第13話 目的の階層付近に来た

 ま、あくまで俺の本業は農家であって、冒険者ではないからな。

 もしダメだったら、その時はまた後日作戦を考えるとして、今日は一旦攻略はお預けにしよう。


 そう気楽に構えつつ、俺はスキル名を唱えた。


「特級建築術」


<スキル:「特級建築術」を発動するには、作りたい建造物をイメージする必要があります>


 すると俺の脳内にそんなアナウンスが流れたので、とりあえず俺は、日本にいた頃住んでたアパートのエレベーターを思い浮かべた。


<建造物の設計を把握しました。これより建築を開始します……>


 エレベーターを思い浮かべて数秒が経過すると、続いてそんなアナウンスが流れ……同時に俺の真横の壁が、轟音を立てはじめる。


「な、なななななんですか……!?」


「早く下の階層に降りられるよう、ダンジョンを改築してエレ……昇降機を取り付けてるんだ」


 轟音に驚くヒマリに対し、俺はそう説明した。

 ちなみに途中でエレベーターを昇降機と言い直したのは、この世界にはエレベーターという概念が無いだろうと思ったからだ。

 ……どうせドライアドの自動通訳が入ることを考えれば、無駄な配慮だったかもしれないが。


「なるほど昇降機……って、何そんな軽々とダンジョンの構造に干渉してるんですか! 不可能という概念が無いにも程がありますよ……」


 一方ヒマリの関心は「何を作っているか」ではなく「何かを作れているという事実」そのものに向いたらしく、俺は呆れたようにそう言われてしまった。


 ダンジョンへの干渉、普通は不可能なのか。

 途中で「やっぱダメでした」なんてアナウンスが流れなければいいのだが。


 一瞬、そんな心配がよぎった俺だったが……5分もすると、それが杞憂だったことが分かった。

 無事見覚えのあるエレベーターが完成し、「▼」のボタンを押すと、扉が開いて中に入れたのだ。


「とりあえず……10階層ずつ降りて、その度に階層内を軽く探索して、俺たちが逃げられないか検証するか」


「そうですね」


 というわけで、俺は「10」と書かれたボタンを押し、それから閉ボタンを押した。

 扉が閉まると、一瞬フワッと身体が浮くような感覚と共に、俺たちは下へと降り始めた。



 10階層でエレベーターを降りると……早速俺は、「階層探知」を発動した。

 このスキルの発動により、俺の目の前には、階層全体のマップに魔物の位置を表す「▼」マークが表示された半透明の画面が出現する。


 1階層の時と同じく、俺たちはその画面を開きっぱなしにして、しばらく階層内を散策した。

 5分も歩き続けると、俺たちはこの階層に関する結論を出すことができた。


「……まだ魔物には逃げられるな」


「ですね」


 流石に10階層降りた程度では、出現する魔物のレベルはヒマリに怯える奴らばかりのようだった。


 そうと分かれば、今度は20階層に降りて、同じことを試すのみ。

 俺たちは再びエレベーターに乗り込み、更に10個下の階層に移動した。



 ◇



 そんな風に、「10階層降りては階層散策をして逃げられないか確かめる」を繰り返すこと数回。

 ようやく魔物が逃げていかなくなったのは……俺たちが80階層に降りてきてからのことだった。


 80階層の魔物は70階層以前のとは違い、俺たちの存在を全く気にしていないようで……「▼」マーク目指して歩いていると、普通に魔物にエンカウントすることができた。


 エンカウントした魔物は、異様に長く不気味なオーラを纏った爪を持つ、熊のような外見の魔物だった。


「アイツって……ヒマリより強いのか?」


「流石にそれはありませんね。寝込みを襲われれば、百回に一回くらいは負けそうですけど……油断しなければ確実に勝てる相手です」


 どうやらヒマリ曰く、「この魔物はそこそこ強いが、それ以上でもそれ以下でもない」といったレベルのようだった。


 まあ確かに、それくらいの実力差なら、ただ歩いているだけで怯えて逃げ出されるとはいかなくなるか。

 しかし……それでもそこそこ大きな実力差があるのは確かなので、俺たちが臨戦態勢に入ったら逃げ出される可能性もなくは無いな。


「みんな、シンクロ率を調整して、AGIをフルにしてくれ」


「「「はーい!」」」


 そう分析した俺は、一瞬で決着をつけるため、敏捷性に関わるAGIのステータスを無量大数に戻した。

 そして……俺は一瞬で魔物に近づき、目から脳天へ向けて剣を突き刺して、剣を引っこ抜きながら元の位置まで戻ってくる。


 一瞬遅れて……魔物の頭から血が噴き出しかけたかと思うと、魔物は光の粒子と化し、代わりに一枚のカードが出現した。

 あれがいわゆる「ドロップ品」だとしたら、今ので討伐完了ってことだよな。


「あれ、魔物が勝手に死……んだわけがないですよね。マサトさん、何かしました?」


「普通に剣で弱点を突いてきたんだが」


「いや、どう考えても普通じゃないですよそれ……主に速度が。ワタシ、マサトさんが動いたことすら分からなかったですよ!?」


 剣を突き刺してから戻ってくるまでの間、魔物は微動だにしなかったなと思っていたのだが……傍から見るとむしろ、俺の方が目にも留まらぬ速さで動いてたようだった。

 無量大数のAGIさまさまだな。


 などと思いつつ、俺はドロップしたカードを拾いにいった。

 見ただけではただの絵が描かれた一枚の紙のようなのだが、まさかそれだけではないだろうと思い、一応鑑定してみる。


 すると……ドロップ品がどういうものなのかの説明が出てきた。


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 ●ワイバーン周遊カード

 移動用ワイバーン(収納能力あり)を複数回呼び出せる召喚カード。

 ワイバーンが使う大容量の収納魔法と、平均的な馬車の50倍の移動速度は流通業者に大人気

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 説明をみた感じだと……このカードは、貨物用飛行機と同じような役割をするワイバーンを呼び出せるもののようだった。


 俺には俺自身の収納魔法もあるし、高速移動ならヒマリがいるので、あまり使い道が無いものであるが……「流通業者に大人気」という文言が本当なら、農作物の流通を仕事とする人にこのカードをあげたりして恩を売ることができたりしそうだな。


 などと考えつつ、俺はカードを収納魔法でしまった。



 さて……これでようやく、目当ての品をドロップする魔物探しを始められるわけだな。

 昨日の通信中のヒマリ曰く、同一の魔物からは同一のアイテムがドロップするとのこと。

 つまり俺がこれからするべきなのは、新種の魔物にエンカウントする度に、倒して何がドロップするのかを確かめることというわけだ。


 ひとたび成長促進剤をドロップする魔物が分かれば、あとはそれと同種の魔物を狩りまくればいいということになる。

 それを目指して、ここやこの近辺の階層を探索していくとしよう。

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