約束
「どうもありがとう、葵っち。お陰で御所を取り戻すことが出来たわ」
「そんな……大したことはしていないよ」
葵たちの活躍により難敵?四天王を退け、その勢いのままに紅と猛時は乱の首謀者たち、反対勢力のリーダー格たちを一気に取り押さえ、政変を阻止することに成功した。
「上様、若下野様、伊達仁殿以外の皆さんもご紹介させて頂ければと思います。作戦開始前はと色々バタバタしておりましたので……」
「そうね、折角だから一人一人にお礼を言いたいわ」
御所で一番広い部屋である大広間の上座に紅が、その脇に葵と猛時が座り、爽ら将愉会の面々が、紅に向かい合うように着座する。
「まずは作戦の第一段階を担って下さった方々……大毛利景元殿」
「色々な意味で体を張ってくれたわね、どうもありがとう」
「勿体ないお言葉でございます……」
景元はパンチパーマの頭を恭しく下げた。
「お隣が橙谷弾七殿」
「ありがとう。風景画が得意だという話は聞いているわ。鎌倉にも美しい景色が沢山あるのよ。画題に取り上げてもらったら鎌倉の地を愛する者としてもとっても嬉しいわ」
「そうですね……また機会があれば、是非」
「ところで……彼のパンチパーマを見て、着想は浮かんだの?」
「いいえ、それが全く」
「ちょっと待て! じゃあ僕は一体何の為に……!」
景元は横の弾七に抗議する。
「その……なんだ、あんまり細かいことは気にすんな」
「気にするだろう!」
爽が咳払いをした為、景元は黙った。猛時が紹介を続ける。
「そのお隣が黄葉原北斗殿」
「どうもありがとう。動画配信というのも色々大変だとは聞くのだけど、実際の所どうなのかしら?」
「いや~これがどうしてなかなか骨が折れますよ。苦労して撮影して、凝りに凝った編集をした動画でも、案外再生数が伸びなかったりしますし……そうだ! 公方さまに動画ご出演お願い出来ません? うちの上様との対談なんてどうでしょう」
「あ、兄上! あまりにも無礼が過ぎますよ!」
隣に座る南武が慌てて北斗をたしなめる。
「え~美人同士、絶対バズると思うんだけどな~」
紅は笑って答える。
「そうね、考えておくわ」
「おっ、話が分かる~♪ 言ってみるもんだね」
「またそうやって安請け合いをなさる……お隣は黄葉原南武殿」
「どうもありがとう。今日は撮影に行司にご苦労様。双子で町奉行を務めているなんて、ご家族もさぞかし鼻が高いでしょうね」
「い、いえいえ! まだまだ至らぬ所ばかりでございます! ありがたき御言葉を胸に今後も精進して参ります!」
南武は勢い良く頭を下げる。
「続いては作戦の第二段階を担った方々……高島津小霧殿」
「罠にかける為相手に近づく危険な任務……よくこなしてくれたわね。その勇敢な姿勢に敬意を表するわ。ありがとう」
「お褒めに預かり光栄です。ですが、これくらいはお茶の子さいさいというやつですわ」
「ふふっ、頼もしいことね」
「お隣は涼紫獅源殿」
「ありがとう。当代きっての歌舞伎役者のお芝居、実に見事だったわ。今度は是非お金を払って見たいものね」
「本当に勿体ないお言葉でございます……特別良い席をご用意してお待ちしております」
「お隣は新緑光太殿」
「先生、どうもありがとうございます。御化粧と御着物姿、よくお似合いでしたよ?」
「お戯れを……出来れば直ちにお忘れになって頂きたいです。もう二度と致しません」
「そうですか? 勿体ないですね」
「アタシの端末で写真を撮りました。良かったら画像をお送りします」
「! いつの間に……! 消去して下さい!」
光太が隣の獅源を睨みつける。獅源は口元に手を当てて笑う。
「そのお隣が藍袋座一超殿」
「どうもありがとう。女装という稀有な経験は俳句に活かせそうかしら?」
「その答え 今後の句にて 示すのみ」
「え?」
「今後の活動にご期待下さいって」
葵が補足する。
「そ、そう……さっき絵師の先生にも言ったけど、鎌倉は良い土地よ。また是非句を詠みに足を運んでくれると嬉しいわ」
「気が乗れば いざ鎌倉へ 馳せ参じ」
「ん?」
「その時はお言葉に甘えてお邪魔しますだって」
「そ、そうなの……っていうかよく分かるわね、葵っち……」
「最後に作戦の第三段階を担ってくれた方々……青臨大和殿」
「必要以上に相手を傷付けない戦いぶり……お見事だったわ。本当にありがとう」
「他ならぬ鎌倉の公方さまからなんと勿体ないお言葉! 今後も慢心せずに励みます!」
「ただ……猛時も言ったけど、今日倒した連中が鎌倉武士の全てだとは思わないでね?」
「分かりました! 縁あれば、是非とも鎌倉の腕自慢とお手合わせ願いたいものです!」
「お隣は黒駆秀吾郎殿」
「ありがとう。滅多に見られないものを見せてもらって、得をした気分よ」
「恐れ多いことでございます……特段変わったことをしたつもりはありませんが」
「まあ、そういうことにしておこうかしらね」
「? おっしゃる意味が分かりかねます」
あくまでもとぼけた振りをする秀吾郎を見て、紅は苦笑する。
「お隣は赤宿進之助殿」
「どうもありがとう。拳は大丈夫?」
「喧嘩に多少の怪我は付き物! なんてことはねえ! ……です!」
「人々の安全を守る火消しを目指す志、立派なものよ。大事にしてね」
「おうよ! っと、そうじゃなくて、ええと……畏まり仕ったでごぜえます!」
「……ご紹介は以上になります」
改めての顔合わせが済んだ小一時間後、御所の門前に葵を始め、将愉会の皆が並ぶ。
「もう日も暮れたし、泊まっていったら良いのに」
「いやいやご挨拶に伺っただけだから……今日の所はこれで失礼するよ」
「ゴメンね、せめて駅までお見送りしたいんだけど、色々とまだやることがあって……」
「全然大丈夫! 気にしないで」
葵はそう言って笑う。紅も微笑む。
「お礼の方は詳細が決まり次第改めて……伊達仁さんにメールすれば良いかしら?」
「お二方でやり取り頂いても構いませんが……そうですね、わたくしに連絡頂ければ」
紅の問いに爽が頷く。紅は葵の方に向き直る。
「今日は会えて良かったわ。葵っち。今後もお互い征夷大将軍、頑張りましょうね」
「私も! 絶対また会おうね、クレちゃん!」
「そうね、貴女が困ったことがあったら、今度は私が助けるわ、約束よ」
葵と紅は互いに手を振って別れた。大江戸幕府第二十五代将軍若下野葵は将愉会の個性的なメンバーを引き連れて、その場から去って行く。その様子を見守る良鎌倉幕府第四十五代将軍、真坂野紅にも頼れる仲間、色男たちがいる。ただ、それはまた別のお話……。
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