立ち上げてみた

 放課後、万城目のデスクの前に五人の生徒が並んだ。

「二年と組のクラス長、副クラス長、書記までお揃いとは……それで、お話とは一体何でしょうか、若下野さん?」

「わたくしが代わりに申しあげます。こちらに承認を頂きたいのですが……」

 葵の右隣に立っていた爽が一枚の用紙を差し出した。万城目が手に取って確認する。

「同好会設立要望書?」

「若下野さんを会長とした同好会を立ち上げたいと思っております」

「立ち上げには最低でも五人必要になりますが?」

「若下野さん以外にここにいる四人がそのメンバーです」

「何⁉」

「初耳ですわよ⁉」

 葵の左隣に立っていた高島津小霧とその斜め後ろに立っていた大毛利景元が驚きの声を上げる。これには葵も驚いた。

「サワっち、説明してなかったの⁉」

「説明の手間を極力省きたかったもので」

「生徒会への陳情書というから署名しましたのに……」

「騙したな、伊達仁……」

「そもそもの意思統一が図れていない様なのですが……」

 万城目が困惑した表情で爽を仰ぎ見る。

「意志統一はこれから図ります。黒駆君、例のものを」

「はっ」

 爽に促され、秀吾郎がある紙をその場にいる全員に配った。

「これは校内瓦版……?」

「しかも号外……ってサワっち、この内容⁉」

 驚く葵に爽が説明を始める。

「そうです、本日昼休み。この生徒会室で行われた話の内容が事細かに書いてあるのです! 勿論一字一句正確にという訳ではありませんが」

「学内選挙⁉ これからの数か月間の働きぶりで将軍に相応しい人物を決める⁉」

「有力な候補者は氷戸光ノ丸に、い、五橋八千代ですって~!」

「これはどういうことですか、会長!」

「誰かがリークしたのでしょうねぇ~」

「選挙が本当に行われるということですの⁉」

「はい、私の方から提案させていただいたことです……」

 小霧と景元から詰め寄られ、万城目は少々バツの悪そうに顔を背けた。

「兎に角」

 爽が声を掛ける。

「若下野さんの将軍在位を快く思わない勢力がこの学園内に相当数いることは事実。所詮は学生の選挙ごっこだと無視するのも一つの手ですが、不戦を貫くことが世間から良い評価を得られるとは限りません。よって我々も何らかの対策を取るべきだと思います!」

「その対策の一環が、同好会設立ですか?」

 万城目の問いに、爽が頷く。

「そうです! 葵様!」

「ええ! 会長! 昼休みにも似たようなことを言いましたが、氷戸さん、五橋さん、あの二人には将軍職はとても任せられません! あくまでも学園内の選挙ということですが、私は絶対に勝ってみせます!」

「意気込みは大変結構ですが、そこで同好会にどう繋がるのでしょうか……?」

「将軍の立場を存分に生かして、生徒皆の学園生活をより良いものにしていく活動を行っていこうと思います!」

「一人の生徒として扱って欲しいという趣旨のことを仰っていたと思うのですが……?」

「それはそれ! これはこれ! です!」

「ええっ⁉」

 流石の万城目も驚いてしまった。

「という訳で同好会設立の承認をお願いいたします‼」

「ふ、ふむ、会の名称は?」

 万城目の疑問に対し、葵はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに胸を張り、高らかに会の名前を宣言した。

「『将軍と愉快な仲間たちが学園生活を大いに盛り上げる会』です!」

「長いな⁉」

「大丈夫、略称もちゃんと考えてあるから! 秀吾郎!」

「はっ!」

 秀吾郎が持っていた半紙をばっと広げた。そこには『将愉会しょうゆかい』と筆で書かれていた。

「いや略す所そこですの⁉」

「……具体的な活動内容はどういったものに?」

「東に喜んでいる生徒がいれば一緒に喜び、西に怒っている生徒がいればその怒りを鎮め、南に哀しんでいる生徒がいればそっと寄り添い、北に楽しんでいる生徒がいればその楽しみを分かち合う……そんな活動内容を目指します!」

「そ、そうですか……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る