかったな。」
バルトロ兄さんも感心していた。
道中岩でできたとかげのような生き物が突進してくることが多くかったが、意に介さずに盾で受けて、ひっくり返していた。
どうやら転ぶと起きれないらしく、ひっくり返った岩とかげが数多く転がっていた。
2人とも龍脈の力を使って自分の闘い方に磨きをかけていた。
僕は龍珠を授かったものの、いまいちこれだというような技を使えるようになったわけでもなく、少し焦りを覚えた。
「お、何か建物が見えてきたぞ。」
山の頂上近くに来るとそこには荘厳な神殿のような建物が聳え立っていた。
「王都の中心部にある教会よりも大きいかな。派手さはないけど、威厳があるね。」
神殿に近づいていくと、空から巨大な飛行する生き物が降りてきた。
「気をつけて、ドラゴンだ!ブレスを吐くかもしれない。」
ドラゴンは息を吸い込み、風を切り裂くような咆哮を上げた。
バルトロ兄さんが龍脈の力で障壁を展開するも、すり抜けて衝撃が伝わってくる。
「ぐ…、なんだこの攻撃は…」
「俺の盾が効かないだと…」
「うぅ…」
意識が飛びそうになる寸前に急に咆哮は止んだ。
そしてドラゴンは何事もなかったかのように話始めた。
「ようこそ、龍の神殿へ。私はここの守護者兼案内人のポルトゥルム。
私の咆哮に耐えるのであれば、資格は十分でしょう。
どうぞこちらへ。」
ポルトゥルムさんは小さくなると神殿の中へと案内してくれた。
「まずは神殿への到達おめでとうございます。
珍しい客人にとても興奮しております。
ここではまずはアルクス様の中にある龍珠の説明と使い方の体得。
そして、その間お二方にはより龍脈の力を使いこなしていただきたいと思います。
まずは龍珠とは何かをご説明しましょう。
龍珠とは龍の眷属の証でございます。
龍王様達に認められた、龍の仲間という照明となります。
龍珠は龍脈を司るものに連なる証のため、こちらをお持ちですと他の龍王様にお会いすることも可能になります。
また副次的な効果になりますが、龍脈を視認できるようになります。
アルクス様は既に龍脈の力を視認されているかと思いますが、実際に走っている龍脈をご覧になると一目瞭然かと思います。
また、既にお気づきかと思いますが、龍珠には龍脈の力を溜め込む性質がございます。
そちらのお二方は龍脈が無い場所では龍脈の力が使えませんが、アルクス様は溜め込んだ分だけ力を使うことができます。
また、仲間の方々に分け与えることもできますので、龍脈の近くでは常に溜め込む習慣をつけていただければと思います。
次にアルクス様は以前ラピスをお持ちだったということで基礎魔術はお使いになられるかと思いますが、龍珠をお持ちの方は龍術を扱うことができます。
龍脈の力の消費が大きいため、使い所が難しいですが魔術ではできないようなことができるようになります。
詳細は追ってご説明いたします。
そして、龍珠は龍脈の力を使えば使う程、成長していきます。
ここはラピスと似たような性質になります。
龍珠を手にした方は龍王様の直属の配下になることを目指す方が多いですが、手にした力で何を為そうとするかは良くお考えいただくと良いでしょう。
ではこの後はアルクス様は龍珠の扱い方の訓練、
残りのお二方は龍脈の力の使い方の訓練とさせていただきます。
では。」
ポルトゥルムさんは一方的にまくし立てたと思ったら、急に目の前の部屋が切り替わった。
バルトロ兄さんとアリシアがいないため、僕だけ別の場所に飛ばされたのかもしれない…
疑問などが洪水のように思い浮かぶも、まずは現実に対処しなくてはと身構える。
目の前にポルトゥルムさんがどこからともなく現れた。
「さて、準備ができましたのでアルクス様には龍術の基本を体得していただきます。
魔術が使えたのであればそんなに難しいことではないはずですよ。」
龍術を使えるようになるまで帰してくれない雰囲気のため、最速で体得して2人に合流しなくてはと気合を入れた。
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