第27話 帰郷
街へ戻り、探索者協会で魔獣討伐の報告を行い報酬を受け取ると商人の人達から大いに感謝された。
なんでも王都に向かう途中だったが足止めされて困っていたらしい。
「もし倒した魔獣の素材が不要であれば、高めに買い取りますがいかがでしょうか?あと私共で提供可能なものがありましたら格安でお譲りいたしますよ!」
お礼と称してはいるものの、自分達の仕事を忘れていないところに好感が持てた。
「倒したのはヒュージベアなのですがいかがでしょうか?爪や牙や一部の毛皮や魔石は武具の素材に残しておきたいですが、他の部分であれば特に必要ないので買い取っていただけると助かります。あとはポーションなどの薬類がありましたら見せていただけますか?」
「ヒュージベアであれば肉・皮・骨など使えるところも多いので高く買い取らせていただきますよ。特に掌は高級料理の素材になるとかで価値が高いんですよ。これくらいでいかがでしょうか?
薬はこういった品揃えがございます。あとこんな消耗品も取り扱っております。」
こちらの要望を伝えると、即座に買取金額を提示してくれ、こちらが望む薬だけでなく消耗品の一覧も見せてくれた。
何が求められているかの需要を調査する力、素早く精度の高い計算能力、相手が望む情報をわかりやすく+αで伝える力など商会での仕事であればぜひ引き抜きたいと思わされる流れるような仕事ぶりであった。
「薬はこれとこれいただけますか?あとナイフや矢、煙玉などのこの辺りの消耗品一式お願いします。ヒュージベアの金額はそれで良いので、代金分を差し引いていただけますか?」
「ありがとうございます。私はネゴニアと申します。王都へ向かわれるのでしたらまたお会いすることもあるかと思いますので、今後ともご贔屓にどうぞ。」
商談が早々に纏まると品は後で商会に届けてくれるとのことだった。
魔獣討伐の後処理が完了した後、商会に顔を出して街道の脅威が消えたことも伝えておいた。
バルトロ兄さんとアリシアと話し、翌日は1日休息と装備の見直しに当てた。
魔獣の素材はすぐに武具にすることは難しいとのことだったので、王都で考えることにしよう。
そして準備が出来て再度王都へと出発した。
その後王都までの間で大きな問題が起きることもなく、順調な道程であった。
「早く王都につかないかな、ずっと移動しているだけっていうのもつまらないよね。」
「まぁ毎日訓練していたあの頃よりは良いんじゃないかな。それにつまらないならいつでも練気して自分を追い込めば良いじゃないか。」
「そんなことするのはアルクスくらいだよ!でも、飛んでる鳥に当てるのは上達したよ。」
「あぁ、おかげで食料には困らないし助かってるよ。」
アリシアはつまらないと言いつつも頭上を飛んでいる鳥を見つけると、拾っておいた石などを闘気を纏って投げつけて撃ち落とすという技を身につけていた。最初の頃は外れることも多かったが、最近では百発百中の腕前に上達していた。
「アルクスもなんだか熱心に魔術を使っているよね。不授はみんな魔術を使えないのにずるいよ。」
「僕は元々は不授じゃなかったからね。それにラピスがなくても基礎魔術は使えるんだよ。以前は魔力を練る訓練も結構やっていたから忘れない様にと思ってね。水を出したり火を起こしたり便利でしょ?」
「そうだな。探索者としてやっていく上で、野営をする必要も多くあるだろうし、アルクスが基礎魔術を使えるのは大きいな。俺達は魔術を使えないし。」
バルトロ兄さんが急に話に入ってきた。
「そうね、少し訓練してみたけど素質がないから闘気に集中した方が良いってネモ先生に言われたもんね。」
「戦いに使えると良いんだけどね。魔力量は多いから水とか結構いっぱい出せるんだけど、攻撃には使えないからね。いつか魔術が得意な仲間を増やせると良いんだけど、僕達は不授だから難しいだろうなぁ…」
「別の国へ行けば不授に偏見を持たない人に会えるかもしれないな。まぁ気長に行こう。」
「まだ私達の冒険は始まったばかりだもんね!」
まだ見ぬ仲間に出会えたら良いなぁという思いを胸にのんびりとした王都への旅は続いていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あー、やっと着いたのね!」
行きと同様に1月程の道程を終えて王都へと着いた。
僕達を乗せてきた馬車は商会の王都の支店で荷物を積んで、また辺境へと戻るらしい。
世話になった礼をして、家に戻ることにした。
「ウィル兄さんやルーナちゃんに会うのは久しぶりね。私達のこと覚えているかしら?」
