第3話 ドラゴン相手に交渉してみる

 しかし……人の生活圏まで運んで欲しいということを、どう伝えればいいのだろうか。

 というか、この(おそらく)敵対的なドラゴン相手に、どう交渉を進めたものか。


 悩んでいると……ドラゴンが、次の手に出てきた。

 ドラゴンは大きく口を開け……口の中に、光の玉を形成しだす。


 たぶんアレ、ブレスとか打とうとしてるんだよな。

 あれはちょっと、どうにかして防いだ方が良いんじゃないか?


 そう思った俺は、開きっぱなしのスキル一覧から、防御に使えそうなものがないか探し始めた。

 スキルは50音順に並んでいるようなので、とりあえず防御スキルの代名詞と言ってもいい「結界」なんかがないか、ハ行(「飛行」があったところで開きっぱなしにしているため)からカ行に向けて遡っていく。


 すると……その途中、サ行まで戻って来たところで、俺は「結界」なんかよりもっと適してそうなスキルを見つけることができた。

 ——「術式崩壊」だ。


 ブレスを打たれてから防ぐよりは……そもそもブレスの発動自体を防いだ方がマシだろう。

 そもそもドラゴンのブレスが発動阻害できるものなのかは知らないが、まあ無理でも「e+68」のステータスで最悪の事態は免れられる気がするので、とりあえず試してみることにする。


「術式崩壊」


 唱えてみると……俺の右手からは光の球のようなものが出現し、ドラゴンの口元の玉に吸い込まれていった。

 すると直後、ドラゴンの口元の玉は、電灯の電源を切ったかのようにふっと消え去る。


 意外と上手くいったな。何でもやってみるもんだ。

 俺がそう思う一方……ドラゴンは、困惑したように目を泳がせ始めた。


「グオオオン?」


 そして、疑問形で何か言ってそうなトーンでドラゴンは嘶く。


 何と言っているのかは分からないが……少なくとも、敵意100%って感じではなくなったようだな。

 などと思っていると、ドライアドのうちの一匹がこんなことを言いだした。


「しんじられない、うそだー、だって!」


 まるでそのドライアドには……さっきのドラゴンの嘶きが、言葉として聞こえていたかのようだ。


 言葉が分かる……となれば、もしかしたら上手いことやればドラゴンと会話できたりするのか?

 そんな期待を抱きつつ、俺はドライアドにこう頼んでみた。


「ドラゴンの言葉が分かるなら、通訳してくれないか? ちょっと、交渉してみたいことがあるんだ」


「いいよー!」


 頼んでみると……そのドライアドは快諾してくれた。

 よし、じゃあとりあえず、ドラゴン語にしてもらう挨拶の文言をドライアドに伝えるか。


 そう思っていると……その時、俺の脳内にはこんなアナウンスが流れた。


<テイムしたドライアドが、スキル「言語自動通訳」を発動しました>


 ……言語自動通訳?

 一瞬意味が分からなかったが……その後ドラゴンが再度嘶いたことで、俺は何が起きたかを理解することとなった。


「あ……あり得ない! 我がブレスがニンゲン風情に消されるなんて!」


 今度はドラゴンの言葉が、意味のある言語として聞き取れたのだ。

 これってつまり……わざわざドライアドを介して喋らなくても、ドラゴンと直接やりとりできるようになったってことだよな。


「なあドラゴン、聞こえるか?」


 とりあえず俺は、こちらの発言も「言語自動通訳」でドラゴン語になるのかを試すべく、適当にドラゴンに話しかけてみることにした。


「……しかもこのニンゲン、我々の言語を喋ったぁ!?」


 どうやら、通訳は双方向のようだ。


 ここまで来れば、あとは言葉で説得するのみだな。

 まず俺は、単刀直入に自分の要望を伝えてみることにした。


「言葉が通じるなら……一つ頼みがあるんだ。俺を乗せて、空を飛んでもらうことってできないか?」


 残念ながら俺は営業担当ではなかったので、話術巧みに交渉するなんてことはできない。

 俺にできることといえば、このように率直にお願いごとをするだけだ。


 そんな俺の頼みでも、意を汲んでくれると助かるのだが……。

 しかし、どうもそうは問屋が卸さないようだった。


「我々の言語を喋れるのは百歩譲って良いとするが……だからって、ニンゲン風情が頼み事だと? ……崇高な生き物であるドラゴンのこの我に?」


 どうやら俺は、頼み事をしただけなのにドラゴンを怒らせてしまったようだ。


「……ふざけるなよ!」


「術式崩壊」


 かと思えば、ドラゴンはすぐさま二発目のブレスを用意しだしたので……咄嗟に俺は、スキルを発動してそれを防ぐ。


「崇高な生き物なら尚更、困っている者を助けてほしいのだが……」


「貴様というやつは……!」


 一応未経験なりに思いついた交渉術として、プライドの高さを逆手に取ろうとしたのだが……どうやら取り付く島もないようだ。

 やはり、素人が不慣れなことをやってみるもんじゃないな。


 このままではどうしようもなさそうなので、俺は方針を変えることに決めた。


「仕方ないな……」


 そう言って俺は、再びスキル一覧をスクロールし始める。

 ——このドラゴンに言う事を聞いてもらう・・・・・・・・・・のに、ちょうど良さそうなスキルを探すためだ。


 強硬手段に出ようと思った理由は二つ。

 まず一つ目は、それが正当防衛になる状況だからだ。

 効かなかったとはいえ、先に攻撃を仕掛けてきたのはドラゴンの方だからな。

 多少はやり返したとしても、俺が酷い奴ということにはならないだろう。


 そして二つ目の理由は、たとえ俺がこのドラゴンに頼らず自力で市街地にたどり着けたとしても、このドラゴンをシカトしていると街に迷惑がかかりそうだというものだ。

 例えば……俺が寝ている時に、俺が行き着いた街にブレスを落とされでもしたら、街の人々からすればいい迷惑だろうからな。

 これからお世話になるであろう人々のことも考え、今のうちに敵意を削ぐくらいはしてもいいんじゃないかと思ったのだ。


 そんなわけで、探していると……俺はちょうど良さそうなスキルを一つ見つけた。

 それは、「ナノファイア」というスキルだ。

 他にも、炎系と思われるスキルは「ファイア」「テラファイア」等いくつかあったのだが……おそらくこれが、威力としては最小だろう。


 いきなりデカいのを使って、威嚇のつもりがドラゴンを丸焼きにしてしまったり、あるいは森全体を焦土にしてしまったりすると悲しいからな。

 まずは小規模そうなのから試していこうというわけだ。


「どうしてもというなら、こちらにも考えがある。……ナノファイア」


 そう言って、俺はスキルを発動した。

 すると……俺の右手から、青白く輝く直径50センチほどの火柱が、空の彼方まで立ち昇る。


 ……あれ。ナノファイア、名前の割に強いスキルだったのだろうか?

 などと思っていると……ドラゴンは瞳孔を思いっきり開き、こう呟いた。


「あれは……伝説のラストアトミック・インフェルノ……!」

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