第29話 再会

翌日、リディとヘレナからの手紙に書いてあった場所、王立学園の訓練場へと向かった。

本当は1人で向かう予定だったのだけど、バルトロ兄さんとアリシア、さらにルーナと兄様までがついてくることになった。

訓練場で会うということは、きっとどれだけ強くなったのかを見せてくれるんだと思う。


訓練場に着くとそこには5人の人影が見えた。

「よぉ、アルクス。久しぶりだな。元気にしてたか?」

「アルクス君、来てくれてありがとう。嬉しいわ。」

僕がついたのに気付いたリディとヘレナが声をかけてきた。


「あぁ、久しぶり。僕はこの通り元気にやっていたよ。クレディスとクラウディアとヘレナも久しぶり。そうそう、少し早いけどみんな卒業おめでとう!」


「ありがとう。アルクス君はこの2年の間、どこで何をしていたの?」

「僕は辺境の叔父さんのところで商会の仕事をしたり、孤児院の子ども達に勉強を教えたりって感じで学園にいた頃とはすっかり違う生活をしていたよ。みんなはあの後順調だった?」

この2年間、振り返って見ると幅広い経験ができた気がする。

学園で学ぶのとは違う、生きていくための経験を。


「アルクス君らしいな。私達はあの後はしばらくは魔術の訓練に集中したの。

まずは皆自分が得意な属性の特性を理解することから始めて、自分の得意属性のことをちゃんと理解できたら次に得意な系統を見極めたの。

遠くに魔術を飛ばすのが得意な「射撃」、武器とか防具とか物に魔術を纏わせるのが得意な「付与」、特定の場所に魔術を置いておくことができる「設置」の3種類が基本的な系統で、私とテレサが射撃、リディが付与、クレディスとクラウディアが設置が得意な系統だったわ。

自分が得意な系統がわかったらあとはどれだけ魔術を使いこなせるかを磨いたわ。

昔アルクス君が開いてくれた勉強会をみんなで続けて練習して、色々調べて、また使ってみて、今までの学園生の中でもダントツだってムスク教官に言われたわ。」

今日のヘレナはいつも以上に饒舌に感じられた。

僕は良く教える側に立つけど、友人に教わるのは珍しいかもしれないな。


「演習では結構遠出して魔獣を倒して回ったんだ。それこそ以前みんなで倒した魔獣のようなやつもいたんだぜ。そこを俺がぶった斬ってやったんだ!」

「もぉ、あれはクラウディアの指示とテレサの支援が良かったからでしょ。」

「あの時は危なかったです…」

「そうね、クレディスが守っていなかったらリディが真っ二つだったかもね。」

「アルクス君に教わった立ち回りをちゃんとやってただけだよ。」

5人は協力して成長してきたんだなってことを実感した。

そこに僕がいなかったことはわかっていたけど少し寂しく感じる。


「第三学年は卒業前に最後に最強を決める勝ち抜き戦をやるんだけど、リディとクレディスが決勝で戦うことになったのよ。」

「あの戦いは凄かったわね。」

「攻めと守りの戦いって感じでした…」

「俺が徹底的に攻めて攻めて攻め込んで、そこにクレディスが土壁を設置したり、盾で上手くいなしたりと守り切っていたんだけど、最後に土壁を設置しようとしたところで魔力が尽きたみたいで、俺の一撃がなんとか届いたって感じだったな。」

「このまま行けば耐え切れると思ったんだけどね、魔力が尽きるとは思ってもいなかったよ。」

魔術を如何に活用するかの戦いは面白そうだな。

訓練場にいるし、これから見せてくれるのかな。


「ふむ、彼は盾を使った戦いが得意なのか。後で話を聞いてみるかな。」

バルトロ兄さんがクレディスに興味を持ったらしい。

後で紹介してみるか。


「そういえば、みんなは卒業後の進路は決まったのかな?」

「あぁ、俺は騎士団に入るぜ!最後の勝ち抜き戦で優勝したこともあって、期待されてるんだ!」

「そうだね、リディウス君は騎士団内でもこれから期待の新人が入ってくるぞって噂されているからね。騎士団からも勝ち抜き戦を見に行った者も多くて、皆刺激を受けたと言ってたよ。」

兄様の言葉にリディは照れ臭そうにしていた。


「私は魔術協会に入ることにしたわ。もっと魔術を極めた方が、色んな人の役に立てるかなって思ったし、お姉ちゃんにも薦められたのも大きいかな。」

ヘレナは以前王国騎士団に入って兄様を支えると言っていたが、魔術協会に変えたらしい。


「私も魔術協会に入ることにしました…。ヘレナさんと一緒です…」

テレサは黙々と作業をしつつ、感覚を研ぎ澄ます様な研究職とか向いているかもしれないな。


「私達は地元の伯爵領に戻って、伯爵様の下で働くよ。学園で学んだことをしっかり領地に還元して欲しいって言われてるわ。」

「少し寂しいけど、恩返しのために頑張るんだ。」

クラウディアとクレディスは伯爵領の出身だったのか。

いつか立ち寄っても良いかもしれないな。


「そうか、みんなちゃんと進路を決めたんだね。僕はここにいるバルトロ兄さんとアリシアと探索者として世界を見て回る旅に出ることにしたよ。王都には自分の居場所はなかったけど、世界のどこかにあるかもしれないし、自分で作らないといけないかもしれない。まだどうなるかわからないけど、世界中を見て回ってまずは見聞を広めようと思っている。」


「それはいいわね、王国内だけでも色んな違いはあるし、伯爵領にも寄ってね?」

「あぁ、歓迎するよ。」

「私もいつか協会の仕事で色んなところに調査に行きたいです…」

クラウディアとクレディスとテレサは納得した様な表情をしていた。


「そうか。アルクス、お前もやることを見つけたんだな。でも不授になったお前が旅なんかして大丈夫なのか?応用魔術があっても手強い魔獣なんて山程いるんだぞ?」

「そうよ、命の危険もあるかもしれないわ…」

リディとヘレナの記憶では2年前の僕の強さしか知らないからそう思うのも無理はない。


「これでも僕だって強くなったんだよ?バルトロ兄さんとアリシアも元から不授だけど、2人共僕と一緒に探索者をやっているんだから。」

バルトロ兄さんとアリシアも頷いていた。


「そこまで言うなら、俺達を納得させてくれないか?」

「そうね、アルクス君が旅の途中で野垂れ死ぬことがあったら、私後悔してもしきれないし。」

「つまりは力を見せてみろってことかな?」

訓練場に来た以上、そうなるんじゃないかと思っていたが本当にそうなるとは…


「それはいいわね。アルクス君が強くなったって言うならどれくらい強くなったのか見てみたいわ。」

「あぁ、僕達も結構強くなったんだよ。」

「何度も死ぬかと思いました…」

クラウディアとクレディスは乗り気になっていた。


「あぁ、模擬戦をするのがわかりやすくて良いな!」

「そうね、でもどういう組み合わせでやろうか?」

リディとヘレナの表情が少しワクワクして見える。

そういう自分も胸の高鳴りを抑えられない。


「そうだね、リディ達はいつも5人でパーティを組んでるんだよね?それならそちらが5人でこちらが3人でいいよ。流石に兄様とルーナに手伝ってもらうわけにはいかないしね。」

「おいおい、それはちょっと俺達をなめてないか?」

「とりあえずやってみればわかると思うよ。バルトロ兄さんとアリシアもいいかな?」


「もちろんだ。対人戦はやったことがないから楽しみだな。」

「そうね、いつもと勝手が違うけどやってみないとわからないよね。」

2人は既に戦う気満々だった。


「リディウス君達は魔術も使うよね?それじゃあちょっと結界用の魔道具を持ってくるから待っててくれないかな。確か備品であったはずだよ。」

兄様はそう言って模擬戦の準備のための魔道具を取りに行ってくれた。


「じゃあ僕達も準備をしようか。」

そうして僕達は別れて作戦会議をすることにした。


「相手の情報を僕の知っている限りで共有すると

 リディは火属性の付与魔術を使って、接近戦担当。

 ヘレナは水属性の射撃魔術を使った、遠距離担当。

 クレディスは地属性の設置魔術を使った、盾担当。

 クラウディアは風属性で得意魔術はわからないけど、以前は撹乱が得意だったかな。

 テレサは属性も得意魔術もわからない、感覚が敏感だから不意打ちとかは避けられそうだね。」

「得意魔術ってみんな違って色々あるのね。」

「あぁ、俺達が闘気を飛ばしたり伸ばしたり広げたりする違いみたいなもんだろう。」

2人は魔術は使えないものの、どんな戦い方をしてくるかは想像できているらしい。


「で、実際どう戦うかだけどバルトロ兄さんはいつも通り守りに集中して欲しい。

 基本的にリディとヘレナの攻撃を受けつつ、残りの3人がどうくるか次第だけど、盾を広げてくれればなんとかなるはず。

 最初のうちはあまり広げないで、後で広げた方が隙をつけるかも?

 アリシアは後方で動きながら、できれば死角から最初は弓で攻撃して。

 投擲系の武器は切り札として取っておく形で。

 僕は伸ばせば同時に2,3人に攻撃できるから、移動しながら隙を伺っていくよ。」

「わかったわ。魔獣と違って連携とかしてくるよね…」

「彼らのお手並み拝見というところだな。」

2人は初めての対人戦にも関わらず落ち着いた様子だった。


「多分善戦はできると思うけど、魔術を使う相手と戦ったことはほとんどないからどうなるかはやってみないとわからないね。」

さて、勝てるといいのだけど…

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