第15話 激動のサリーシャ③
はぁ、はぁ、はぁ。
3人は肩で息をする。
戦い始めてどれだけ経ったのか――長い時間戦っていたようにも思うし、実は短い時間なのかもしれない。
ただ、ここは街の広場だ。
今は夜中だからいいのだが、明るくなればガルダ市民を巻き込みかねない。
――なんとしても、夜明け前に終わらせる!!
「あらあら、余所見なんて余裕じゃない?私だけを見て♡」
こちらの猛攻も何処吹く風、涼しげな流し目をエミルに送りながら放つ火球は、エミルの手前で弾けて四方から襲いかかる。
「――くっ!!」
辛うじて盾の魔法障壁で耐えたものの、そろそろ体力の限界を感じ始めていた。
手応えはあった。こちらの攻撃が効いていない訳ではないはずだ。なのに、どうしてそんなに平気な顔をして動き回れるのか…?!このままでは埒が明かない。
一方でセリスは、的確に急所を狙っているにもかかわらず、すんでのところで見事にかわされていた。
「…完全に読まれていますね…!!」
「ふふふ、良い突きね!!私に当ててご覧なさい♡」
そう言って身をかわす様は戦場でなければ花形の舞い手のようだったに違いない。けれど、鮮血と豪炎で彩られたその舞は、底知れぬ狂気を纏って乱れ咲く!!
とはいえ、繰り返しているうちにセリスの突きも少しずつエゼリアを捉え始めていた。
すぅーっ、とセリスのレイピアがエゼリアの頬をかすめ、エゼリアの白い肌に紅き一筋が刻まれる。
「やるじゃないお兄さん♡強い男は好きよ♡」
言いながら、さらに行動の間隔を縮め、火炎魔法のキレをも上げてきた。セリスはそれをレイピアの魔力を使って必死に避けていく…。
エレジオールはというと。
結構な数の魔法弾を打ち込んだはずだが、エゼリアのあの余裕はなんなのだ。
「考えろ、考えろ、私!!」
こちらはエレジオールの回復魔法があるとはいえ、満身創痍もいい所だ。
向こうも見た目はかなりボロボロなのだが、血をまとって凄惨さを増した笑みを浮かべ、修羅のごとき連続攻撃を繰り出してくる。
――あれだけの攻撃を受けて平然としていられるなんて…!!
どう考えても不自然だ。そもそも、エミルの強烈な一撃を紙一重で避け損ねた時は、確かに顔が歪んでいたのをはっきりと見た。考えられる可能性があるとすれば――
――もしかして、今は痛みを感じてない?!
その可能性に思い当たり、背筋が凍る。痛覚を遮断…それだけ聞けば便利なように思えるかもしれない。しかし、痛覚とは体の危険信号だ。それを感じなくする、というのは…恐るべき諸刃の剣にほかならない。
よくよく見れば、エゼリアの周りにエレジオールでも注意しなければ気づかないほどの薄い継続系魔法のオーラが見えた。
一か八か!!
「ええい、ままよ!!」
エレジオールは賭けに出た。
――汝を護りし守護魔法よ、消え去れ!!
フェアリーロッドから激しい光の波動がエゼリアに向かって放たれる。
「なっ?!」
エゼリアが光に包まれたと思うまもなく。
「が…ハッ…!!」
僅かにまとっていた魔法の気配が、完全に消え去った。同時にそれまでの余裕はどこへやら、エゼリアは苦悶の表情を浮かべ、いとも容易く膝を折る。
「やった?!」
見えてきた希望に縋る一同を、エゼリアは睨めつける。
「ふ、ふふふ…こんなに私を追い込んだのは、坊や達が初めてよ…!!ご褒美に全力で殺してあげる♡己の運命を呪ってこの国諸共消し飛ぶがいい!!!…かはッ!ハハッ!あはハハハッ!!」
哄笑するエゼリアの両の手のひらに、新たに口が現れた!本来の口と新たに浮き出たふたつの口、それぞれが複雑な詠唱を始めた。
「これは!!まずい、止めないと!!」
とは言うものの、止めようにもエゼリアの周りには詠唱の副作用か、強力な魔力障壁が発生していて近づけもしない。
詠唱というより不気味な合唱と言った方がしっくりきそうなそれは、各々の唇がそれぞれ違う
「ダメ――もう間に合わない!!」
僅かな希望が深い絶望に形を変えようとした、その時。
ズドオオオオオオオォォォォォン!!
耳をつんざく轟音と共に、大地から湧き出た巨大な闇柱がエゼリアの全身を貫いた!!
「…どう…して…??」
そう呟くと、エゼリアは、跡形も残さず虚空に溶けた。と同時に夜明けを告げる明かりが、陥没した広場に差し始めた――。
◇◇◇◇
「何が起こったんだろう…??」
「分からない…。」
エミルもエレジオールも、不可解なエゼリアの死に戸惑いを隠せない。
「とりあえず、助かりましたね!今はそれを喜びましょう。」
そんな2人を鼓舞するように、セリスが言葉を紡ぐ。
「そうね、とりあえず眠りたい…。」
一同はエレジオールの一言に深く同意し、宿屋へと戻るのだった。
◇◇◇◇
ひとしきり眠った後、一行は要塞に呼び出された。もちろん事情説明のためだ。
今回は素直にエレジオールも同行し、事の顛末を洗いざらい話すことに。
結果、この国を傾けたのに加担したのは事実だが、主犯ではないことと、結果的に魔王軍の脅威からこの国を守ったことを鑑みて、判断保留(事実上不問に付す)となった。
ただ、この件に「エレジオール」が関わっていることは伏せるように、との口止めも同時に徹底された。まあ当然といえば当然である。
◆◆◆◆
「ふん、馬鹿め!調子に乗りおって!!」
魔王は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「危ないところでございましたね。」
遠隔視越しにかしずく影は静かに同意する。
「片腕は失ったが替えならきく。」
「御意。」
いともあっさり
「お前は引き続き任務を続行しろ。失敗は許されん。」
「承知。」
切れたばかりの遠隔視が映し出されていた、そのはるか向こうを見すえながら、魔王は呟く。
「今、死なれる訳にはいかぬ…。」
△△△△
一方この頃を境にして、世界で異変が起こり始める。
魔道紋があちこちで突然開き始めたのだ。大きさや開紋時間はまちまちだが、大きくもなく、小さくもない被害がグレイゼア大陸のみならず、大国ノーディルンのあるウルマイズ大陸にも及んでいた――。
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