「まぁ兄様やルーナとは手紙のやり取りをしていたし、2人のことは話したから覚えてはいるよ。僕もこの2年間で結構強くなったつもりだけど、兄様は更に強くなったんだろうなぁ…」
久しぶりに見た王都の街並みは以前とあまり変わっていなかった。
家の前に着くと2年前に辺境に旅立った時のことを思い出した。
あの時は不授とわかり自分の目指す道が断たれ、諦めの気持ちでいっぱいだった。
でも辺境では自分には可能性が溢れていることを教わり、磨き、新しい夢を手に入れた。
父様に自信を持ってこれからのことを報告しようと思えた。
正面の門を開けるとそこにはルーナとモラが待っていて出迎えてくれた。
ルーナは珍しく走って駆け寄ってくると、抱きついてきた。
「お兄さま、お帰りなさい!」
「ルーナ、元気だったかい?」
「はい、お兄さまに会える日を楽しみにしておりました♪」
「モラも久しぶり。いつもルーナの面倒を見てくれてありがとう!」
「いえ、お嬢様も成長されて最近は割と健康になってきたんですよ。」
手紙のやり取りをしていたとはいえ、久しぶりにルーナとルナに会えて目頭が熱くなってきた。
「そうそう、手紙でも話したと思うけどバルトロ兄さんとアリシアだよ。」
「ルーナちゃん久しぶり!私のこと覚えてるかな?」
「もちろんです!」
誤魔化すように2人を紹介した後、家の中に入り、昔の話から、これから探索者としてやっていくという話をした。
「そういえば父様は出かけているのかな?」
「はい、夕方には戻ってくると思いますよ。お兄さまはどれくらい王都にいらっしゃるんですか?」
「そうだね、父様に報告したら学園の時の友人にも顔だけ見せて、あとは兄様にも会えたら良いなと思っているよ。図書館で今後のために調べたいこともあるし大体1週間くらいかな。」
「それでしたら家にいる時は勉強を教えていただいてもよろしいでしょうか?私も来月から教会学校に通う予定ですので最後の仕上げをしておきたいと思ってて。」
「もちろん、じゃあ毎日夕方は勉強の時間としようか。アリシアも参加する?」
「うーん、私はいいや。兄さんと一緒に商会に顔出して、少し手伝わないと行けないからさ。」
しばらくして父様が帰宅した。
「アルクス久しぶりだな。辺境はどうだった?」
「色々な経験ができました。そして、自分が進もうと思う道が見つけられたので報告に戻りました。僕は探索者になって世界を旅しようと思います。」
「そうか。自分で決めたのであれば何も言うことはない。ただルーナのためにもどこに居ようとも手紙だけは出してくれると嬉しい。あとはわかっていると思うが、この都にお前の居場所はもうない。おそらく滞在している間に実感することになるだろう。この数年でより一層不授の排斥も進んだ。正しいとは思わないが、この国をよく表している姿でもある。」
「わかりました、よく見てまわりたいと思います。あと叔父さんからこれを預かりました。」
「あぁ、ありがとう。ウィルにも近いうちにここに顔を出す様に伝えておいたから楽しみにしておくと良い。あいつはどんどん出世してあと数年で蒼天十二将にでもなるんじゃないかな。」
「さすが兄様です…」
父様への報告は思ったよりもあっさりしたものになった。
探索者になるということに対してもう少し反応があると思っていたけれど…
辺境に引きこもるのも、探索者で旅をして回っているの王都にいる身からするとあまり変わらないのかな。
その後数日間図書館に籠り王国近辺の国家や帝国、連邦などの地理や歴史・政治・経済・文化などこれから旅をするであろう各地の情報を調べられるだけ調べて、まとめることにした。
「この辺りの国は問題ないけど、帝国と連邦に行ったら文化の違いで困るかもなぁ…」
帝国に行けば雷吼狼牙の様に獣人族が多いし、連邦には亜人と呼ばれるエルフ、ドワーフなどの種族がいるらしい。
ヴォルナーさん達は探索者なだけあって、食事以外はこちらに合わせてくれていたけど、今度は自分達が合わせないといけないからなぁ。
「お兄さま、調べ物は順調ですか?」
帰宅後ルーナに勉強を教えている時に、調査の状況を聞かれた。
おそらく少しでも調べ物が長引いて滞在期間が延びることを期待しているのだろう。
「そうだね、順調だよ。ルーナの勉強も順調じゃないか。入学前にこれだけ理解していれば学校で首席も取れるんじゃないかな?」
「お兄さまの妹として恥ずかしく無い様に頑張ります!」
満更でもない表情だった。
そういえば今になって気がついたけど昔はこういうなんでもない、幸せな時間も多かった気がする。
長く続かないとわかっているからこそ、今の時間を大切にしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます