第11話 生ける伝説?!幻の魔岩と気性の荒い武器鍛冶師
「このお家で合ってるよね?」
カラノア王から受け取った紹介状に添えられた地図を見ながら、エミルが問う。
「そのはずよ。この地図が正しければ、ね。」
「この街を歩き尽くした訳では無いですが、今歩いてきた限り、この地図の精度は高そうです。間違いないかと。」
エレジオールとセリスがそれぞれ返事を返す。
――巨大女王蟻を倒したあの後。
ボロボロになりつつ城へ報告に向かった一行を、王は暖かく迎えてくれ、約束通りガルディストラ魔岩を譲ってくれた。
更に、
「このままでは使えないでしょう。カラノアの外れに金属加工の街があります。我が王家も懇意にしている凄腕の鍛冶師に紹介状を書いておきました。ちょっとクセのある方ですが、仕事は天下一品!必ずや勇者様に相応しい武器を拵えるはずです。」
そう言って武器鍛冶師まで紹介してくれたのである。
そして今、その鍛冶師のものと思しき家についたのだが。
「…変わった家ね…。」
歪に曲がりくねった壁が天井に向かって収束しており、そのてっぺんに小さな屋根が申し訳程度にちょこんと鎮座している。横からはこれまた曲がった煙突が突き出しており、窓に至ってはあるのかないのかもよくわからない。
強いて例えるなら…潰れたかぼちゃ、だろうか。
**エリィの絵心並みにセンスないねー!
**うっ…!!そこには触れないで…!!でも、ここまで酷くないもん!!
いつものシェリィの毒舌に、今回ばかりは多少自覚があるのかエレジオールの返しがやや弱気である。
『他人の家の前でガタガタ煩いね!!用があるなら入ってきな!!』
家の中から突然怒声が降ってきた。どうやら、家主に筒抜けだったようだ。
「はっ、はいっ!!失礼しました!!お邪魔します!!」
慌てたエミルが、怒声に促されて中に入る。
続けてエレジオールが中に入ろうとした、その時。
「美人は嫌いだよ!!」
エレジオールの顔めがけて空のヤカンが飛んできた。
「きゃっ?!」
間一髪、直撃を避けることに成功したエレジオールを見て、
「ふん、美人のクセになかなかやるじゃないか。」
声の主は不機嫌そうに言い放つ。
なにか文句を言おうとして、家主を見――
エレジオールは自分に向けられる敵意の正体を察した。
そこにいたのは、醜くやや老け込んだ顔の筋骨逞しい女性だった。どうやら、彼女のコンプレックスを思いっ切り刺激してしまったらしい。
「えっと、私…外にいようかな…」
「余計なことはしなくていいよ!そういう気遣いが一番嫌いなんだ!!」
「はい!ごめんなさい!!」
エレジオールは女性の剣幕につられて思わず敬語になる。
例によってゲラゲラ笑い転げるシェリィを横目で睨んでいると、
「あなたが、生ける伝説と謳われる鍛冶師のジェイドさんですか?」
エミルが女性に問いかけた。
「そうさ、私がネフィール=ジェイド。他人の評判は気にしちゃいないが、そう呼ばれることもある。 そんな武器鍛冶師に優男がなんの用だい?」
「僕はノーディルンの支援を受けた勇者、エミルと申します。カラノア王の紹介で、武器を作って頂きたく参りました。」
「ほう、噂の勇者様は礼儀をわきまえているようだね。カラノア王からねえ…紹介状見せてみな。」
エミルは懐から紹介状を取り出すと、ネフィールに渡した。
「…どうやら、本物のようだね。しかもカラノアの国宝を譲るなんて…よっぽど信頼されてるのか…いや、あの王の事だから勇者に1枚噛んで売名したいのかもな。まあそれはさておき。ブツを見せておくれ。」
言われてエレジオールは、パチン、と指を鳴らした。
金属にしてはかなり軽い部類とはいえ、大きさが大きさでかさばるので、例によって空間操作の魔法を使ったのだ。
「おお!この輝き!!この軽さ!!間違いなく幻の魔鉱ガルディストラ!!まさかこのサイズの魔岩にお目にかかれるとは!!しかも…こんなに純度が高いのは初めて見たよ!!」
ネフィールは興奮冷めやらぬ様子で現れた魔岩を様々な角度から眺め、うっとりとため息をついた。
「これだけあればあんたら全員分の武器が作れそうだねえ。見た所、獲物は片手剣、レイピア、ロッドって所か。」
「見ただけでわかるんですか?!」
武器が折れてしまい帯剣していないエミルが驚く。
「ふふん、長年客を相手にしてると分かるようになるもんさ。」
そう言ってネフィールは不敵に笑った。
「さて、3人分ともなると時間が必要だね。2、3週間はかかるが、どうするね?」
「カラノアの王都に戻って観光したい!!美味しいもの探さなくっちゃ!!それに…そろそろお洋服買い足したいし…。カラノアって結構いい感じのお店いっぱいあったのよねー。」
ネフィールの問いにエレジオールがまくし立てる。
「確かにカラノアでは全然ゆっくり出来なかったものね。」
エミルが賛同すると、
「では、完成の連絡にはこちらを使ってください。」
セリスが何やら鳥の形をした白い紙を取り出して、ネフィールに渡した。
「伝言を書き込んで息を吹きかけると、私のところに即座に届きます。」
「承知した!」
ネフィールは紙をなくさないようにしまった。
「…セリス…あんたなかなか面白いもの持ってるわよね…。」
エレジオールの呟きが聞こえていたのか、いなかったのか。セリスは完全にスルーした。
「あ、そうそう」
ふと、思い出したようにネフィールが口を開く。
「余ったガルディストラ鉱は、代金としてもらっておくからね!!3人分の武器代と思えば安いもんだろ?それにあんたたちが持ってても邪魔にしかならんだろうし。」
お金になるもん!!
と言おうとしたエレジオールを制して、
「ええ、構いませんよ!」
エミルが同意する。
不満顔のエレジオールに言い聞かせるように、
「対価はきちんとお支払いしなければ。」
そんなエミルを見て、ネフィールは満足気だ。
「優男、…いや勇者様は顔も性格もいいんだねえ。惚れちまいそうだよ!」
「?!」
無意識に警戒体勢になるエミル。
「…冗談だよ!あたしゃ筋骨隆々な逞しい男がタイプだからね。優男はお呼びでないよ!!」
「そうなんですね…!」
豪快に笑うネフィールに、どう反応していいのか迷っているエミルであった。
「そうと決まれば、早速作業を始めようかね。とりあえず一旦帰りな!作業中を覗かれるのは好きじゃないんでね!!」
そう言うと、ネフィールはエミルたちを追い出し、仕事人の顔になる。
「勇者様に献上する伝説の武器、か…気合い入れていくよ!!」
そう独りごちると、生ける伝説の武器鍛冶師は、作業を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます