散文集(276~300)
ごこちゃん
276_同類
帰りの電車で見かけた女性。
大股で座席に座って、小さなバックを横に並べて、誰かと大声で通話している。
誰も注意しないのはこのご時世だからなのか、それとも手首に見える沢山の切り傷のせいか。
彼女の口調はとても明るく、目を瞑れば幸せそうな声が響いてくる。
表裏の激しい人なのだろうか。
相手に気を遣っているのだろうか。
通話相手は彼女の手首を見たことがあるのだろうか。
ふと、僕は自分の手首を見る。
切り傷、湿疹、何一つない綺麗な手首。
ふと、僕は携帯の履歴を見る。
通っている病院と出たくないと思う同居人。
剃刀の画が頭をよぎってしまった自分に嫌気がする。
そんなもので何をするんだ。何が起こるんだ。何が変わるんだ。
震える手で常備している薬をかっ込む。
大股で座席に座って、荷物を横に並べて、ウンウンと唸り続ける。
駅に着くころには、僕は普通に戻れるだろう。
それまでは誰にも注意されないだろう。
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