第12話 委員長は友達が少ない
……はぁー。やっと終わった。
放課後。俺は随分と疲れてしまった身体で、帰りの用意をしていた。えっと……コレは明日もあるから置いてていいな。コレも……
「ね、ねぇシュン君!」
ふと、ヒナノが俺に声をかけてきた。
「……」
黙ったまま俺は、周りから見えないようにクラシックパーム (カードを隠し持つコト)をしつつ、ヒナノにだけ見えるようにカードを見せた。もちろん種類はハートのエース。
こんな目立つ所で……しかもあんな出来事の後で、ヒナノと会話をする訳にはいかないのだ。
それでヒナノは「はっ」と理解したのか、すぐさま口を閉じて、教室から出て行った。察しの良い子で本当に助かるよ…………よし、準備終わり。
それじゃあ俺も屋上に向かうとしよう。
思って俺はカバンを手に取った……その時。
「……ちょっといいか。藍野」
「え?」
俺の名を呼ぶ、クールな声がした。こういうのをダウナー系と呼ぶのだろうか。分からん。
そんなことを思いつつ振り返ってみると、そこにはさっきまで教卓にいたメガネの女の子が立っていた。
「あっ、えっと……君は……?」
「……もしかして私の名前、分からないのか?」
「おっ……おっしゃる通りで……ごめんなさい」
というか、ヒナノと喋るのに慣れていて忘れていたけど……俺ってかなりのコミュ障だったわ。
そして少女は無表情で、何も言えなくなった俺に視線を向けてくる……いや、ホントごめんって。昼に食べなかったおにぎりあげるから……どうか命だけは。
「……そんな怯えるな。私の名前は
「あ……委員長なんだね」
「そう。それで文化祭の実行委員も任されてる……いや、雑用押し付けられたって言った方がいいかもな」
「は、ははっ。そうなんだ。ははっ!」
「……」
多分、ここは笑う所じゃなかったみたい。
「ええっとそれで……俺に何か?」
「ああ。さっきの藍野の発言に、お礼を言おうと思ってな」
「えっ、お礼?」
言われて俺は目を点にする。だって俺はそんなお礼を言われるようなことなんて……
「私も良くないと思っていたんだ。特に人の容姿をイジるような発言は特に……な」
「あっ……ああー」
ここでやっと、さっきの出来事の話だということに気が付いた。
「本来ならああいう場面は、私が注意しなければならないが……藍野が代わりに言ってくれた。その勇気に感謝するよ。ありがとな」
「い、いやいや! そんな褒められるようなアレじゃないですよ!」
ただ……ただ俺はヒナノをイジってるゴミ共が気に入らなくて……怒りに身を任せて机を蹴っただけなんですよ!
だから本当に褒められるようなことしてないんだよなぁ……
……というか、ヒナノの所に早く向かわなくちゃ。委員長には悪いが話を切り上げて、とっととこの場から離れよう。
「え、えっと、そうだ。俺、もう帰らなくちゃ」
「……待ってくれ。そんな藍野に相談したいコトがあるんだ。少しだけ時間を貰えないか?」
相談? 何で俺に……?
「でも俺、結構急いでて……ほら、他の人とかに頼めないの?」
「……私は友達が少ないんだ。あまり恥ずかしいことを言わせないでくれ」
「……」
あっ……ごめんなさい。
確かにこの子は美人さんだけど、喋り方に少しだけ棘があるからな……ちょっと怖い。だからあまり人が近付いては来ないのだろうな。
「それで……いいか?」
……ここまで言わせておいて断れるヤツは、勇者にでも転職した方がいい。
「……い、いいですよ?」
「助かるよ。藍野」
「……お安い御用です」
ごめんヒナノ。少しだけ待っていてくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます